住宅ローンを夫婦などで一緒に借りる「ペアローン」が年々増加しています。この新しい仕組みを私は応援したいのですが、同時に注意すべき点もあります。そこで今回はペアローンの典型的な破綻事例と、夫婦関係が破綻しても家を残した稀有(けう)なケースを、住宅ローンを扱う銀行員が解説します(金融ライター・加藤隆二、現役銀行員)
離婚して自宅を手放すことになってしまった~A子さんのケース
まず初めに、銀行員の私が仕事の中で体験した、ペアローンに関連するトラブルの事例を紹介します。
A子さんのケース
- 1、A子さん(女性・会社員)とBさん(男性・会社員)の共働き夫婦・ペアローンでそれぞれローンを借りて返済していたが離婚
↓ - 2、話し合いの結果、Bさんは家を出ていき、子供はA子さんが育てることに
↓ - 3、裁判や調停などはせず、弁護士なども間に立っていないので、慰謝料は発生しない
↓ - 4、Bさんが子供の養育費と、Bさん分の住宅ローンを引き続き支払う(A子さんに振り込む)という約束になった
↓ - 5、離婚して1年が経過した頃、Bさんからの支払いが遅れ始めた
A子さんはBさんに約束通り払ってほしいと言ったが、いろいろと理由を聞かされ支払ってもらえず、やがて連絡も取れなくなった。
↓ - 6、A子さんは自分の給料や実家の援助などでなんとかやりくりしていたが、家計や子供の養育があるうえに、1人で2人分のローンを払うのが大変になる
↓ - 7、手持ち金も底をつき始めた頃、銀行窓口の私に相談があった
これは実際によくあるケースで、なにかのきっかけ(往々にして返済が遅れはじめたなど)で事情をうかがうと、「実は…」と説明していただくことで状況が判明するといったパターンです。
離婚したことなどは誰でも他人に話したくないものですし、また住宅ローンの返済が1回でも遅れると銀行に家を取り上げられるのではと、A子さんは一人で悩んでいたそうです(もちろん、1回返済を滞納したからといって銀行に家を取り上げられるようなことはありません)。
ただし、このケースのように離婚してどちらかが家を出たと判明した、あるいは出ていくと前もって相談を受けたなどの場合、銀行は「ハイわかりました。ではこのまま引き続き返済してくれればいいですよ」とはいきません。
なぜなら、それが住宅ローンを借りるときの契約事項だからです。上記のケースのような場合には原則として全額返済を求めることが、「住宅ローン規定、契約約款」などに記載されています。とはいえ、実務面は一括返済という厳しい対応より先に、ローンの種類を「投資用ローン」「事業用ローン」などに変更して、住宅ローンよりは高い金利での返済をお願いするというケースもよくあります【参考①】。
ここで紹介したような事例を、私は銀行員として数え切れないくらい対処してきました。
A子さんのケースでは結局、住宅ローンを滞納し、自宅が担保処分として競売にかけられ、最終的には家を手放すこととなってしまいました。
通常の住宅ローンでも同じことは起こりますが、ペアローンの場合は物件が高額であることが多いため、より深刻なトラブルが発生しやすいのです。
【参考①】楽天銀行住宅ローン約款/第13条期限前の全額返済義務
2.債務者等(債務者又は連帯債務者のいずれか一人)について次の各号に掲げる事由のいずれかに該当し、(中略)当行から請求したときは、本契約に基づく債務の全部又は一部につき期限の利益を失い、借入要項に定める返済方法によらず、直ちにその債務を返済するものとします。(筆者中略)
(8) 当行に届け出ないで取得対象住宅に債務者又は連帯債務者のいずれも居住せず、又は当行の承諾を得ないで取得対象住宅の全部又は一部を住宅以外の用途に使用したとき(筆者後略)
ペアローンとは?
そもそもペアローンとは、夫婦・パートナー同士でそれぞれローンを組み、合計して一つの土地や家、マンションを購入することです。親子や婚約者でペアローンが組まれる場合もあります。
文字で説明する前に、まずは算数・数学の問題的な表現で考えてみましょう。
<住宅ローンの借り方〜1億円の家を買うとき>
- ・「Cさんが1億円借り、保証会社か連帯保証人を付ける」:よくあるローン
- ・「CさんとDさんが2人で1契約・1億円のローンを借りる」:連帯債務
- ・「Cさんが1億円借り、Dさんは収入面でサポート」:収入合算(連帯保証)
- ・「Cさんが5千万円借り、Dさんも5千万円借りる」:ペアローン
1つの物件に対し「夫婦・パートナー同士が、それぞれ契約者として住宅ローンを組む」ので、ペアローンの住宅ローン契約は2つになります。
なお、「1つのローンで債務者が2人」の連帯債務では、住宅ローン契約はあくまでも1つとなります。ここがペアローンとの違いです(細かな違いや収入合算についてなどは記事のテーマから離れるので省略します)。
【関連記事はこちら】>>共働き夫婦が住宅ローンを借りるなら、 「連帯保証」を選んでいけないのはなぜ? 連帯債務、連帯保証、ペアローンを徹底比較!
今や、3割がペアローン!
記憶する限り、ここ10年くらいでペアローンは社会へ浸透していきました。
私が銀行に入社(約30年前のバブル期)する以前から最近まで、「夫の年収で住宅ローンを借りる。妻の収入を合算することもある」といった形が、住宅ローンのモデルケースでした。ペアローンは住宅ローンとしては新しいカタチの一つで、登場してから増加し続けています。
近年は特に高い水準で推移しており、2018年から2022年までの5年間、ローン契約全体の3割がペアローンです【参考②】。
また、ペアローンは若いほど利用率が高く、20~29歳の年齢層は21%で、全体平均値9%の2倍以上となっています【参考③】。
ペアローンの増加は共働き世帯の増加と足並みをそろえており、この傾向は今後も続いていくことでしょう。
【参考➁】リクルート/SUUMOリサーチセンター/2022年首都圏新築マンション契約者動向調査
【参考③】三井住友トラスト・資産のミライ研究所/2022年/住まいと資産形成に関する意識と実態調査
ペアローンのメリット・デメリット
続いて、ペアローンのメリットとデメリットを解説します。
メリット:大きく借りることが可能
1人より2人のほうが、大きく借りることが可能になります。「1人で組む住宅ローンの2人前」(収入の大小などで、必ず2倍とは限りませんが)なので、大きな額を借りることのできる可能性が高くなるのです。
また、所得税の住宅取得控除(いわゆる「住宅ローン減税」)も2人でそれぞれ受けられるのでメリットが発生する場合もあります。
デメリット1:働き方や収入の増減で返済が苦しくなるかも?
ペアローンを組んだ場合で、出産や産休・育休(配偶者の育休も)などで収入が減ると、もともとそれぞれが自分のローンを返済するという「並走」状態が続けられなくなり、住宅ローンの返済が大きな負担になる可能性がある、という点がデメリットの一つです。
他にも転職やリストラ、勤務先の倒産など、収入が急に減少するリスクがあります。単独で借りる住宅ローンも同じリスクを有していますが、「ペアローンは2人で借りるので、収入が減って返済が苦しくなるリスクも2倍」とも言えるのです。
デメリット2:離婚のリスク
ペアローンにおけるもう一つの大きなデメリットとして、離婚や引越しなどのリスクがあります。典型的な事例が冒頭のA子さんのケースです。
婚姻・パートナーシップ関係の解消となった場合に「家はどうする?」「ローンはどうする?」といった問題が立ちはだかることとなります。
結婚や離婚は個人の自由意思ですので、それ自体は良くも悪くもありません。ですが、ペアローンで住宅ローンを借りて家を買った場合には、いろいろなトラブルや悩みが出てくるわけです。もちろんこの点は、単独ローンでも同じですし、離婚以外にも死別などのケースが考えられます。
デメリット3:相手の滞納でも、自宅全部が競売に
ローンの返済が遅れた場合、ペアローンでは2人に対し平等にリスクがあります。ペアローンで家を手に入れたということは「ローンは2人分、でも家は1つしかない」という事実が重くのしかかってくるのです。
住宅ローンでは担保となる不動産が共有ならば、共有する人を「担保提供者」として連帯保証人にします。ペアローンの場合は「収入が2人分」という前提からも、それぞれが相手の保証人になっています。
このようにそれぞれ担保を提供し、それぞれが保証人になっている状態を「相担保・相保証(あいたんぽ・あいほしょう)」と銀行では呼びます。「相(あい)」は相互という意味合いで、ペアローンはまさにこの状態なのです。
そのため「相手が返済を滞納していても、自分はしっかり返済しているから関係ないや」というわけにはいきません。相手の連帯保証人になっているので、返済義務は相手(債務者)と同等であり、相手が返済を滞納しているということは、自分が滞納しているのと同じなのです。
相手が繰り返し滞納した場合、自分にも督促連絡や督促文書が送られてくる可能性があります。それ以前に自宅の共有持ち分に対する住宅ローンが滞納しているのですから、そのまま滞納が重なった場合には自宅全部を競売にかけられる可能性もあると考えなければなりません。
ペアローンにおける財産分与の考え方
一般的に、離婚することになった場合、家や預貯金などの財産も夫婦が協力して作り上げてきたと考え、別れる2人の間で分け合うというのが「財産分与」という考え方です。ハリウッドスターなどの離婚に際して「財産分与額が◯◯億円」などと話題になることでも知られています。
この財産分与の事情がペアローンの場合は異なってくることがあります。ペアローンを組んだカップルは、それぞれに収入があったわけです。2人で協力して財産を作ったというよりも、それぞれがそれぞれの財産を作ったと表す方が近いでしょう。そうなると、離婚時に財産分与で相手の持ち分を受け取れるケースばかりではなくなるのです。
【関連記事はこちら】>>離婚後も「持ち家」に住み続けたいなら、夫婦でどのように財産分与すればいい?~離婚問題に詳しい弁護士が解説~離婚と「わが家」シリーズ 第3回
こうしたケースでは、家に残る側が出ていく側の持ち分を買い取るという選択肢があります。とはいえ、実際に売買するわけではなく、相手が持っている持ち分と引き換えに、相手のペアローン残額も引き受けるといった流れです。これが「負担付贈与」という考え方で、受け取ったモノ(ここでは住宅の持ち分)と負担したモノ(相手のペアローン残額)を比べて、受け取ったモノが多い場合には贈与税の対象になる可能性もあります【参考④】。
このように税金の面でも注意が必要になるため、負担付贈与などを考える際には税理士や弁護士など専門家に相談した方がいいと思われます。
【参考④】国税庁/タックスアンサー(よくある税の質問)/No.4426 負担付贈与に対する課税
相手のローンまで完済した母~E子さんのケース
最後に、ペアローン関連のトラブルを解決する見本とも言えるE子さん(女性・会社員)の事例を紹介します。
E子さんも夫婦でペアローンを借り、夫が出ていったところまでは冒頭A子さんと同じでした。しかし、そこから先が大きく異なっていたのです。
「家と子供を守るため、夫の自宅持ち分を負担付贈与で自分のものにする」と決めたE子さんは、弁護士に相談したうえで、銀行に来店(弁護士同席)されました。
その際にE子さんは、
・贈与税の対象にならない方法など、弁護士が紹介した税理士に相談して税金面も確認済み
・自分のローンにプラスして相手のローンまで返済可能な計画を自作して持参
といったように、しっかりと準備をしたうえで来店されたのです。
E子さんの収入で2人分のローンを返済するのは返済比率的に厳しいと思われました。しかし、E子さんは「実父(公務員で預金もそこそこあり)を保証人にしてでも対応して欲しい」とのこと。
私はあまりにもしっかりしているE子さんに驚き、感心し、最後には応援したくなりました。
そんなE子さんも最初はどうしていいかわからなかったそうです。しかし、「自分が動かなければ家も子供も、自分もダメになる」と一念発起したと話されました。また、弁護士は実父の紹介によるもので、いろいろとE子さんの相談に乗ってくれたとのことでした。
最後には自分と夫の2人分のローンを完済したE子さん。まさにペアローンのトラブルを解決する見本とも言える事例で、いつか機会があれば読者の皆さんに伝えたいと考えていました。
まとめ
今回はペアローンについて、銀行員として解説をしてきました。
文中でも述べましたが、2人で借りるペアローンは、ローンも2人前ならリスクも2人前なので注意しなければいけないこともあります。
しかし、注意点を認識して「ペアローンで幸せは2人前どころかそれ以上」になってほしいと、ペアローンを扱う一人の銀行員として考えています。
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