銀行が住宅ローン、不動産投資などの不動産を担保にするローンを実行するとき、その評価を行う現地調査が欠かせません。現地調査を行う際のフローやチェック項目、その目的などを解説していきます。特にチェック項目の部分は実用的なので、物件を探している人、住宅ローンを検討している人にも参考になると思います。(金融ライター・加藤隆二、現役銀行員)
銀行のローン実行時の現地調査とは?
住宅ローンの審査は、借り主の年収や勤務先といった「ヒト」を調査するだけでなく、担保にする不動産という「モノ」も調査し、吟味する必要があります。
なぜなら銀行は、借り主がローンの返済をできなくなったときに担保にした不動産を売却(競売)して融資金を回収しなければならないからです。
つまり、銀行が不動産を担保にするときに「融資を回収するために売れるか?」という観点から値踏みをするのが担保評価であり、住宅ローンの担保評価を左右する要素を確認するには、銀行員が自分の目で不動産を確認する「現地調査」が欠かせないのです。
現地調査のタイミングは?
では、現地調査はどのタイミングで行われるのでしょうか。まずは、住宅ローン審査の流れを見てみましょう。
住宅ローン 申し込みから融資までの流れ
- 1、申し込み(事前審査)。銀行窓口やネットで申し込み
↓ - 2、事前審査がOKとなる
↓ - 3、【担保の現地調査】
↓ - 4、ローンの正式審査と担保の評価
↓ - 5、正式審査もOKとなれば、ローン契約をして融資が実行される
住宅ローンで申し込みがあると、まず属性(年収や勤務先、勤続年数などの情報)をもとに「ヒト」の審査を行います。これを事前審査(または仮審査)と呼び、属性以外にも、
・反社会的勢力ではないか?
・過去に返済できなかったなど個人信用情報に問題はないか?(いわゆるブラックリスト)
など、さまざまな確認事項をもとに調査を行います。
また担保にする不動産に関しても、この時点で書類によるチェックを行います。登記簿や公図、建物配置図などから登記内容に問題はないか、また道路や建築制限など、法的にもチェックしていきます。
これらは「机上調査(書類調査)」「法的調査」などと呼び、現地調査をする前に欠かせない準備作業となります。
そして事前審査に通ったら、次に行うのが担保不動産の現地調査です。言ってみれば、住宅ローン審査の第一関門が事前審査で、次なる関門が現地調査というわけです。
現地調査の流れ(手順)は?
銀行員が不動産担保の評価で現地調査する詳細な手順・方法については、融資の審査に関わる極秘事項ですので、残念ながらお話しすることはできません。
しかし現在では、一般的な現地調査の例などがネット記事でも紹介されていますので、ここではそれらを参考に、ギリギリお話しできる範囲で銀行員のノウハウも交えて解説していきます。
不動産担保評価における「現地調査」の流れは?
現地調査は、以下の3つのステップを踏んで行われます。
意外に思われるかもしれませんが、秘密裏に行うのではなく、所有者の承諾をもらって実施します。
1、調査の事前承諾
現地調査をする場合は個人情報の観点から、まず所有者の承諾をもらいます。許可を得ず調査すると、不法侵入で訴えられるなどトラブルの恐れがあるからです。アパートの現地写真を撮ろうとカメラを向けただけで、入居者が部屋から出てきて詰め寄られたというケースもあり、調査の事前承諾は最重要事項です。
2、原則として敷地内も調査
不動産を評価する際、物件を遠くから眺めるだけではわからないことも多いです。たとえば地盤の強弱なら調査員が足で地面を踏みしめて調べます。最近ではほとんど使われない言葉ですが、私が入社した30年前は現地調査を「実地調査」「実地踏査」と呼ぶほどでした。
また敷地内で登記されていない建物(未登記建物)が存在する場合、経験上、建物の裏などに隠れていることが多く、やはり敷地に踏み入らないと分かりません。しかし、当然ながら敷地内に立ち入ることを拒まれる場合もあり、その場合は精緻な調査ができなくなり、結果的に評価が下げられたり、最悪のケースでは「評価もできない」と担保評価がゼロになったりすることもあります(ただし地図サイトの衛星写真などで敷地内がわかれば評価する場合も)。
3、現地まで自動車で向かう
前回の記事「住宅ローン等で担保評価が低くなってしまう不動産とは? 物件選びでは『売れない不動産』は避けよう!」で説明した、道路や間口に関する「道幅4m以上の土地に2m以上接しているか?」などの評価要素を確認するには、実際に自動車で現地に向かい、車で土地に入れるかを確認するのが一番確実な方法です。
私の場合はちょうど幅2mの乗用車を使っていたので、この車で対向車と余裕ですれ違える道路なら4メートル以上、この車がスムーズに入れる土地なら間口2mはあると判断していました。ちなみに最近は、車幅による判断と、スマホの測量ソフトを併用しています。
「現地見学のチェックリスト」を参考にしよう
担保を現地調査する銀行員や、不動産の物件を調べる不動産業者などは、現地調査をするときに確認すべき細かいチェック項目が並んでいる「現地調査のチェックリスト」と言えるものをそれぞれ持っています。
また銀行員が使うチェックリストは、不動産担保である点を重視(不動産業者は売買を重視)したものになっているなど内容はさまざまです。
これらチェックリストは公開されていませんが、例えば、
- •土地は4メートル以上の道路に間口2メートル以上で接しているか?
- •周囲に騒音や悪臭が発生するなど、嫌悪される施設はないか?
- •建物はその地区の建ぺい率、容積率に違反していないか?
- •未登記の建物や、不法占拠者などはいないか?
- •隣地から塀や屋根などがはみ出てはいないか?
といった具合に調査をしています。実際にはさらに専門的で細かい内容になっています。
ちなみに一般の人が物件選びをするときの「現地見学のチェックリスト」といったわかりやすいものも公開されています。
チェック項目はあまり多くないですが、担保評価をしている銀行員が見ても「ポイントがよく押さえられている」と感じられる代物です。参考までに引用しましたので、興味のある人は目を通してみてください。
特に「不動産適正取引推進機構」の内容はかなり長いですが、不動産の売買について基本から丁寧に説明されているので、参考になると思います。
マイホーム購入の現地調査のポイント
大阪府が作成した「マイホーム購入のためのちょっとアドバイス/物件調査のポイント」が参考になるので、一部抜粋して紹介します。
現地調査は必ずやる(地図、巻尺、磁石など持参)
現地を見ずに契約して、後で悔やんでいる方を見かける。契約の前には、必ず現地を調査しよう。
1.現地調査は、2度以上すること。
住環境は、天候や曜日、時間帯で異なる。また、冷静に判断するための期間をおくことも必要。2.できるだけたくさんの人と一緒に調査すること。
3.ご近所や地元の人にもいろいろ聞いてみよう。
4.あらかじめ現地調査のチェックリストを作っておこう。
最低限、次の項目ぐらいは必ずチェックしよう。
・物件の状況は?(外観、間取り、隣地との境界など)
・交通の利便は?(通学、通勤など)
・住環境は?(日照、通風、敷地の方角、交通騒音、臭気、隣地の建設計画など)
・日常生活は?(買い物、病院、公共施設など)中古建物の購入の際には
建物は、築年数だけでなく、使用状況や管理状況により、随分と差が出てくる。購入する建物が中古物件であるときには、最低、次のような項目についても注意を払おう。
・建物の築年数は何年か。
・雨漏り、白アリなどの跡はないか。
・違反建築になっていないか(増築、改築により違反建築になっていないか。
・建築基準法上、再建築は可能か(建築確認の検査済証がなかったり、建築後に増改築している場合、建て替えに支障のある場合がある)。
・敷地内に、不自然な枡(ます)やマンホールはないか(他人の排水管や農業用水路などが敷地内に敷設されている可能性がある)。
・契約不適合責任(契約時にはわからなかったが、引渡しを受けてからわかる欠陥の責任を売主が負うもの)の期間。
・現状有姿の範囲(照明器具、冷暖房器具、植木などはどうなるのか、付帯設備一覧表により確認する)。
現地調査が必要な「もう一つの理由」とは?
銀行の不動産担保で担保を評価する以外に現地調査が必要なもう一つの理由は、「住宅ローンで手に入れた家に実際に住んでいるか」を調査する必要があるためです。これを「入居実態調査」と言います。
最近、「住宅ローンやフラット35を使って不動産投資をする」という事例が問題となっています。
住宅ローンは自宅を購入するための融資であり、投資用に使えないのは言うまでもありません。ところが一部の悪質な業者により、住宅ローンで住む家を購入すると偽装して、実際にはそこに住まずに他人に賃貸して家賃収入と金利差で投資をするという行為が横行しています。
住宅ローンを悪用して不動産投資することから「なんちゃって不動産投資」とも呼ばれているようですが、もちろんこれは偽装です。住宅ローンによる不動産投資の偽装をすれば、やがて銀行から疑われて過ごすことになりますし、いつかは必ずウソがバレて、一括返済を求められるなど大きなペナルティーを受けます。
郵便受け取りや、銀行からの連絡は放置してはいけない
偽装を疑われると、銀行員が現地調査にやってきます。
ただし調査と言っても、その家に住んでいるかを調べるのが目的なので、担保評価のときのように正面から堂々と訪問することはありません。事前連絡もせず、秘密裏に「調査」します。
こうした偽装では、ローンを借りた本人が担保の家に住んでいないので、郵便が配達されずに偽装が発覚するというケースが散見されます。
急な転勤などやむを得ない理由で一時的に家を空ける人などもいるでしょう。しかし、銀行からの郵便が届かなかったり、電話連絡してもつながらなかったりすると、疑われる原因となってしまうため、正当な理由がある場合はきちんと銀行に連絡するようにしてください。
銀行からの電話も、セールスの電話の時もあるでしょうが、面倒がらずに出たほうが(留守番電話なら折り返すなどした方がいい)いいです。
銀行員が現地調査までするのは「よほどのこと」です。疑われないよう、とにかく最新の注意を払いましょう。
参考:りそな銀行「紹介業者やその役職員による法令違反・不正行為について」、住宅金融支援機構「【フラット35】の不正利用に巻き込まれないために」
【関連記事はこちら】>>「独身男性、1K、頭金なし」は不動産投資ができない!? フラット35が不正利用摘発で審査を厳格化
>>フラット35を投資目的で不正利用した人の末路は? 一括返済できないと競売後に借金が残るケースも
銀行の不動産担保評価の基準も参考に!
今回はかなり、銀行の内情にまで突っ込んだなあと自分でも感じています。
銀行員である私が銀行の現地調査についてここまで詳細に語ったのは、記事を読んだ皆さまに、良い方向に使ってほしかったからです。
くれぐれも偽装の部分を「参考にして」自分も偽装などをしないように、と銀行員の筆者は願っています。
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