マンション価格の高騰が続いている。首都圏では2023年の新築マンション価格が平均で8000万円を超え、東京23区の平均は1億円を突破した。中古マンションも上がり続けているが、都心やその周辺とそれ以外のエリアとの二極化傾向が強まり、下落の懸念が強まっている。この先、住宅価格はどうなっていくのだろうか。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
首都圏のマンション価格は10年間で6〜7割アップ
首都圏の新築マンション平均価格は、民間調査機関の不動産経済研究所によると、2013年は4929万円だったのが、2023年は8101万円で、10年間で64.4%も上がっている。東京23区だけに限ると、2023年には1億1483万円と、1億円を超えたほどだ。
中古マンションも同様で、東日本不動産流通機構によると、2013年の首都圏の成約価格の平均は2589万円だったものが、2023年は4575万円。10年間の上昇率は76.7%で、中古マンションの上昇率はむしろ新築マンションを上回っている。
一方、東日本不動産流通機構のデータから、首都圏の戸建て住宅の価格動向をみると、新築は2013年に3416万円だったものが、2023年は4070万円で、19.1%のアップ。中古戸建住宅は2013年が2921万円で、2023年が3848万円だから、10年間の上昇率は31.7%だ。
戸建て住宅はマンションほどではないとはいえ、デフレが長く続いたなかでは、かなり高い上昇率といわざるを得ない。
新築住宅の価格はまだまだ上がり続ける可能性が高い
この住宅価格の上昇、新築住宅については、当分高騰が続くのではないかとみられている。なぜなのか――。
新築住宅の価格は、ザックリといえば、①用地取得費、②建築費、③分譲会社の経費・利益の総額を戸数で割って販売単価が決定される。その①~③がいずれも上がり続けているのだから、それを価格に転嫁、結果として新築住宅価格は上がり続けざるを得ない。
用地取得費の一例として、2024年3月下旬に発表された国土交通省の地価公示の変動率をみると、図表1、2のようになっている。
図表1 住宅地の地価変動率
図表2 商業地の地価変動率
東京圏の住宅地の平均は前年比で3.4%の上昇で、商業地に至っては5.6%の上昇を記録している。
商業地は駅前などの利便性の高いエリアが多く、マンションの立地に最も適した場所を含み、人気のエリアでは競争入札によって、平均5.6%の上昇にとどまらず、それまでの相場より格段に高い価格で取得されていることが多い。
建築費もひところに比べれば落ち着いているとはいえ、依然として高止まりしており、働き方改革のなかで分譲会社の経費も膨らみ続けている。そのため新築住宅価格はまだまだ上がることになるのではないだろうか。
新築マンションは「3カ月後も上がり続ける」が多数派
では、実際に不動産業界関係者はどうみているのだろうか。全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)の不動産総合研究所が全宅連のモニター企業に対してアンケートを行った結果は図表3、4のようになっている。
3カ月前に比べての現在(2024年1月)の全国の新築マンション価格は、図表3にある通りで、「大きく上昇している」と「やや上昇している」の合計が51.2%と半数を超え、「やや下落している」と「大きく下落している」の合計は8.0%にとどまっている。
図表の通り、「上がり続けている」とする不動産会社が圧倒的に多くなっているわけだ。
図表3 3カ月前に比べての現在の価格(新築・中古マンション)
図表4 3カ月後の価格予想(新築・中古マンション)
図表4は、3カ月後の価格をどうみているかを聞いた結果だが、こちらも新築マンションに関しては、「上がる」の合計が43.5%に対して、「下がる」の合計は11.3%と、今後も新築マンション価格は上がり続けるだろうとする不動産関係者が多数派を占めている。
中古マンションは「3カ月後には下がっている」可能性も
しかし、中古マンションの回答結果をみると、様相が異なる。現在の価格については、「大きく上昇している」と「やや上昇している」の合計が25.1%に対して、「やや下落している」「大きく下落している」の合計が15.9%で、上昇の合計が優勢ではあるものの、新築に比べると上昇に勢いがなくなっている感がある。
しかも、3カ月後の見通しについては、「上がる」の合計が20.8%に対して、「下がる」の合計は21.5%で、わずかとはいえ「下がる」のほうが多くなっている。
価格はいつまでも上がり続けるものではない。そろそろ頭打ち、ピークアウトして、下がり始めるのではないかとする不動産関係者が多いわけだ。
中古マンションの新規登録価格はほとんど上がっていない
そうした不動産関係者の見方を裏付けるのが、中古マンションの新規登録価格の動向。成約価格は上がり続けている一方で、新規登録価格はさほど上がっていない。
売主である消費者や、仲介にあたる不動産会社の担当者が市場の先行きを見越して、やや弱気になって値付けを行っているのではないだろうかと推測されるのだ。
図表5は、首都圏の中古マンションの成約価格と新規登録価格の1㎡当たりの単価の前年同月比を折れ線グラフにしている。
図表5 首都圏中古マンションの成約と新規登録の㎡単価前年同期比(単位:%)
成約価格はこのところ前年同期比で5%前後から10%台、11%台の上昇で推移しているが、新規登録単価は2023年後半から0%を挟んだ動きになっている。
前年同月比でマイナスの月も多く、プラスになっても、0%台、1%台にとどまっていて、ほとんど上がっていない。オレンジの折れ線グラフは横ばい、あるいは下落傾向になっているのだ。
成約物件に比べると、新規登録物件は建築後の築年数の長い物件が多く、専有面積も成約物件の平均に比べるとかなり狭くなっているため、簡単に売れにくい物件も多いという事情はあるにしても、弱気の値付けが強まっているのは間違いないだろう。
首都圏周辺3県の中古マンション価格は下落が始まっている
エリア別にみると、図表6にあるように需要の強い東京都の2024年2月の新規登録価格は+3.7%だが、周辺3県はマイナスとなっている。埼玉県と神奈川県が-2.5%で、千葉県は-2.8%だ。
図表6 首都圏都県別の中古マンションの新規登録㎡単価前年同期比(単位:%)
このエリアによる価格の二極化傾向は、マンション情報サイトの「マンションレビュー」のデータにも表れている。
図表7にあるように、首都圏全体の70㎡換算の中古マンション価格は前年比2.5%のマイナスだが、東京都は+2.6%で、都心5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)は+12.0%と突出した上昇率だが、都心周辺は上がってはいるものの、上昇率が低くなっている。
図表7 首都圏中古マンションのエリア別の70㎡換算価格の1年前との騰落率
城東(台東区・墨田区・江東区・葛飾区・江戸川区)は+2.4%、城西(中野区・杉並区・練馬区)は+1.4%、城南(品川区・目黒区・大田区・世田谷区)は+0.4%、城北(文京区・豊島区・北区・荒川区・板橋区・足立区)は+0.2%の上昇率にとどまっている。
それ以外のエリアは下落している。都下(東京23区外)は-1.6%、埼玉県主要エリア(さいたま市・川口市)は-7.0%、千葉県主要エリア(市川市・船橋市・浦安市)は-7.3%、神奈川県の横浜市はー2.5%、川崎市は-2.3%の下落となっている。
エリア別の動向をきちんと把握した上で売買する必要がある
新築マンションはまだしばらく価格上昇が続くとみられるものの、中古マンションは都心やその周辺とそれ以外のエリアで異なる動きになっている。
都心とそれ以外の二極化にとどまらず、都心のみ高騰が続き、その周辺は微上昇、そして周辺3県は下落傾向と、三極化といってもいい状況に変わりつつある。しかも、周辺3県でも下落率にはかなりの違いがある。
今後はその二極化、三極化傾向がさらに強まる可能性があるので、住宅の売買に当たってはエリア別の動向をきちんと分析しながら判断していく必要がある。
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