住宅ローンの金利上昇によって返済額が上がるかもしれないのに、銀行は金利上昇分もうかるなんて不公平だ! と考えている人がいるかもしれません。本当にそうなのでしょうか? 本記事では、住宅ローンの金利や利益の仕組みを解説し、その知識を活かして住宅ローンの返済に有利になるポイントをお伝えします。(金融ライター・加藤隆二、現役銀行員)
住宅ローン金利が上昇した分、銀行はもうかるのか?!
ゼロ金利解除に始まり、いよいよ返済中の住宅ローン変動金利についても見直しが決定しました。
このような状況下で、「金利が上昇したら、その上昇分だけ銀行がもうかる!」といったタイトルの記事などが見受けられます。
しかしながら、実際のところ「住宅ローン金利引き上げは銀行だけが丸もうけ」というわけではありません。
そこで本記事では、金利に関する根拠のない予想や、先のタイトルのような誤った考えではなく、読者の皆さまに直接役立つ情報として、住宅ローン金利の仕組みを振り返り、そこから自分の返済に活かせる方法を解説したいと思います。
「定価から値引き」したものが自分の借りる金利
住宅ローンも一つの「商品」なので、当然ながら原価(元手)と利益(もうけ)があります。
住宅ローン金利は商品の「定価」のように、銀行が定めた基準となる金利(基準金利)から始まります。
この基準金利は、一般的に「店頭表示金利」や「店頭金利」と呼ばれ、変動金利の場合は短期プライムレート(短プラ)をベースに銀行が決定します(ネット銀行の場合は、市場金利やコストを勘案して独自基準で決定)。なお、固定金利の場合は短期プライムレート変動の影響は受けません。
【関連記事】>>住宅ローン金利の決まり方は? 変動金利は短プラが基準だが銀行によって異なるので確認しよう!
住宅ローンの金利は以下の計算式のように、「定価から値引き」したものが自分の借りる金利(適用金利)となります。
例)2.475% ー 金利優遇2.13% = 0.345%
①基準金利:住宅ローン金利の「定価」。ネット銀行は独自基準で、メガバンクなどの変動金利は短プラをもとにして銀行が決める。「店頭表示金利」「店頭金利」とも呼ばれる
②金利優遇:基準金利から引き下げる値引き幅のこと、(a)属性や(b)取引内容で顧客により異なる
(a)属性:職業(公務員、会社員、自営業)や年収などで差別化される
(b)取引内容:給料振り込み指定、家族の預金、投資や運用の残高など取引が「太い」ほど優遇される
③適用金利:実際に顧客が支払う金利のこと。がん、三大成人病など特約付団体信用生命保険では、一般に0.2%程度の保険料上乗せで適用金利が上がることがある
住宅ローンの契約獲得で銀行にはいくら利益が残るのか?
基準金利と適用金利の差額が「利鞘(りざや)」で、これが住宅ローンを扱う銀行のもうけになります。
住宅ローンにおけるコスト(変動金利の場合)は、以下の計算式が一般的です。
しかし最近では、住宅ローンの適用金利が0.3%を割り込む銀行もあります。こうした銀行でも、決して赤字覚悟の商売なのではなく、「別の部分で儲けを得ている」(例・預金取引や給与振り込み指定、家族取引や運用商品販売など)のです。
ここまで説明ばかりになりましたが、銀行員としてお伝えしたいのは、住宅ローン金利が引き上げになった場合に「引き上げ金利の分だけ銀行が丸もうけというわけではない」ということです。
住宅ローンも商品と説明した通り、金利が引き上げになっても、その原価も同じだけ値上げされているので、住宅ローンにおけるもうけの幅は変わらないのです。
もちろん、返済中の人なら自分が支払う金利は増えるわけですから、負担は増加します。それを損失と考えるのはもちろん間違いではありません。
とはいえ「住宅ローン金利の引き上げ分で銀行がもうかっている」といった表現は間違っているのです。
それよりも大事なのは、金利引き上げについてしっかりと知ることで、それを自分の返済に活かす方法を探ることだと思います。こちらについて次項で詳しく解説します。
住宅ローンを返済中の人が知っておきたい3つのポイント
ここからは現在、住宅ローンを返済中の人に向けた解説となります。金利上昇時においては、以下の3つのポイントを知っておくとよいでしょう。
2.他の取引・サービスを金利優遇に活用
3.借り換えする場合も役に立つ
1.金利引き下げ交渉の「武装」をする
銀行のローン金利構造を知ることで、たとえば自分の金利は「もうこれ以上引き下げは無理なのか?」を探ることができます。
例を挙げると、金利が引き上げとなったあとで「もう一度、金利を引き下げないと、他に借り換えをするぞ!」と、金利引き下げの交渉ができるのかどうか?を判断する材料にできます。
【関連記事】>>返済中の住宅ローン金利を下げさせる交渉術は?〜銀行員がリアルに解説
2.他の取引・サービスを金利優遇に活用
金利優遇で説明した通り、「取引の太い客」であるほど金利も優遇してもらえるのが原則です。
そこで、ここでも金利引き下げを交渉するなら、「何かのサービスを契約すれば金利を下げる(引き上げない)ことは可能か?」と、単刀直入に聞くこともできます。
一般に、銀行がありがたいと感じるのは、クレジットカードや投資運用、あるいは家族預金などです。
3.借り換えする場合も役に立つ
上記した1、2は、取引を続けながら金利を下げる交渉材料です。しかし、これは同時に他行へ借り換えするときにも使えます。
つまり、借り換えしようと考えている(あるいは借り換えしてほしいと提案が来ている)銀行に対して、どこまで金利を下げられるのか?(何を成約すれば金利をディスカウントするのか?)などを交渉する時にも役立ちます。
まとめ
住宅ローン金利の変動は銀行だけでなく、利用する側にとっても大きな影響を与えるものです。
金利の仕組みを理解し、自分に合った住宅ローンを選ぶことが大切です。
また、金利交渉のスキルを身に付けることで、より有利な条件で住宅ローンを組むことができると、銀行員の筆者はアドバイスいたします。
・返済中の住宅ローン変動金利がいよいよ上昇!
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・返済中の住宅ローン金利を下げさせる交渉術は?〜銀行員がリアルに解説
・銀行員が考える、住宅ローン金利引き上げシミュレーション! その時、顧客は選別される
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【調査概要】
調査日:2023年12月
調査対象:大手金融機関の住宅ローン利用者(5年以内に住宅ローンを新規借り入れ、借り換えした人)
有効回答数:822人
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・総合評価については、各項目の平均値を全て合算。読者が重視する「Q1金利の満足度」については点数を3倍、「Q3団信の満足度」の点数を2倍として、点数の合計を50点満点とし、10で割ることで5点満点の数値を求めた。
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淡河範明さん
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