「マイホームを持つことが長年の夢だったけど、いまがラストチャンス」「老後を見据えてついのすみかがほしい」。そういった理由から、50代で家の購入を検討する人は増えてきています。50代で住宅ローンを組む際のポイントや注意点はなにか。現役の銀行員がお答えします。(金融ライター・加藤隆二、現役銀行員
50代でも住宅ローンを借りられるのか?
結論から言えば、50代でも住宅ローンを借りられます。年齢や職業、収入、勤続年数など、住宅ローン審査でチェックされる個人の属性が、各金融機関の条件に当てはまってさえいれば年齢は関係ありません。ただし、50代という年齢ゆえの注意点はいくつか存在します。
「申込時」「最終返済時」には、年齢制限がある
住宅ローンには、「申込時」と「最終返済時」にそれぞれ年齢制限がありますが、50代はその2つともクリアできます。申込時可能年齢は20歳〜70歳程度、最終返済時年齢については80歳程度に設定している金融機関が多いですね。
申込可能年齢 | 最終返済時年齢 | 団体信用生命保険の加入時年齢 | |
---|---|---|---|
メガバンク | 18歳以上70歳未満 | 80歳未満 | 公式サイトでは詳細不明 |
地方銀行 | 18歳以上 | 82歳未満 | 公式サイトでは詳細不明 |
ネット銀行 | 20歳以上65歳以下 | 80歳未満 | 20歳以上65歳以下 |
信用金庫 | 20歳以上70歳未満 | 80歳6カ月未満 | 公式サイトでは詳細不明 |
フラット35 | 70歳未満 | 80歳未満 | 15歳以上70歳未満 |
※金融機関公式サイトから筆者調べ。実際に検討する際は問い合わせをするなど、必ずご自身で確認してください
年齢と団体信用生命保険との関係
また住宅ローンとは別に、団体信用生命保険(以下、団信)にも加入年齢制限があります。50代は健康への不安も増えてくる年代なので、これは大事なポイントです。しかし、上表を見ると、公式サイトでは詳細不明な場合も多い。これはなぜでしょうか。例を挙げましょう。
ご利用になれる方
- お借入時の年齢が満18歳以上で、最終返済時の年齢が満82歳未満の方 ただし、「3大疾病保障特約付き団体信用生命保険」を選択される場合は最終返済時の年齢が満76歳未満、「引受条件緩和型(ワイド)団体信用生命保険」を選択される場合は最終返済時の年齢が満80歳未満となります
- 当行所定の団体信用生命保険に加入できる方
- 保証会社(横浜信用保証(株))の保証が受けられる方
上記は横浜銀行からの抜粋です。団信の加入年齢は明記されていませんが、『「3大疾病保障特約付き団体信用生命保険」を選択される場合は』という箇所を見ると、3大疾病といった特別ではない一般的な団信の加入年齢は満18歳以上満82歳未満だと推測できます。
このように表現が曖昧になっている理由は、生命保険は命に関わることであり、また銀行ではなく生命保険会社が取り扱う商品なので、説明が慎重にならざるをえないからです。
ちなみに、原則として団信の加入期間と住宅ローンの借入期間は同じになります。金融機関にとっても、住宅ローンを貸した人が死亡したときなどに「保険金でチャラになる」ほうがリスクを抑えられるからです。団信の加入年齢が公式サイトで明記されていない場合は、この原則に従って多くは住宅ローンの借入期間と同じだと考えてよいでしょう。
ただし、最近増えているがんや成人病などに特化した特別な団信は、一般的な団信より加入年齢が短い場合があり、これに連動して借入期間も短くなるのが主流ですので、検討の際は注意しましょう。
一方で、ネット銀行の場合は事情が少し異なります。
上記はSBI新生銀行からの抜粋です。横浜銀行と違い、団信の加入年齢がはっきりと明示されています。ネット銀行は基本的に非対面で住宅ローンの説明や申し込みを進めるので、公式サイトに記載しなければ団信の説明ができないからです。誤解してほしくないのは、必ずしもネット銀行が丁寧で、ほかの金融機関が不親切というわけではありません。
どちらの場合でも、団信の加入年齢については自分でしっかり確認することが大切です。
50代で住宅ローンを借りる時のポイントと注意点
続いて、50代で住宅ローンを借りる時のポイントと注意点を、それぞれ3つずつ解説します。
ポイント1:ある程度、自己資金がある
50代になると、個人差はあれど、ある程度は貯蓄のある人が多いはずです。それを自己資金として使うことで、住宅ローンの借り入れ額を少なくできます。しかし、これは裏を返すと「自己資金のない50代が住宅ローンを組むのは難しい」ということです。
公的統計でも、50代の平均貯蓄額は約1200万円弱、中央値でも600万円というデータがあります(※)。もちろん、この数字が必ずしも現実を反映しているとは思いませんが、ローンの審査をする銀行側も、少なからず「50代なら、それなりにお金を持っているだろう」という固定観念を持っています。50代で住宅ローンを申し込む際には、ある程度の自己資金が必要だと心得ましょう。
※出典 日本銀行・金融中央広報委員会/暮らしに役立つ身近なお金の知恵・知識情報サイト「知るぽると」/家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](平成19年~令和2年)
ポイント2.それなりに「借金の実績」がある
50代なら、年齢的にも一度はローンやクレジット、割賦販売を経験しているでしょう。こうしたいわば借金の経歴は「クレジットヒストリー」と呼ばれ、住宅ローン審査でも重要視されます。問題のないクレジットヒストリーが積み重なっている人は、当然、プラス評価です。ちなみに、借金が嫌いで現金・一括払いしかしないという人は一定数おり、そのようなクレジットヒストリーを持つ人は、俗に「スーパーホワイト」と呼ばれます。
逆に、滞納や自己破産などの事実がある人は、「異動事項」「金融事故」などと呼ばれ、いわゆるブラックリストに載っていることになり、そもそも住宅ローンを申し込むことはできません。
ポイント3.住宅ローン審査を突破する「実力」がある
ここまでの2つのポイントを総合した50代をイメージすると「仕事でもそれなりの地位にあり、収入や貯蓄もそこそこ安定していて、ローンや分割払いも問題なく返してきた」人となります。
こういった人なら、住宅ローンで審査される年収や勤続年数、個人信用情報といったハードルを超える「実力を備えている」と言えます。
注意点1.「最後に家をどうするか」を考える必要がある
50代で住宅ローンを組む場合、考えなければならないのが、購入した家を最後にどうするかです。
これは人それぞれで、たとえば自分やパートナーが死亡した場合は、子供がいれば相続、または売却することになるでしょう。
また、介護施設などに入所することになり、ほかに住む人がいないときはどうすればよいでしょうか。住宅ローンはそこに住み続けることが大前提なので、長期間空き家の状態では済まなくなる時が来ます。50代でローンを組む人は、自分たちの最期だけでなく、「自宅の最後」や「自宅の終活」についても考えておく必要があるのです。
注意点2.「返済に困ったとき」の備えが必要
50代に限ったことではありませんが、急な病気で長期入院すればローンが払えなくなる可能性もありますし、このご時世、早期退職勧奨やリストラなど収入が途切れるような事態もゼロではありません。50代だからこそ「すぐそこにある現実のリスク」として、不測の事態に対する対処法をいろいろと考えておく必要があります。
たとえば「収入保障保険」「医療保険」といった保険の備えや、貯蓄・金融資産の形成、会社の貯蓄制度や年金を調べて記録しておくことをおすすめします。
注意点3.「自己資金」が重要
繰り返しになりますが、50代でローンを組む場合、自己資金ゼロでの借り入れは現実的ではありません。年齢とゴールを考えるなら、自己資金を少しでも多く出して借入額を少なくするか、定期的に繰上返済をする、あるいは退職金での完済を行うなど、計画的に「住宅ローンのゴールまでのタイムライン」を考えておく必要があります。
50代で住宅ローンを無理なく返していくには?
では、50代で住宅ローンを借りても、無理なく返済していくにはどうすればいいか。いくつかの対策を紹介します。
対策1、借入時に自己資金を多く出す
当然ですが、借りる金額が少なければ、返済する金額(元金と利息)も少なくなります。
そこで、自己資金を多く出した場合と、自己資金ゼロの2ケースをシミュレーションで比較してみました。「65歳時点のローン残額」も示していますので、退職金で返せる金額かなどをイメージしながら見てください。
<住宅ローンの自己資金・出した場合と出さなかった場合の比較表>
・満50歳の人が3,000万円の物件購入で住宅ローンを借りた場合の、自己資金ゼロ、自己資金1000万円を比較
・返済年数25年(300回)・ボーナス返済なし
・金利は1.73%(フラット35の金利を参考)最終回まで金利は変わらないと仮定。手数料ゼロ円
① ローン3,000万円 自己資金ゼロ |
② ローン2,000万円 自己資金1,000万円 |
差額(①ー②) | |
---|---|---|---|
毎回返済額 | 12.3万円 | 8.2万円 | 4.1万円 |
年間返済額 | 147万円 | 98万円 | 49万円 |
総支出額(完済時) | 3697万円 | 2464万円 +1000万円 |
233万円 |
65歳時の残高 | 1294万円 | 904万円 | 390万円 |
※日本銀行・金融中央広報委員会「知るぽると」/【しっかり】借入返済額シミュレーションの公開シミュレーションを使用して筆者が計算
あくまでシンプルな比較ですが、それでも自己資金を出すか出さないかで、毎月4.9万円の差、総支出額なら233万円もの差が生じることがわかります。
また定年を迎えるであろう65歳時点の住宅ローン残高は、1294万円(自己資金ゼロ)と904万円(自己資金1000万円)と、390万円もの違いになります。
対策2、繰上返済と退職金を使って減らす
次に、定期的に繰上返済していく方法を紹介します。ここでは繰上返済の金額に応じて返済回数が減り、完済のゴールが近づいてくることをシミュレーションしながら確認しましょう。
・満50歳の人が自己資金を出さず3000万円の住宅ローンを借りた
・返済年数25年(300回)・ボーナス返済なし
・金利は1.73%(フラット35の金利を参考)で、最終回まで金利は変わらない
この場合に「15年経過(残り返済年数は10年)した段階で繰上返済した金額で返済年数は何年縮まるか」を試算してみました。
・100万円繰り上げ返済すると、残り返済年数は9年3カ月で9カ月短縮
・500万円繰り上げ返済すると、残り返済年数は6年2カ月で3年10カ月短縮
・1,000万円繰り上げ返済すると、残り返済年数は2年6カ月で7年6カ月短縮
※日本銀行・金融中央広報委員会「知るぽると」/【しっかり】借入返済額シミュレーションの公開シミュレーションを使用して筆者が計算
銀行員としては、やはり退職金もある程度は頼りにすべきだと考えます。しかし、会社の制度は変わる可能性がありますし、実際にもらってみるまで退職金がいくらになるかわからないというリスクもあると思います。
とはいえ、(私もそうですが)「退職金を狙って」運用を提案するのが銀行です。退職金は大金なので、その使い道はよくよく考えて行動すべきでしょう。
【関連記事はこちら】>>アラフィフ(50歳前後)からの住宅ローンは、なぜ80歳まで借りるべきなのか?
対策3、リバースモーゲージも選択肢の一つ
リバースモーゲージとは、主に高齢者を対象にしたローンで「自宅を担保にお金を借り、毎月の支払いは利息だけ。本人が死亡したら、担保にした不動産を売却してローンを返す」というものです。
自宅は住宅ローンと同じように担保になりますが、そのまま住み続けることができるのは住宅ローンと一緒。住宅ローンの返済が重荷になってきた場合や、まとまったお金が必要になった場合などにも利用できます。
もちろん、リバースモーゲージもローンの一種なので、住宅ローンが残っている場合の対応や、自分が死亡した場合の対応など確認すべきことは多々あります。参考までに、リバースモーゲージを3例ほど紹介します。
◾️みずほ銀行・『みずほ リ・バース60』
- 年齢:申込時の年齢が満60歳以上
- 借入金額:100万円以上8,000万円以内(1万円単位)
- 借入金利(2023年7月1日現在)
変動金利:年2.475%
固定10年:年2.65%、固定20年:年2.95%
◾️りそな銀行・リバースモーゲージローン『あんしん革命』
- 年齢:契約時年齢が50歳以上
- 借入金額:100万円以上1億円以内(10万円単位)
- 借入金利(2023年7月1日現在)
変動金利 年3.475%~年4.975%
◾️東京スター銀行・リバースモーゲージ『充実人生』
- 年齢:契約時年齢が55歳以上84歳以下
- 借入金額:300万円以上1億円以内(10万円単位)
- 借入金利
変動金利 年3.250%〜年4.250%
【関連記事はこちら】>>急増するリバースモーゲージ、リースバックを比較!
まとめ
50代で住宅ローンを組む場合に必要なのは、ゴールを見据えて将来を展望する意識が、若い世代と比べると、より必要になるという点です。
自己資金を多く出して借り入れを抑えるか。定期的な繰上返済で借入年数を短縮するか。
悩みどころは多いですが、ローンを完済できれば、今度は自宅を有効活用して資金調達し、さまざまな用途に使うことも考えることができます。家の購入は人生最大の買い物とも言われますので、慎重に考えましょう。
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淡河範明さん
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