契約期間が満了すると原則として更新されない「定期借家」。居住期間が決まっている人にとっては、普通借家より家賃が安い物件を見つけられる可能性がある。一方、近年は定期借家の募集割合が上昇し、エリアや面積帯によっては普通借家よりも平均募集家賃が高くなっている。定期借家と普通借家の違いや、最新の募集家賃データから、物件選びで注意したいポイントを確認する。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
定期借家は原則として契約の更新ができない
賃貸住宅の契約は、大きく普通借家と定期借家に分けられる。普通借家は一般的な賃貸借契約で、例えば2年間の契約期間が満了しても、貸主側に更新を拒絶する正当事由がなければ、借主は住み続けることができる。図表1に普通借家と定期借家の主な違いを示す。
図表1:普通借家と定期借家の主な違い
普通借家では、貸主が建て替えや売却を希望していても、それだけで契約の更新を拒めるとは限らない。借主の居住の安定を守る仕組みが設けられているためだ。
一方、定期借家は契約で定めた期間の満了によって終了し、原則として契約の更新がない。ただし、貸主と借主が合意すれば、新たに契約を結ぶ「再契約」により住み続けることは可能だ。
また、契約期間が1年以上の場合、貸主は原則として期間満了の1年前から6カ月前までに、契約が終了する旨を借主へ通知する必要がある。通知が遅れた場合、貸主が契約終了を借主に主張できる時期も遅れる。このように、定期借家でも契約終了に当たっては所定の手続きが必要となる。
貸主・借主双方にメリットがある定期借家
定期借家は1年未満の短期契約も可能で、数年後に自宅へ戻る予定のある貸主や、建て替えを予定する貸主にとって、貸し出す期間をあらかじめ決められるメリットがある。
借主にとっても、転勤や進学などで半年後、1年後といった退去時期が決まっている場合には、選択肢の一つになる。契約の更新がないという制約を踏まえ、近隣の条件が似た普通借家よりも家賃が低く設定される物件が見つかる可能性もある。
ただし、定期借家なら一律に家賃が安いわけではない。物件の立地や設備、築年数、契約期間などによって条件が異なるため、家賃の安さだけでなく、退去時期や中途解約の条件まで確認しておく必要がある。
東京23区の70㎡超マンションでは3件に1件が定期借家
不動産情報サービスのアットホームが公表した「2025年度『定期借家物件』の募集家賃動向」によると、2025年度は定期借家の募集割合が首都圏の全対象エリアで前年度より上昇した。特に東京23区の賃貸マンションでは、面積帯を問わず上昇が目立っている(図表2)。
図表2 首都圏賃貸マンションにおける定期借家の割合(単位:%)
専有面積70㎡超の大型ファミリー向けマンションでは、首都圏全体の定期借家割合が2020年度の19.4%から2025年度には25.4%に上昇した。2025年度の東京23区では34.9%となり、同面積帯の募集物件のおよそ3件に1件を占めている。
23区以外では、東京都下や千葉県、埼玉県では定期借家の割合は10%台で、神奈川県は20%台となっている。
定期借家は契約満了時に家賃が見直されやすい
定期借家は、転勤中の自宅を一定期間だけ貸す場合や、建て替え予定のある物件を貸し出す場合などに活用できる。さらに貸主にとっては、契約満了後に再契約する際、新たな契約条件として家賃を提示できる点も特徴だ。
普通借家でも家賃の改定が認められる場合はあるが、借主との合意が得られなければ、借地借家法に基づく賃料増額請求の要件や手続きが必要になる。一方、定期借家は契約満了を区切りとして再契約の条件を検討できる。ただし、契約中の家賃改定や、再契約が成立するかどうかは、個々の契約内容や当事者の合意による。
賃料相場が上昇するなか、こうした条件の見直しやすさが貸主にとって定期借家を選ぶ理由の一つになる可能性はある。ただし、募集割合が増えていることだけをもって、家賃の引き上げを目的とした契約が増加したと断定することはできない。
アットホームの調査によると、マンションではほとんどのエリア・面積帯で定期借家の上昇率が普通借家を上回った(図表3)。
図表3 首都圏賃貸マンションにおける定期借家と普通借家の平均募集家賃の前年度比上昇率(単位:%)
ただし、普通借家との上昇率の大小関係はエリアや面積帯によって異なるため、定期借家のほうが一律に高い上昇率を示しているわけではない。
定期借家の平均家賃が高く見える理由
借主側からみれば、定期借家は再契約が保証されないというデメリットがあるため、入居希望者が限定される。それもあって、定期借家契約が成立しやすいのは立地や仕様レベルが高い物件に限られる傾向が強まる。
実際に東京23区の賃貸マンション全体における定期借家割合は5年連続で上昇して9.2%に達している。
特にファミリー向き(50㎡超~70㎡以下)で見ると、港区では37.5%、千代田区でも26.0%に達するなど都心部ほど高い一方、周辺区には5%未満のエリアもあるなど、高い家賃を払っても立地の良い良質な賃貸に住みたいと考える人が多い都心のハイグレード物件に定期借家が多くなる傾向がある。
その結果、「定期借家は普通借家より賃料が安い」というこれまでの常識が変わりつつある。
2025年度の賃貸マンションの家賃を定期借家、普通借家別にみると図表4のようになっている。
図表4 首都圏の賃貸マンションにおける50㎡超~70㎡以下の契約形態別・エリア別平均募集家賃(単位:円)
※平均募集家賃は賃料に管理費・共益費等を加えた金額。集計期間は2025年4月~2026年3月。
ファミリー向き(50㎡超~70㎡以下)で見ると、首都圏のどのエリアにおいても、普通借家より定期借家のほうが平均募集家賃が高くなっている。
特に東京23区でその傾向が顕著で、50㎡超〜70㎡以下では普通借家が22万9034円に対して、定期借家は30万4572円と7万5538円も高くなっている。東京都下や神奈川県、埼玉県、千葉県においても、程度の違いはあれ、定期借家のほうが普通借家より高い。
ただし、これは募集物件全体の平均募集家賃の比較であり、定期借家そのものが普通借家より割高であることを示しているわけではない。同じ面積帯でも、駅からの距離や築年数、設備の水準、物件の広さの分布などは異なる。定期借家に家賃の高い物件が多く含まれていれば、平均募集家賃も高くなる可能性がある。
つまり、定期借家と普通借家のどちらが割安かを判断するには、できるだけ立地や広さ、築年数、設備などの条件が近い物件同士で比較することが欠かせないというわけだ。
定期借家を選ぶ際は家賃だけでなく契約条件も確認を
定期借家は、契約期間が満了すると原則として更新されないため、同じ住宅に長く住み続けたい人には向いていない面がある。一方、転勤や進学などで居住期間が決まっている場合には、選択肢の一つになる。
ただし、定期借家だからといって、必ずしも家賃が安いわけではない。アットホームの調査でも、首都圏マンションにおいては東京都下のカップル向きを除いたほとんどのエリア・面積帯で、普通借家より定期借家の平均募集家賃が高い。
物件を探す際には、同じエリアにある条件の近い普通借家と家賃を比較するとともに、契約期間や再契約の可能性、中途解約の条件などを確認しておくことが重要だ。
なお、定期借家であっても床面積200㎡未満の居住用建物であれば、転勤や療養、親族の介護などやむを得ない事情によって生活の本拠として使用することが困難になった場合、借主から1カ月前の申し入れにより中途解約できる旨が法律(借地借家法第38条)で定められている。
また、契約締結前には「更新がなく期間満了により契約が終了する」旨の書面(または電磁的記録)による事前説明が義務付けられているため、契約内容の説明を確実に受けて理解したうえで判断したい。
特に契約期間を超えて住み続ける可能性がある場合は、再契約が保証されていない点を十分理解したうえで検討することが大切だ。
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