自営業・個人事業主・フリーランスの方が住宅ローンを借りる際に審査されるのは「年収」「事業年数」です。そこで、14銀行の住宅ローンを借りるのに必要な年収・事業年数(審査基準)を調査・比較してみました。また、自営業・個人事業主に有利な銀行についても解説します。(住宅ローンアドバイザー 淡河範明)
自営業・個人事業主でも住宅ローンは借りられる
個人事業主、小さな会社の経営者、フリーランス…。いわゆる「自営業」は、年度によって収入がアップダウンしがちです。景気の影響も受けやすいですし、病気やケガで事業がストップしてしまうリスクもあります。
そのため、自営業の住宅ローンの審査では、「安定した収入が継続的に望めるか」が何よりもチェックされます。
言い換えれば、最後まできちんと返済できそうかどうかが見られるということです。
そのぶん、会社員よりも審査基準のハードルが高いのは確かですが、決して超えられないような高さではありません。
あくまで会社員と比較して、審査が厳しいだけであって、年収200万~300万円の自営業・個人事業主でも、審査に通っている人は大勢います。
逆に年収1000万円を超えていても、一過性のものだと判断されれば、審査には通りません。ベストセラー作家や旬の芸能人、人気スポーツ選手が借り入れを断られるのは、たいていこうしたケースです。
では、収入の安定性や継続性を、銀行はどんな点から判断しているのでしょう?主だった基準を見ていきましょう。
自営業・個人事業主で必要な「事業年数」「年収」は?(14銀行比較)
会社員は前年度の年収で審査されますが、フリーランスや個人事業主は、直近3期分の「所得」を年収とみなして審査するのが一般的です。
そのため、会社員が前年度分の源泉徴収票を提出すればいいのに対して、フリーランスや個人事業主は、多くの銀行で直近3期分の決算書や確定申告書の提出が必要となります。
会社の経営者の場合、本人の収入を証明する直近3年分の源泉徴収票(または確定申告書)と3期分の決算書の双方を提出しなければなりません。いくら役員報酬を多くもらっていても、その母体となる会社の決算内容が悪ければ、審査には通りません。
以下は、各銀行の商品説明書を参考に、自営業・個人事業主の審査基準をまとめた表です。
銀行名 | 個人事業主 | |
---|---|---|
事業年数 | (前年度)年収 | |
3年 | 100万円以上 | |
― | 200万円以上 | |
2年以上 | 300万円以上 (2年平均) |
|
― | 400万円以上 | |
― | 400万円以上 | |
安定かつ継続した収入がある人 | ||
個人事業者、自分・家族が経営する会社に勤めている人は不可 | ||
安定した収入がある人 | ||
― | ― | |
― | ― | |
3年以上 | 100万円以上 | |
安定した年収が見込まれる人 | ||
3年以上 | 150万円以上 | |
【ARUHIスーパーフラット5、6、6.5、7、7.5、8、借換、通常のフラット35】 ・年収400万円未満は総返済負担率30%以下 ・年収400万円以上は総返済負担率35%以下 【ARUHIスーパーフラット8,5、9】 ・総返済負担率20%以下 |
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※2023年12月調査。「-」は約款に記載されていないため要問合せ。 |
原則は、3期連続黒字! 1期赤字でアウトの銀行も
自営業に対して直近3期分を条件としている銀行が多いのは、前述のように収入の安定性を見るためです。たとえば、3年前200万円、2年前300万円、前年700万円と、所得が右肩上がりでも、3期分の平均400万円を基準に審査するところが多いようです。
なかには、3期のうちもっとも低い年の所得で審査する銀行や、会社が1期でも赤字だとそれだけで審査に通らない銀行もあります。「前期が赤字だった」という自営業者はいると思いますが、融資希望額や土地の担保評価がどうであれ、審査に落ちる可能性が高いといえます。
なお、事業年数に条件を設けていない銀行でも、事業を始めてから3期経過していないと、審査のハードルは高いと心得ておいたほうがいいでしょう。また、個人事業主から法人成りした場合も、法人格になってから3期経過していることが原則です。個人事業主のときとの通算はできません。
もちろん、3期経過していても、決算書の作成や確定申告を怠っている場合は審査を受けられません。
税金や健康保険料の滞納は、ほぼ借りられない
給与から天引きされる会社員と違って、自営業は税金や健康保険料等を自分で納めなければなりません。そのため、忙しかったり、資金繰りに苦しんでいたりすると、安易に滞納しがちです。
しかし、銀行や保証会社は滞納の事実を重く見ます。ほとんどの場合、一発アウトです。
なぜなら万が一、返済が滞って物件を売却して代金を回収することになった場合、未納分の納税が優先され、全額回収できない可能性が高まるからです。
また、たとえ少額であっても住宅ローンを申し込むにあたって滞納する姿勢から、この先、何十年も確実に返済してもらえるとは思えないからです。
納税証明書は必ず提出することになります。滞納のある人は、必ず支払いを済ませてから、取得・提出するようにしてください。なお納税証明書では、年金が未納かどうかは分かりません。
事業資金としての借り入れも、ほかの借金と扱いは同じ
ビジネスローンなどを利用して借りている事業用資金も、住宅ローンの審査においては、ほかの借金と同等に借り入れがあるものとして扱われます。いくら資金繰りがうまく回転していいても、借金の額に応じて借入可能額は減額されたり、審査に通らなくなったりします。
「日本政策金融公庫からの借入金は個人信用情報に登録されない」と思っている人もなかにはいるようですが、大きな誤解です。
たしかに政府系金融機関のため、同公庫の事業資金の貸し出し基準は緩めですが、全国銀行個人信用情報センター(KSC)の会員のため、融資すればその情報は必ず登録されます。ほかの銀行が確認できるということです。また、連帯保証人になっている債務のせいで審査に落ちることもあります。
ですから、審査に通りやすくするために同公庫から事業資金や教育資金の名目で融資を受け、ほかの借金を清算したり頭金として流用したりすることは無意味です。借金の多い人は地道に返済を進め、ある程度、借入額を減らすまではがまんするしかありません。
また、すでに清算済みであっても、延滞が頻繁な場合は審査に通りません。事業資金はもちろんのこと、キャッシングやショッピングの代金や公共料金やスマホ代などのクレジットカード払いが過去1年間に3回、期日に引き落とせなかった人は、落ちる可能性が高まります。
どうしても自営業の場合、資金繰りの関係でつい延滞しがちですが、思わぬ痛手となりかねないため、注意してください。
店舗や事務所併用を考えている人は、自宅用の床面積50%以上が条件
ところで、物件の一部を事業用に使用することを考えている人もいることでしょう。マンションの一室を事務所として利用する程度であれば、わざわざ銀行に伝える必要もありませんが、たとえば、一軒家の1階部分をフラワーショップやパン店などの店舗として利用するようなケースでは、居住用とは明らかに設計も異なってきます。
ここで問題になるのは、住宅ローンは「本人居住用の土地や住宅の購入」等に限られる、目的限定のローンだという点です。こうした場合、住宅ローンを利用することはできるのでしょうか?
結論から言うと、住居部分は住宅ローン、店舗部分は事業資金として融資を申し込むのが原則です。
ただし、金融機関によっては、住居部分が全体の半分以上を占めていれば、住宅ローンとしてまとめて申し込むことが可能なところもあります。後述するフラット35もそうした条件で申し込むことができます。
【関連記事】>> 住宅ローンで別荘、投資用物件、賃貸併設物件を購入できる? 主要13銀行の「資金使途」を徹底調査
節税対策のし過ぎに注意! 3年計画で売上や経費を調整する
直近の3期の所得と決算書や確定申告の中身が大切なことはお分かりいただけたかと思いますが、過去の決算や確定申告の内容を変えることはできません。ですから、現状、審査基準をクリアするのが難しい人は、3年後を目標に腰を据えて取り組んでいきましょう。
税金等の滞納をなくしたり、ほかに借金のある人は返済を進めていくのはもちろんのこと、この3期に限っては、無理な節税を避け、所得のアップと決算内容の向上に努めることが大切です。
節税すれば、所得や会社の利益が減るため、借入可能額も減ってしまいます。ですから、節税対策の一環として、パソコンの買い替えを考えているような場合は先送りして、より手元にお金を残すようにしましょう。そのぶん、納める税金は増えますが、必ずしも損をするわけではありません。
その分、借入可能額を増やしたり、金利の低い住宅ローンを借りたりするほうが、目先の節税よりも何十倍、何百倍も恩恵があるはずです。
まとめ フラット35など自営業に有利な銀行に申し込む
3年計画で取り組む一方で、銀行によっては、例えば個人事業主であれば、減価償却費や専従者給与、青色申告特別控除などについては経費とみなさず、事業所得としてプラスにカウントしてくれるところもあります。
また、3期連続黒字が原則とお話ししましたが、節税対策によってあえて赤字決算にしていることが明白な場合は、審査を通してくれる銀行もあります。
長い目で見て、金利が上昇傾向にあるのは間違いありませんから、審査に通る銀行があるなら、多少金利に目をつむっても、借りてしまったほうがトクになるケースも出てくるでしょう。
なかでもフラット35は、自営業とって強い味方です。というのも、フラット35では、申込者の職業や勤務先は問われないからです。自営業であっても、会社員と同じように前年度の年収で審査を受けられ、決算書の提出すら不要となっています。
つまり、事業が赤字でも融資を受けられる可能性があるということです。
以上のように、自営業だからといって住宅ローンを組めないということは一切ありません。3期連続黒字が難しそうであれば、フラット35を利用する手もありますし、配偶者が会社員で連帯保証人についてくれるのであれば、審査にかなり有利に働くでしょう。
自分で調べるのが大変なら住宅ローンのプロに相談してもいいので、ぜひベストな選択をしてください。
【関連記事】>>フラット35の金利、手数料を徹底比較! おすすめの銀行は?
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【調査概要】
調査日:2023年12月
調査対象:大手金融機関の住宅ローン利用者(5年以内に住宅ローンを新規借り入れ、借り換えした人)
有効回答数:822人
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淡河範明さん
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