住宅ローンの借入可能額の計算方法はどうすればいいのだろうか。金融機関で住宅ローンの審査を担当していた専門家に聞いたところ、銀行内部では「審査金利」という独自の金利や、「返済負担率」を使って審査しているという。そこで、「年収別の借入可能額」をシミュレーション(計算)してみた。
「年収の○倍」は嘘!住宅ローンの借入可能額の計算方法
住宅を購入する際に気になるのが、「自分がいくらまで銀行から住宅ローンを借りられるのか」という点だろう。その金額よって、購入できる物件も変わってしまうからだ。
「借入可能額の計算方法は、実は非常に複雑です」
こう教えてくれたのは、金融機関で住宅ローンの審査の基準作りにも関わってきた経歴を持つ、iYell(イエール)の窪田光洋社長だ。住宅購入に関する情報サイト「いえーる すみかる」などを運営している。
ネット上では、「返済額が年収の30%までなら借り入れ可能」や「借入総額は年収の5倍まで可能」といった話が書かれていることが多いが、まったく当てにならない。これには、表向きは分からない「返済負担率」「審査金利」などの存在が影響しているという。
審査金利など、借入可能額を決める5つの基準
銀行が借入可能額を計算する主な審査基準は5つある。それぞれ解説していこう。
返済負担率
「返済負担率(返済比率)」は非常に重要な審査基準だ。
「返済負担率」は、「年間の返済額」÷「年収」で計算するもので、これが高いほど返済が苦しくなる。そこで、返済負担率に上限を設けているのだ。民間の銀行の場合、「返済負担率」は、40%以下に設定している銀行が多いようだ。
年収が600万円であれば、毎月返済額は以下のように計算できる。
年収600万円×40%÷12カ月=20万円/月
ただし、返済負担率40%はかなり高め。通常、返済負担率が25%程度までなら、余裕を持って返済できると言われている。また返済負担率は、表には公表していない銀行も多い。
一方で、独立行政法人・住宅金融支援機構が提供している住宅ローン「フラット35」は、「返済負担率」を公表している。
- ・年収400万円以上なら、返済負担率は35%以下
- ・年収400万円未満なら、返済負担率30%以下
と規定している。
銀行 | (公表)フラット35 | |
---|---|---|
審査上の返済負担率 | 40%以下(銀行によって違う) |
30%以下(年収400万円未満) 35%未満(年収400万円以上) |
なお、すでに借金がある場合(自動車ローン、携帯電話の割賦購入なども含む)は、「住宅ローン+既存の借り入れ」が返済負担率を守っているかどうかで判断される。
審査金利
「審査金利」とは、実際に貸し出す金利とは別に、住宅ローンの審査用に設定された金利のこと。通常、銀行のホームページやパンフレットには記載されていない。
「審査金利は、景気の状況によって将来的に金利が上昇しても返済が可能かどうかを見るためのものです。当然、公表されている金利よりもかなり高く設定しています」(窪田社長)
窪田社長によると、民間銀行の審査金利の相場は3~4%にもなるという。現在、民間銀行の変動金利は、もっとの低い銀行で0.4%を切る水準となっており、これに比べると非常に高い。審査金利を高くすることで、将来、金利が上昇したときでも支払い続けられるかどうかをチェックしているのだ。
一方で、独立行政法人・住宅金融支援機構が提供している住宅ローン「フラット35」の場合は、「実際に融資する金利」=「審査金利」で審査すると公表しているので、結果の予想がしやすい。
なお、借入可能額ギリギリの場合、「金利が上昇したために、先月までなら借りられたのに、今月は借りられなくなってしまった」ということもありうる。金利は毎月変わるので、気をつけたい。
銀行 | (公表)フラット35 | |
---|---|---|
審査金利 | 3~4% | 融資する金利(1%台前半) |
審査金利が存在する理由は、貸す側である銀行の心理に立てばよく分かる。
変動金利の住宅ローンであれば、完済可能かどうかを調べるのなら、最も高い時点の金利で審査するのが当たり前だろう。今の低金利からすると信じられないが、日本経済が絶好調だったバブル期は、変動金利で8%以上という時期もあった。それから考えると、3~4%という審査金利も、納得感がある。
融資率
「融資率」とは、「購入する不動産価格に対する借入金の割合」のことだ。
かつては、頭金を10〜20%程度用意していないと、住宅ローンを借りられなかった。3000万円の物件を購入するには、300万円以上の頭金を現金で用意しないと借りられなかった。
しかし最近の民間銀行は、頭金ゼロ円、つまり融資率100%でも融資してくれるようになったので、融資率はさほど気にしなくていい。ただし、住宅ローンを借りる際は諸費用(手数料、保証料、不動産売買手数料、登記費用など)が必要なので、新築なら物件価格の5%程度は現金を用意しておきたい。
一方で、フラット35の場合は、頭金を10%以上用意しておきたい。「頭金10%以上」=「融資率90%以下」ということになるが、その場合は金利が低くなるのだ。さらにフラット35は、頭金の割街が多いほど金利が低くなるという商品もある。
財形住宅融資の場合は、融資率は90%以下(=頭金10%)となっている。さらに、財形貯蓄残高の10倍までしか貸してくれない。
借入限度額
借入限度額は、金融機関によって差がある。
民間の銀行は1臆円〜2億円が上限となっている。特にネット銀行は「上限2億円」に設定してる銀行が多い。auじぶん銀行、PayPay銀行、住信SBIネット銀行、ソニー銀行が2臆円まで借りられる。
一方で、フラット35は、借入限度額が8000万円となっている。都心の物件だとフラット35では不足することもあるだろう。なお、財形住宅融資は、4000万円が借入限度額となっている。
【関連記事はこちら】>>住宅ローンで1億円以上を借りられるのは、auじぶん銀行など9つの銀行・金融機関! 主要金融機関21行・40商品の借入限度額を調査
担保価値
住宅ローンの審査では、不動産の担保価値も調査している。不動産価格に比べて、担保価値が小さい場合は、その金額までしか融資してくれない。
購入するのが「大手不動産会社や提携業者の新築物件」であれば、「担保価値」=「販売価格」で評価されるので問題はない。
担保価値が問題となるのは、「訳あり物件」だ。
例えば、「旧耐震の物件(1981年5月31日までに建築確認された建築物)」は、耐震基準が現在よりも緩めに設定されていたため、担保価値が少ないと見られる。そのため、融資が下りなかったり、担保価値が少ないと見なされる可能性がある。
ワンルームのような狭小物件(25㎡〜30㎡)、違法建築物件(建ぺい率・容積率超過、最低敷地面積違反、等)、住宅ローン完済時に耐用年数を大幅に超過する物件、保留地物件、仮換地物件、借地権・賃借権、定期借地権物件なども、厳しく見られる傾向にある。
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年収ごとの借入可能額をシミュレーション
では、実際の借入可能額を計算してみよう。実際に計算するには、以下の3つの数値が必要だ。
- ・毎月返済額
- ・審査金利
- ・借入期間
毎月返済額と審査金利は、先ほど紹介した数値を使う。借入期間が長いほど、借入可能額が増加するので、ここでは最も長い35年と仮定して計算した。
民間の銀行の「自社商品」(審査金利、3%・4%)と、「フラット35」について、年収300万円~年収800万円の6パターンで、それぞれ借入可能額はいくらなのか計算してみた。赤字は最も借入可能額が多いケースだ。
商品名 | 銀行の自社商品 | 銀行の自社商品 | フラット35 | |
---|---|---|---|---|
審査金利 | 4%と仮定 | 3%と仮定 | 1.88% | |
返済負担率 | 40%と仮定 | 40%と仮定 | 年収400万円未満 30% 年収400万円以上 35% |
|
返済負担率 | 年収300万円 | 2256万円 | 2598万円 | 2307万円 |
年収400万円 | 3003万円 | 3455万円 | 3588万円 | |
年収500万円 | 3771万円 | 4313万円 | 4485万円 | |
年収600万円 | 4516万円 | 5196万円 | 5382万円 | |
年収700万円 | 5262万円 | 6054万円 | 6279万円 | |
年収800万円 | 6030万円 | 6937万円 | 7176万円 | |
※借入期間35年で試算、金利は2023年2月現在。フラット35の貸付上限額は8000万円なので、それ以上は借りられない |
このように、民間銀行の自社商品は、フラット35に比べると、借入可能額は少なくなるケースが多い。一般的に、フラット35は審査が甘めと言われており、借入可能額も相対的に多くなっている。ただし、実際に融資する際に適用される金利は民間の銀行の方が低いことが多いので、できれば、民間で借りたいところだ。
「お得な住宅ローンを借りるのなら民間」
「年収が低いなどの理由があって借りにくいのならフラット35」
こうした住み分けができている考えていいだろう。
【関連記事はこちら!】
⇒「フラット35と民間の住宅ローン、どちらがお得?「金利」と「審査の通りやすさ」で徹底比較!」
住宅ローンの「審査金利」に新しい考え方が登場
しかし最近は、審査金利についても新しい計算方法が出始めている。
例えば、申込んだ住宅ローンが「変動金利」であれば、将来の金利上昇を見越した審査の必要性もがあるのは当然だろう。一方、申込んだのが「固定金利」の商品なら、将来の金利上昇などないのではと思う人は多いだろう。
実は、住宅ローンを取扱う銀行は、申込み時点では「変動金利」か「固定金利」かを選択させないのが一般的だ。そのため、最終的に変動金利を選ぶのか、固定金利を選ぶのか分からないため、変動金利を借りた前提で審査金利を決めているのだ。
ただし最近では、ネット銀行を中心に、申込み時点で金利タイプを選択させる銀行も増えてきている。そうした銀行で、固定金利を選んで申し込んだ場合は、「固定金利」=「審査金利」となり、従来の審査金利(3〜4%)は適用されないので、借入可能額も多少、増えることになる。
とはいえ、固定金利も少し注意が必要だ。住宅ローンの契約書を読み込むと、「返済を延滞した場合は、優遇金利は解除される」という規定になっているケースが多い。
最近の住宅ローンのほとんどに「優遇金利」が設定されており、万が一、延滞した場合は、もともとの高い金利である「基準金利」が適用されることになる。つまり、審査する上では、優遇金利は当てにならず、基準金利を使うことになる。あくまで審査は厳しく行うのが原則なのだ。
銀行の住宅ローンシミュレーションサイトに注目!
前述のように、借入可能額の算出方法は難しい。また、各銀行は、審査金利や返済負担率をすべて公表しているわけではない。何か方法はないのだろうか。
「強いて挙げるなら……」と前置きして窪田社長は語る。「いくつかの銀行は、サイト上の住宅ローンシミュレーションで、審査金利を踏まえた、おおよその『借入可能額』を計算してくれる銀行もあります」(窪田社長)という。
そこで、おおよその「借入可能額」を計算してくれる主な銀行のサイトで、借入可能額をシミュレーション(計算)してみた。年収、借入期間などを入力すれば、借入可能額の目安がその場でわかるというものだ。年収600万円、借入期間35年という条件で、比べてみたのが下表だ。
銀行名 | 商品名 | 審査金利の種類 | 借入可能額の目安 |
---|---|---|---|
自社商品 | 金利タイプ選べず | 3630万円~ 4840万円 |
|
自社商品 | 金利タイプ選べず | 4986万円 | |
フラット35 | 35年固定 | 5382万円 | |
※ 2023年2月調べ、ウェブ上の住宅ローンシミュレーションを持つ主な銀行で試算 |
大手銀行ではあまり対応していないが、ネット銀行の多くは、ネット上で、借入可能額の目安を試算できるようになっている。その結果、ほぼ同じ条件で計算しても、借入可能額は、3390万円から5672万円まで、大きな幅があった。また、フラット35は最も借入可能額が多く、5893万円もあった。審査に不安がある場合は、事前にこうしたサイトを使って調べてみるのがいいだろう。
ただし、こうしたサイトで試算した借入可能額はあくまで「目安」であり、さらに借入可能額をクリアしていても、収入の安定性がなかったり、他の借金が多かったりすれば、審査に落ちることもある。
確実に借り入れをしたいのであれば、複数の銀行に申込みすることをオススメする。
また、「年収が少ない」「借入期間が長く取れない」といった理由で借入可能額が十分な金額に達しないと思われる際は、「年収合算」「親子リレーローン」など、何らかの対策が必要となります。
【関連記事はこちら】>>【漫画】住宅ローンは年収不足だと、希望の借入額に届きません
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淡河範明さん
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