住宅ローン契約者に万が一のことがあったときに、住宅ローンの残債を保険金で保障するのが団体信用生命保険(団信)。文字どおり生命保険の一種であり、いろいろなタイプの商品が出ている。特に注文住宅を建てる人は、「ぽけっと団体信用生命保険」への加入の検討もしよう。(淡河範明)
民間金融機関の住宅ローンは
団体信用生命保険への加入が必須
団体信用生命保険とは、契約者が死亡もしくは高度障害状態になり、住宅ローンの返済が不能になったときに、生命保険金で住宅ローンの残債を返済する保険です「団信」と略して呼ぶことも多いです。。
民間金融機関・銀行の住宅ローンのほとんどは団体信用生命保険への加入を条件としていますが、後述するように、フラット35は必ずしも加入が義務付けられていません。大半の人が、団体信用生命保険に加入しています。
なお団体信用生命保険には、無料で付帯するものと、金利などを上乗せするオプション団体信用生命保険があります。オプション団体信用生命保険の中には、がんや難病、三大疾病に関する保障が手厚くなるものなどがあり、商品の詳細や上乗せ金利の額は、金融機関によって異なります。オプションを検討している方は、細かい保障内容を比較してみると良いでしょう。
団体信用生命保険で保険料が支払われるのは
どんなケース?
では、どんなケースだと保険金が支払われるのでしょうか。無料で付帯する団体信用生命保険について、民間金融機関と、フラット35に分けて説明しましょう。
■【民間金融機関】の団体信用生命保険の場合
民間金融機関・銀行の団体信用生命保険の場合、以下のケースで保険金が支払われます。
・死亡
・高度障害(以下は民間金融機関による一般的な定義)
1、両眼の視力を全く永久に失ったもの
2、言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
3、中枢神経系または精神に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
4、胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
5、両上肢とも、手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
6、両下肢とも、足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
7、1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
8、1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの
保険金が支払われるのは、「死亡」した場合と、「高度障害」になってしまったケースです。「高度障害」といっても馴染みがあまりありませんが、上記のような具体的な定義があり、そのケースに当てはまった場合のみ支払われます。
やや難解な言葉で書かれているため理解しにくいでしょうが、この定義をよく読んでみると、かなり重度の障害が残ったケースであることが分かります。
また「半身が完全に動かなくなったケース」は保障はされません。脳梗塞などの脳疾患にかかった場合、後遺症として半身が完全に動かなくなってしまうケースがありますが、それは保障されないのです。
以上は通常の銀行の無料で付帯する保障ですが、ネット銀行については、無料の保障を充実させている銀行が増えています。住信SBIネット銀行は「全疾病保障」、auじぶん銀行は「がん50%保障+全疾病保障」を無料で付帯するなど、団体信用生命保険の充実に力を入れています。
■【フラット35】の団体信用生命保険の場合
フラット35は通常、「団体信用生命保険込み」の金利を表示しています。ただし、団体信用生命保険の加入を義務付けていないので、加入しない場合は、表示している金利から0.2%を引いた金利が適用されます。
フラット35の通常の団体信用生命保険は、実は、民間金融機関よりも保障内容が少し手厚くなっています(2017年10月以降の申し込みの場合)。
・死亡
・身体障害(身体障害1級、2級で、障害者手帳取得)
※以下は、身体障害2級の障害程度(抜粋)。
1、両眼の視力の和が0.02以上0.04以下のもの
2、両眼の視野がそれぞれ10度以内でかつ両眼による視野について視能率による損失率が95パーセント以上のもの
3、両耳の聴力レベルがそれぞれ 100デシベル以上のもの(両耳全ろう)
4、両上肢の機能の著しい障害
5、両上肢のすべての指を欠くもの
6、1上肢を上腕の2分の1以上で欠くもの
7、1上肢の機能を全廃したもの
8、両下肢の機能の著しい障害
9、両下肢を下腿の2分の1以上で欠くもの
10、体幹の機能障害により坐位又は起立位を保つことが困難なもの
11、体幹の機能障害により立ち上がることが困難なもの
12、肝臓の機能の障害により日常生活活動が極度に制限されるもの
13、(身体障害1級)心臓・じん臓・呼吸器・ぼうこうまたは直腸、小腸の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの
「死亡」時に保障されるのは同じですが、それ以外は「身体障害」になった場合が保障されます。「身体障害」とは、身体障害1級、または2級の障害があり、障害者手帳を取得したケースです。
フラット35の団体信用生命保険は、民間に比べて若干、対象範囲が広くなっています。
例えば、「上肢(手と腕のこと)」について比べてみましょう。フラット35の団体信用生命保険は「1上肢の機能を全廃したもの」が保険の対象となりますが、民間金融機関・銀行の場合、「両上肢とも、手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの」となり、フラット35の保障の方が充実していること分かります。
とはいえ、無料で付帯している保障や、フラット35の通常の団体信用生命保険だけでは、保障に限度があります。「がん」「急性心筋梗塞」「脳卒中」などについて、より手厚い保障を受けたい場合は、オプション団体信用生命保険に加入すると良いでしょう。
過去3年以内の病気・手術があれば、
加入できないことも
団体信用生命保険は生命保険の一つであるため、誰もが加入できるわけではありません。加入するためには、健康状態について告知が必要です。保険会社によっても異なりますが、過去3年間に、下表の病気で手術または2週間以上の期間にわたり医師の治療・投薬を受けている場合、原則、加入できません。
告知が必要なおもな傷病 | |
心臓・血圧 |
狭心症・心筋こうそく・心臓弁膜症・先天性心臓病 心筋症・高血圧症・ 不整脈・その他心臓病 |
脳・精神・神経 |
脳卒中(脳出血・脳こうそく・くも膜下出血) 脳動脈硬化症・その他脳の病気・精神病・うつ病 神経症・てんかん・自律神経失調症・アルコール依存症 薬物依存症・知的障害・認知症 |
肺・気管支 |
ぜんそく・慢性気管支炎・肺結核・肺気腫・気管支拡張症 |
胃・腸 |
胃かいよう・十二指腸かいよう・かいよう性大腸炎・クローン病 |
肝臓・膵臓 |
肝炎・肝硬変・肝機能障害・膵炎 |
腎臓 | 腎炎・ネフローゼ・腎不全 |
目 | 緑内障・網膜の病気・角膜の病気 |
新生物 | ガン・肉腫・白血病・腫瘍・ポリープ |
その他 | 糖尿病・リウマチ・こうげん病・貧血症・紫斑病 |
女性だけの病気 | 子宮筋腫・子宮内膜症・乳腺症・卵巣のう腫 |
もし加入できない病気を過去に患ったことがある、あるいは現在治療中の人は薬の種類や量、回復状況などを書面にして提出したり、医師の診断書を添付したりすると、審査にパスすることもあります。
同じ病気でも、審査に通る人もいれば通らない人もいるなど、個人差が大きいため、一概にボーダーラインを断定できないのが悩ましいところです。ただ、基本的には、「仕事ができるかどうか」「収入が安定しているかどうか」「寿命はどれくらいか」などが審査のポイントになります。
通常団体信用生命保険の審査に落ちたら、
「ワイド団体信用生命保険」を検討しよう
万が一、普通の団体信用生命保険に入れない場合には、団体信用生命保険より加入条件が緩やかな「ワイド団体信用生命保険」や「スーパー団体信用生命保険」などへの加入が選択肢になります。ただし、金利は0.3%前後高くなります。
これまでに加入が認められた疾患として、「糖尿病」「うつ病」「高血圧」「肝機能障害」「心筋梗塞」「脳卒中」など何十種類もの病気が明記されています。とはいえ、審査基準が緩いとはいっても、無制限に加入できるわけではありません。
どの程度の症状まで審査に通るかは公表されていませんが、症状がある程度抑えられていて、病状が安定していることが大前提となるのは確かなようです。可能であれば、医師に一筆書いてもらった資料などを添付するといいでしょう。
【関連記事はこちら】>>住宅ローンは病気があると「団体信用生命保険」に加入できない? リスクのある病名と、ワイド団体信用生命保険加入などの対策紹介
「特約付き」がトクになるとは限らない
近年、多くの銀行で「がん保険」や「3大疾病保障」(がん、脳卒中、心筋梗塞)などを団体信用生命保険に付与した「特約付き団体信用生命保険」(疾病保障付き団体信用生命保険)を用意しています。最近では「7大疾病」「8大疾病」さらには「11大疾病」を保障する団体信用生命保険も登場しています。
ただし、もともと団体信用生命保険の保険料は実質的に金利に含まれていて、特約の範囲が広いほど金利に上乗せされます。3大疾病保障であればプラス0.3%前後上乗せされます。
ですから、特約を付けた分だけ金利が上昇しますが、それによるメリットがどれだけ得られるのかは、慎重に判断したいところです。さらに同じ「〇大疾病保障」でも、基準や保障内容は金融機関によって若干異なるので要注意です。
なかには「〇種類の生活習慣病のいずれかで、180日以上継続して入院した場合、住宅ローン残高が0円」という特約もありますが、180日以上継続して入院になるケースはかなり稀です。厚生労働省の平成26年度「傷病分類別にみた年齢階級別退院患者の平均在院日数」によれば、平均入院日数で180日を超えるのは統合失調症とアルツハイマー病くらいで、くも膜下出血や脳内出血でも120日前後となっています。
もちろん、こうした「稀」に備えるのが保険と考えるのであれば、加入するのもアリです。いずれにしても、特約付き団体信用生命保険は、保障の範囲をよく確認した上で契約を結びましょう。
フラット35では、あえて団体信用生命保険に加入せず
生命保険で済ませる手も
フラット35や東京スター銀行など、団体信用生命保険の加入が絶対条件ではない銀行(商品)もあります。その場合、仮にローン契約者が亡くなっても、すでに加入している一般の生命保険で住宅ローンを全額返済できるのであれば、問題ありません。
ただし、いま借りている住宅ローンで団体信用生命保険に加入していて、一般の生命保険に未加入の人が、フラット35などに「借り換える」場合には注意が必要です。もし病気を抱えていると、借り換え時に団体信用生命保険に新たに加入できず、団体信用生命保険にも生命保険にも未加入の状態になる恐れがあるからです。
通常なら、生命保険は年齢が上がるほど掛金も高くなりますが、団体信用生命保険はあなたが50歳であっても、20歳の人と保険料は一緒という素晴らしい保険です。そのため、病気で団体信用生命保険に加入するのが難しく、住宅ローンをカバーできる生命保険にも加入していない場合には、借り換えで浮く数百万円を捨てても、団体信用生命保険の数千万円の保障を残すことを選択したほうがいい人もいます。
言ってみれば、団体信用生命保険に入るということは、4000万円の家を購入したら、同額の生命保険に加入したのと同じです。「あえて借り換えない」という選択もあることを覚えておきましょう。
注文住宅を建てる人は
「ぽけっと団体信用生命保険」への加入の検討も
ところで、団体信用生命保険は住宅ローンの融資実行後の保障になるため、注文住宅を建てる際の工事着工から竣工までの建築中は保障の対象になりません。万が一、この期間に施主(=ローン契約者)が病気や交通事故、災害などで死亡または高度障害状態になった場合、融資は実行されず、すでに発生している土地代金や工事費の支払いに困ることになります。
こうした事態に備える保険として、融資実行前団体信用生命保険「ぽけっと団体信用生命保険」があります。融資実行前に発生している、土地代金や工事費用の未払い金を賄う保険です。保障期間は着工から引き渡し日の月末まで(最長1年間)。保障範囲は住宅ローンで支払う分の土地代金と工事代金。保障額は最大5000万円までです。
保険料は1カ月あたり、保障額×0.05%(たとえば保障額4000万円、保障期間6カ月なら4000万円×0.05%×6カ月=12万円)です。不安な人は加入しておくことをお勧めします。
まとめ
・民間金融機関の住宅ローンのほとんどは団体信用生命保険への加入が条件・団体信用生命保険より加入条件が緩やかな「ワイド団体信用生命保険」等もあるが、金利はアップ
・特約付き団体信用生命保険は本当にトクになるか、保障内容をよく確認する
・注文住宅を建てるなら「ぽけっと団体信用生命保険」への加入の検討も
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淡河範明さん
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