住宅ローンでも保証人が必要なときがあります。そして、よく知らないからこそ起こるのが、保証人にまつわるトラブルの数々。今回紹介するのは、連帯保証人になってしまって借金地獄…という想像にたやすい話ではなく「保証人を持つ側」に起こった苦いエピソードです。住宅ローンで保証人が必要になるケースや、そのリスクもあわせて解説します。(金融ライター・加藤隆二)
住宅ローンの保証人とは? 必要になるケースを解説
金融機関でお金を借りる場合、必要になってくるのが連帯保証人。債務者が借金を返せなくなった時に、借金を肩代わりしてくれる人を立てるのが原則です。しかし、住宅ローンの場合は連帯保証人は不要となる場合が多いです。
理由としては、銀行の住宅ローンは、保証会社を利用する「保証会社扱い」が主流だからです。しかし、場合によっては保証人が必要になるケースもあります。いくつか見ていきましょう。
1.ローン申込者の年収が低い、勤続年数が短い
「保証会社扱い」でも、年収が少なかったり、勤続年数が少ないなどの理由から、保証会社を確保した上でさらに連帯保証人を立てることが融資の条件になることもあります。
またローンを申し込んだ人の年収や勤続年数が審査基準に満たない場合は、そもそも保証会社の審査に落ちることがあり、そうなると今度は連帯保証人を立てる「保証人扱い」で住宅ローンを借りる道を探ることになります。
「保証人扱い」の住宅ローンは、銀行側からすると中間に保証会社が入らないことになるので、リスクが高まります。なので、保証会社扱いより保証人扱いのほうが、金利が高くなるのが一般的です。ただし、保証会社扱いでは保証料が必要になるので、総合的にどちらの負担が大きいか一概には言い切れません。
ちなみに最近は住宅ローンを借りる際に、契約者から保証料を取らない方針の銀行が増えつつあります。その代わり、より高額の手数料(たとえば借入金額の2.2%など)を融資時に取るので、どちらが低コストなのかは判断しにくくなっています。
【関連記事】>>銀行に支払う住宅ローンの保証料ってなに?保証料を取らないネット銀行の続出で、問われ始めた保証料を取ることの意味
保証会社を利用するのに、さらに連帯保証人が必要になるケースについて触れましたが、保証会社に保証料を支払っていることを考えると負担が大きいと感じるでしょう。
住宅ローン保証会社は、返済が長期で延滞したときや、自己破産などでローンが返せなくなった時に、一括で住宅ローンの残債を銀行に立て替え払いしてくれます(その対価として保証料が必要)。いざという時に耳をそろえて払ってくれる保証があるからこそ、住宅ローンは長期間、低金利での借り入れが可能となり、人的な保証人がいらないというのが基本的な仕組みです。
しかし、実際に返済ができなくなった場合、保証会社は一括してローン残債を銀行に支払うことになります。これを「代位弁済(だいいべんさい)」と呼びます。代位弁済した保証会社は、立て替えたローンの返済を債務者に求める権利を持つことになり、これを「求償権(きゅうしょうけん)」と呼びます。
保証会社からすると、その人の返済に不安要素を感じれば当然保証人を求める、というわけです。ちなみに、この場合の連帯保証人は、銀行に対する保証人ではなくて、保証会社の求償権に対する保証人です。代位弁済などの事態になるまでは返済について銀行から督促されるようなことはありません。もしもの時(そんな事態になってほしくありませんが)に備えて、このあたりの事情をぜひ覚えておいてください。
2.保証料を払いたくないから、保証人扱いを希望する
保証会社扱いで住宅ローンを組める人が、保証会社に支払う保証料を払いたくないという理由で、あえて保証人扱いを希望するケースもあります。
3.連帯債務やペアローンで借り入れをする
最近増えているのが、ペアローンや連帯責務で住宅ローンを借りるケースです。この場合、夫婦や親子で共同で住宅ローンを組み、それぞれが相手の保証人になることもあります。銀行ではこれを「相保証(あいほしょう)」などと呼んでいます。
4.家を建てる場合に、土地所有者が保証人になる場合も
これまで見てきた連帯保証人とは、少し意味が異なります。これについては後ほど触れたいと思います。
【関連記事】>>共働き夫婦が住宅ローンを借りるなら、「連帯保証」を選んでいけないのはなぜ?
住宅ローンの「連帯保証人」は、かなり重い責任を追う
住宅ローンや事業資金など銀行からの借り入れにおける保証人は、一部の例外を除いてほぼすべて連帯保証人です。「連帯」がつかない「保証人」もありますが、銀行融資ではまず扱いません。ここでは改めて連帯保証人とは何かを掘り下げていきましょう。
保証人も連帯保証人も、誰かの借金の保証をするものです。しかし、保証人よりも連帯保証人の方が、かなり重い責任を負うことになります。お金を貸す側(債権者)に対して、「保証人」には一定の権利がありますが、連帯保証人には認められていないものがあります。そのため、連帯保証人のほうが保証人よりも厳しく取り立てされることになるのです。
1.「催告の抗弁権」
催告の抗弁権とは、保証人が、まず自分より先に債務者本人に対して督促するように要求できる権利です。
例)「私じゃなくて、先に本人(債務者)に督促して!」
2.「検索の抗弁権」
検索の抗弁権とは、保証人が返済を督促されたときに、債務者がお金を隠していないか? など財産を調べるよう求めることができる権利です。
例)「あいつ(債務者)は親から相続した土地を持っているはずだ。それを調べて売却させるとか考えてよ!その土地の場所を教えるから」
3.「分別の利益」
分別の利益とは、保証人が複数いるなら、頭割りした分だけ保証すればよいという権利です。
例)「保証人は自分を含んで3人。3分の1なら返済を考えてもいいですよ」
連帯保証人には、これらの権利がないので、債務者より先に督促されたり(債務者が逃げたときには有効)、債務者の財産調査をしていないのに保証人として財産を調べ上げられたり、資産を持っていそうという理由で、全額返済を求められたりすることもあり得るのです。
例えば、住宅ローンの契約書などに「〜連帯保証人は債務者と連帯して債務を返済していきます〜」といった意味の言葉があるのはこのためです。
わかりやすく言えば、連帯保証人は自分が借金をしているようなものであり、住宅ローンの保証人になることは、自分がローンを借りるようなものと言っても過言ではありません。
住宅ローンは保証会社を利用するのが主流なので、通常連帯保証人がいないことが多いと説明しました。その上で「父親の土地に娘が家を建てる」といった場合は、父親が住宅ローンの担保になる土地を提供したという意味で「担保提供者」兼「連帯保証人」となるのが一般的です。
一方で、土地を担保に提供したが返済の保証まではしたくないといった要望もあります。高齢者などが保証人となるケースで、精神的負担が大きいといった理由からです。
その場合、銀行が認めれば担保を提供しただけの「物上保証人(担保提供者ともいいます)」として取り扱います。物上保証人は、文字通り担保になった不動産だけに対して保証人になることで、債務者の返済が遅れたり、代位弁済となったりしても連帯保証人のような責任は負いません。
とはいえ、ローンを返せなければ土地を失うことになります。ですから、銀行では関係性が複雑になることを避けるために、特に強い要望がなければ「担保提供者」には同時に「連帯保証人」にもなってもらうのが主流です。
実例1:父親を連帯保証人にした「弱み」から相続争いに負けた会社員Aさん
上述した通り、連帯保証人は大きな責任を伴います。そして、だからこそ「お願いする側」にも同様の重さが発生します。
連帯保証人になってくれた人に対してはもちろん、その家族に対しても精神的な負い目を持つことを忘れてはいけません。今回紹介する事例はそんな「弱み」があだとなってしまったAさんのお話です。
【トラブルの経緯】
<Aさんのプロフィール>
36歳の会社員・家族は妻(主婦・パート勤務)と子供
●父親名義の土地があり、そこに住宅ローンで自宅を新築した。
●最初は保証会社扱いのローンを検討していたが、父親はどちらにせよ「担保提供者」として契約の関係者になるので、保証料を払わずに済むと考え、父親を連帯保証人にして住宅ローンを組んだ。
●自宅を新築してから数年が経過し、父親が病死して、自分の実家で相続争いとなる。
●Aさんは2人兄弟の長男。弟はAさんの自宅土地について「本当は自分が欲しかったけど我慢した」「父親が連帯保証人になっていたことを知らなかった」と主張。自宅の土地を父親に用意してもらい、保証人にまでなっていたことを「えこひいき」「不公平」として、自分の財産相続分をもっと増やせと要求した。
【結末】親を連帯保証人にした負い目から相続争いで不利に…
Aさんは父親を連帯保証人にしたという負い目から、強く出れず弟の要求を承諾。かなりの財産を弟に与えることになりました。つまり、父親を連帯保証人にしたことが「弱み」となり相続争いに負けたのです。
父親を保証人にすることについて、事前に兄弟の承諾を得る必要はありません。しかし、何も伝えずにいたことが火種になった可能性は大いにあります。事前承諾ではなくても、どこかでしっかり話をしていたのであれば状況は違ったかもしれません。
Aさんは、銀行から求められて父親の代わりに保証人を探さなければならなくなり、やむを得ず母親を連帯保証人にすることになったそうです。
母親が連帯保証人になることについては、意外にも弟から反対されることはなかったとのこと。しかし、もしかすると「母が死んだときの相続で、この保証人の話を持ち出してくるのではないか」と憂鬱だそうです。
Aさんのように親や祖父母の土地に自宅を建てる「使用貸借」(※1)は、土地費用を節約する点で地方などでは比較的よくあるケースです。
親が土地を持っている資産家の場合、遺族間で相続争いが起きることもあるでしょう。その際、今回のように住宅ローンで担保に入れている土地があったり、連帯保証人をお願いしていたりといった「弱み」があることで、不利になる恐れがあるという話は決して珍しいことではありません。
(※1)親が子に自宅敷地を無償で使わせるような状況のことを指します。親が子に土地を「貸している」状態ではありますが、一般的には親が子供から家賃を取らないので、他人の土地を借りて地代(家賃)を払う「賃貸借」とは異なり、「使用貸借」と呼ばれています。
保証人は「死ぬまでやめられない」「死んでもやめられない」
「連帯保証人になったばっかりに…」という不幸な例は、銀行員という仕事柄、それこそ数え切れないくらい見てきました。そして、自分が保証人になったならまだ自己責任、自戒の念で済みますが、死んだ親が保証人だったことで、その保証債務を文字通り「背負って生きた」人もたくさん存在します。それだけ、保証人は「重さ」と「責任」が伴うのです。
銀行の事業資金融資や住宅ローンでは、連帯保証人が死亡した場合は、誰か代わりの人を保証人にするのが原則です。そもそも本人の収入に加えて、保証人の信用度や財産なども合わせて審査した結果融資しているので、一度、連帯保証人になったら、その借金が残っている限り保証人から外れる(保証人では「脱退」と表現)ことはできません。
保証人でなくなるのは、その借金が完済されてなくなったときか、保証人自身が死亡したときくらいです。そして死亡した人は保証人でなくなる(死んでいるので債務の保証能力がないという意味)のですが、その保証債務は相続の対象として残ります。
保証した借金は自分が死んでも遺族に残り、保証人としての地位も誰かに引き継ぐ必要があるところから、私は先輩銀行員から「保証人は死ぬまでやめられない、そして死んでもやめられない」と教わりました。
連帯保証人は、債務者が返済できなければ保証人として返済の義務と責任が生じます。この責務のことを「保証債務」と表現します。そして保証人だった人が死亡した場合には法定相続人が、それぞれの法定相続分(財産や負債と同じ)で保証債務も相続するのが原則になっています。
相続では死んだ人の財産や負債が相続の対象です。財産が大きければ相続税の対象にもなりますし、負債のほうが多いから相続放棄するケースもありますが、保証債務も相続の対象です。負債として計算をした結果、たとえば遺産より保証していた借金のほうが大きければ、相続放棄をして保証債務から免れる選択肢もあります。
実例2:妻とは離婚したが、保証人になっている妻の父とは今も離縁できないでいる
というわけで、エピソードの2つ目は「保証人は死ぬまでやめられない」ということがよくわかるトラブルの事例です。
<Bさんのプロフィール>
40代後半の男性
●住宅ローンを組む際に、少しでも節約したいという妻の意見で保証人扱いを選択する。
●Bさんの両親はすでに他界していたが、妻が主導して妻の父を保証人にし、審査も無事通過。住宅ローンを借りて自宅を新築した。
●数年して、Bさん夫婦は離婚することとなった。
● 離婚の原因は感情のすれ違いなどで、ほぼ平和に離婚まで進んだ。
●子供はBさんのもとに残り、妻だけが出ていくことで決着した。
●子供を育てていくBさんは自宅にそのまま住み続け、妻に対しては慰謝料や養育費などを支払うこともなく、住宅ローン返済には困ってはいない。
●離婚はしたが、住宅ローンの保証人は今も離婚した妻の父がそのままになっている。
【結末】繰り上げ返済を続けるしか手立てなし…
その後の結末は同僚から聞いた内容です。離婚手続きと並行して、Bさんは銀行に対し、妻の父を保証人から外してほしいと頼みましたが、銀行の答えは「NO」でした。
それは、保証人が健在なら原則として保証人を辞めさせることはできないという理由です。銀行側も離婚という事情は理解しましたが、それはあくまでBさん側の個人的な事情であり、銀行として元妻の父を保証人から外す理由には該当しないという判断だったのです。
Bさんは、今も銀行と交渉を続けていますが、保証人が健在であるという状況は変わらないので交渉は平行線。元妻からは「夫婦の関係は解消したのだから、自分の父を早く保証人から外してほしい」と催促され続けています。
「保証会社扱いで保証人なし」の条件で住宅ローンを他の銀行で借り換えられないかと、複数の銀行に肩代わりを申し込んだこともありましたが、審査が通らず断念。離婚手続きの前後でバタバタしていたときに住宅ローン返済が何回か遅れたことが、ローン借り換えで審査落ちとなった最大の理由だったようです。
現在、Bさんは給料をやりくりして、住宅ローンの繰り上げ返済を続けています。まだまだローン残高は大きく、完済のめどは立っていません。ですが、他にできることがないので今後も繰り上げ返済を繰り返して、少しでも早く状況を変えたいと考えている日々です。
【関連記事】>>夫婦で一緒に借りた住宅ローンは、離婚すると「思わぬトラブル」の原因になる!連帯保証、ペアローンのデメリットを解説
誰かを保証人にすることを軽く考えてはいけない
もちろん保証人扱いの住宅ローン自体を否定するつもりはありません。保証料の節約など、状況によってはメリットを感じる人もいるでしょう。しかし、誰かを保証人にすることを気軽に考えてはいけません。
一度保証人になった人は死んでも辞められなくなるかもしれないことをぜひ覚えておいてください。住宅ローンを検討している人に、この記事が参考になれば幸いです。
【関連記事】>>不動産投資の偽装がバレたときの重い結末エピソード2選!「なんちゃって住宅ローン」の手口を銀行員が解説
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