住宅ローンの変動金利と固定金利は、住宅価格の高騰と追加利上げの局面においてはどちらを選ぶのが得なのでしょうか。2024年5月時点の金利動向を踏まえ、変動金利か固定金利のどちらを選ぶべきかを解説します。(住宅ローン・不動産ブロガー 千日太郎)
住宅価格高騰下、変動金利の上昇リスクも顕在化してきた
こんにちは、公認会計士の千日太郎です。
不動産価格は高騰を続けており、東京都心のみならず地方都市の一見普通のマンションでも、もはや1億円を超える物件は珍しくもありません。一部の銀行で住宅ローンの期間を50年まで延長している背景には、家を購入するボリュームゾーンである30代の収入では、35年を前提として買える物件が減ってきているからだとも言えるのです。
さらに、2024年3月には日銀がマイナス金利政策を解除し、5月には一部の銀行が変動金利の基準金利を0.1ポイント上昇させています。
住宅価格が高騰している環境下では、少しでも低金利の住宅ローンを利用したいところですが、最も金利の低い変動金利タイプは、金利上昇リスクが顕在化してきているのです。
すでに市場では追加利上げの時期と金利の引上げ幅に話題が移っています。
今後、変動金利が何パーセント上がれば、固定金利(フラット35)が得になるのか? というラインについては、前回の記事「変動金利VS フラット35! 「子育てプラス」で得をする金利上昇シナリオとは?」で詳しく解説しました。
では、今の時点で「自分が変動金利と固定金利のどちらを選べばいいのか?」を判断するときの切り口について、ここでまとめておきたいと思います。
結論1:変動金利と固定金利どちらが得かは、ローンの「完済」がポイント
身も蓋もないのですが、変動金利と固定金利のどちらが得になるか? については住宅ローンを「完済」するまでわかりません。
ただし、この「完済」というのがミソでして、一般的には住宅ローンの返済期間は35年とされており、完済は35年後と思う人が大半だと思います。
しかし、住宅金融支援機構が発表している「2019年度 民間住宅ローンの貸出動向調査」によると、平均15.7年で住宅ローンが完済されているのです。
これは、完済には住み替えや借り換えが含まれるからです。住み替えや借り換えのタイミングでも住宅ローンを精算するので、変動金利が得だったのか、固定金利が得だったのかを判断できるということです。
住み替えの可能性を想定するなら、変動金利
変動金利を選ぶ場合は、住み替えによって所定の35年よりも早く住宅ローンを完済する可能性について検討すべきです。
その場合は、今から購入しようとしている物件を売却して住宅ローンを完済することになります。
新居を住宅ローンで購入する場合は、住み替えたいと考えているタイミングで今の家が売却できて、かつ、住宅ローンを完済できるのが理想ですね。
まとめると、以下の2点を兼ね備えた物件が望ましいということになります。
- ①売りたいと思ったら比較的すぐに買い手が付くこと
- ②売り値で住宅ローンを完済できること
つまり、非常に流動性の高い物件ということです。まず、都心のマンションであれば①に該当すると思います。
②については物件によるとしか言えないのですが、マンションや大手不動産のニュータウンのように、立地や性能面で同質な物件が集合しているものであれば、同様の売買事例が豊富にあり、売却可能価格をかなり精密に予想することができます。
つまり、リセールを重視して都心部のマンションや大手不動産のニュータウンを購入する人は変動金利に適していると考えて良いと思います。
むろん、これから購入するマイホームですから、誰しもすぐに売ろうとは考えないと思います。
しかし、統計的には前述のように15年程度が完済までの平均期間であることからすると、10年程度で売却する人も決して少数派ではなさそうです。
このような考え方がしっくりくる人であれば、多額の住宅ローンを金利上昇リスクのある変動金利で借りる場合であっても、合理的な判断であり、金利上昇リスクに対して対応する選択肢を確保していると考えられます。
変動金利なら借り換えを想定しなくていい
そして、変動金利を選ぶ人は、基本的に借り換えによって住宅ローンを完済するというケースを想定することはありません。
なぜならば、この記事を執筆している2024年5月時点での変動金利の水準は0.3%台と非常に低金利になっていて、これ以上の引き下げはあまり期待できないからです。
さらに、借り換えにはローン残高の2.2%(税込み)前後の融資手数料を取られることになります。
今後、さらに低金利の変動金利が出てきたところで、借り換えコストをまかなえるほど利息を節約するには、かなりの年数が必要になります。
変動金利で他行の金利が下がってきている場合は、借り換えるよりも現在の銀行に対して金利引き下げ交渉を行う方がコストを低く抑えられます。
何しろ銀行に電話して「金利を見直してほしい」と申し出るだけですからね。審査に通れば、翌月から引き下げられた金利が適用されることになります。所定の事務手数料や印紙代がかかりますが、数万円の固定費で済みます。
【関連記事】>>返済中の住宅ローン金利を下げさせる交渉術は?〜銀行員がリアルに解説
結論2:固定金利は借りた後の行動で損得が分かれる
もう一つのポイントは、借りた後でも金利動向に合わせて正しい行動を取ることで、損にも得にもなるということです。それは、状況に応じて借り換えや繰り上げ返済の判断ができるかどうかです。
固定金利なら、金利や状況に合わせて借り換えや繰り上げ返済を
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当初の期間は最大年1%の金利引き下げとなるので、全期間固定でありながら変動金利と同じくらいの水準で借りられるのです。
しかし、この期間が終われば金利の引き下げはなくなります。このタイミングで、より低金利な商品が出ている場合は、借り換えることでコストを抑えながら住宅ローンを維持することが可能となります。
また、住宅ローン控除の期間は10年となっているので、これを過ぎるとローン残高に対する税金のキャッシュバックはなくなります。
このようなタイミングで効果的に繰り上げ返済をすることで、固定金利の弱点である利息負担を効果的に抑えることができるのです。
住み替えるなら、固定金利は損かも?
35年よりも早いタイミングで住み替える可能性があるなら、全期間固定金利はあまり合理的な選択とは言えません。
金利を固定する期間が長ければ長いほど金利は高くなりますので、その固定期間よりも早く完済するのであれば、そんなに長い期間にわたって金利を固定する必要はなかったということになるからです。
むろん、先のことは分かりませんが、変動金利のケースの逆を想像してみるとわかりやすいと思います。こだわりの家を建てたい人、この地に骨をうずめる気持ちでいる人であれば、よほどの必要に迫られない限り住宅を売却することはないでしょう。
住宅を選ぶ際にリセールを重視する人であれば、今は売る気がなくても、売却することで経済的なメリットがあるなら売るかもしれません。
【関連記事】>>マンションを賢く住み替える秘訣とは? 「リセール指数」が高い物件で高値売却を狙おう!
まとめ〜変動金利か固定金利かは、メンテナンスのコストも考えて判断する
3月の植田日銀のマイナス金利政策解除によって、今のところは住信SBIネット銀行とイオン銀行が変動金利の基準金利を0.1%上げた程度にとどまっており、大半の銀行は横ばいとしています。
だからといって、今後も変動金利は上がらないかも? と期待するのは楽観的すぎるでしょう。
植田日銀の狙いは金融政策の正常化ですから、残り4年の任期の間にできれば複数回の利上げを行い、短期政策金利をコントロール可能で、景気を冷やしもせず過熱もさせない自然利子率の水準にしたいと考えていると見ています。
次の追加利上げからは、いよいよ民間銀行も変動金利の店頭基準金利を上げてくる可能性があります。
しかし、内閣府が5月16日に発表した「1~3月期の国内総生産(GDP)速報値」は物価変動の影響を除いた実質が、前期比で年率換算2.0%減と2四半期ぶりのマイナスになったことが報じられています。景気への影響を鑑みると、短期的に連続利上げを断行するとは考えにくいです。ただし、これはあくまで数カ月~1年程度のスパンで予想される動向です。
一方で、住宅ローンは35年の長期にわたるものです。変動金利を選ぶということは、金利が上がる度に「毎月の返済にいくら影響するか?」そして「総額ではいくら増えるのか?」というチェックを、その都度行うことが必要になってくるのです。
変動金利には、そうしたメンテナンスに手間がかかるので金利が安い。対して固定金利は、ある程度楽ができるので高いのだとも言えるのですね。
【関連記事】>>住宅ローンの金利上昇リスクにどう対応すべきか? リスクを軽減するコツも紹介
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今回作成した「住宅ローン利用者口コミ調査」の調査概要は以下のとおり。
【調査概要】
調査日:2023年12月
調査対象:大手金融機関の住宅ローン利用者(5年以内に住宅ローンを新規借り入れ、借り換えした人)
有効回答数:822人
調査:大手アンケート調査会社に依頼
評価対象:有効回答数47以上を対象とするアンケートの設問は以下の7問。回答は5段階評価とした。なお、評価点数の平均点は小数点第2位以降を四捨五入。
【アンケートの設問】
Q1.金利の満足度は?
Q2.諸費用・手数料等は妥当でしたか?
Q3.団体信用生命保険には満足しましたか?
Q4.手続き・サポートには満足しましたか?
Q5.審査について、満足していますか?
Q6.借り入れ後の対応に満足しましたか?
Q7.他の人にも現在の銀行を勧めたいと思いますか?
【回答の配点】
・各設問は5段階で回答してもらい、Q1なら以下のように配点。平均値を求めた。
満足している(5点)
どちらかといえば満足している(4点)
どちらともいえない(3点)
どちらかといえば不満である(2点)
不満である(1点)
・総合評価については、各項目の平均値を全て合算。読者が重視する「Q1金利の満足度」については点数を3倍、「Q3団信の満足度」の点数を2倍として、点数の合計を50点満点とし、10で割ることで5点満点の数値を求めた。
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プロの評判・口コミ
淡河範明さん
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