中古マンション価格の上昇が続いているが、あまりにも高くなり過ぎているため、そろそろ頭打ちになるのではないか、ピークアウトするのではないかという見方が広がっている。実際、首都圏の中古マンション市場をみると、都心以外の周辺部では頭打ちから下落傾向がみられるようになっている――この先、どうなるのだろうか。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
首都圏の中古マンション成約価格は1年で10%以上アップ
首都圏の中古マンション成約価格が上がり続けている。2024年2月の成約価格の平均は図表1にあるように4859万円で、2023年2月の4359万円に対して、前年同月比で11.5%のアップだった。
2024年1月の前年同月比13.7%のアップに続いて、2カ月連続の二桁台の上昇だ。
図表1 首都圏中古マンションの成約価格と前年同月比
東日本レインズによると、首都圏中古マンションの成約価格の前年同月比での上昇は、2020年6月から実に45カ月連続で、上昇率もしばらくは一桁台だったのが、ここへきて二桁台となり、中古マンション価格の上昇に歯止めがきかなくなったような感じがある。
しかし、この上昇がどこまで続くのか、不安がないわけでもない。東日本レインズのデータを詳細にみると、マンションの売主や仲介会社がやや弱気になりつつあるのではないかという見方ができるのだ。
売り出し価格は1年で1%も上がっていない
成約価格は上述の通りたいへんな勢いで上がっているのだが、実は新規登録価格はさほど上がっていない。
東日本レインズによると、首都圏中古マンションの新規登録価格の平均は4243万円で、前年同月比の上昇率は0.9%にとどまっている。
新規登録物件の平均築年数は成約物件の築年数より7年ほど長く、専有面積は成約物件の平均に比べて6㎡以上狭くなっている。
そのため、新規登録価格のほうが成約価格より安くなっているのだが、注目したいのは、新規登録価格の前年同月比の上昇率だ。
成約価格が前年同月比11.5%のアップに対して、新規登録価格は0.9%と大きな差がある。
その上昇率には都県による違いが大きく、図表2にあるように東京都は4.1%の上昇だが、神奈川県はー2.7%、埼玉県はー2.5%、千葉県はー2.0%のそれぞれダウンとなっているのだ。
図表2 首都圏都県別の中古マンション新規登録価格の前年同月比の推移
中古マンション価格は3カ月後、下落する?!
中古マンション価格があまりにも高くなり過ぎていることもあって、売主や仲介会社の担当者の間で警戒感が広がっているのではないだろうか。
そろそろ頭打ちではないか、下落が近いのではないかと弱気の値付けが広まっているように見受けられる。
価格水準の高い東京都ではさほど見られないが、神奈川県や埼玉県、千葉県ではその傾向が強まっており、それが新規登録価格の低下につながっているのではないだろうか。
早期に買い手がつきそうな低めの価格で売り出して早めに売り逃げしたい――そんな思いが透けて見える。
全国宅地建物取引業協会連合会不動産総合研究所が、不動産仲介会社を対象に実施した調査をみてみよう(図表3)。
図表3 中古マンションの現在の取引価格と3カ月後の予測
現在の中古マンションの取引価格については、「大きく上昇している」が1.2%、「やや上昇している」が23.9%で、上昇の合計が25.1%。一方、「やや下落している」が15.3%、「大きく下落している」が0.6%で下落の合計は15.9%と、現在では上昇が優勢となっている。
それに対して、3カ月後の予測をみると、上昇の合計が20.8%に対して、下落の合計は21.5%となっている。
若干ではあるが、下落の割合の方が高くなっており、いつまでも上昇は続かないだろうとする仲介会社が増えているのではないかと考えられる。
都心部以外では中古マンション価格が下がり始めている
3カ月後の予測だけではなく、エリアによっては、すでに下落が始まっているのではないかというデータも見られるようになってきた。
図表4は、マンション情報の「マンションレビュー」を運営するワンノブアカインドが調査した、2024年1月の首都圏エリア別の70㎡換算中古マンション価格の平均を示している。
図表4 首都圏エリア別の中古マンション70㎡換算価格と対前年上昇率
都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の平均価格は9530万円で、1億円近くまで上がっていて、前年同月比の上昇率は8.9%となっている。しかし、都心5区以外のエリアではそれほど上がっていない。
城東(台東区、墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区)エリアは0.2%のわずかな上昇だが、この程度の上昇であれば、ほぼ横ばいレベルといってもいいのかもしれない。
そのほかの城北(文京区、豊島区、北区、荒川区、板橋区、足立区)エリアは1.5%のマイナス。城西(中野区、杉並区、練馬区)エリア、城南(品川区、目黒区、大田区、世田谷区)エリアは2%台のマイナスとなっている。
都下と埼玉県の主要エリアは4%台のマイナス、千葉県の主要エリアは11.2%のマイナスだった。
価格水準が東京都に近い横浜市、川崎市は1%台、2%台のマイナスにとどまっているものの、都心やその周辺の一部エリア以外では中古マンションの平均価格の低下が始まっているわけだ。
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中古マンション売買では、仲介市場の見極めが大事な時期に
不動産情報ネットワークのアットホームのデータを見ても、ほぼ同じような傾向が当てはまる。
図表5にあるように、2024年1月の調査では、東京23区の中古マンション平均価格は5099万円で、前年同月比3.7%の上昇だが、東京都下は3247万円で前年同月比1.3%の上昇にとどまっている。
図表5 首都圏エリア別中古マンション平均価格と前年同月比
周辺各県では下落を示しているエリアが多い。東京23区に次ぐ価格水準の高いエリアである神奈川県横浜市・川崎市は前年同月比0.6%の下落、埼玉県さいたま市は1.4%の下落、千葉県西部エリアは3.9%のダウンなどとなっている。
各種のデータをみると、都心やその周辺ではまだまだ中古マンション価格が上がり続けているものの、それ以外のエリアでは横ばいから下落が始まっている。
中古マンションの売買に当たっては、仲介市場の動向を見極めながら、慎重に対応を考えていくべき時期に差し掛かっているようだ。
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中古マンション価格の二極化がますます進行
というのも、消費者のマンション購買力が、新築と中古では大きく異なっているという事情がある。
国土交通省の「令和4年度住宅市場動向調査」によると、分譲集合住宅(新築マンション)の購入者の平均年齢は44.8歳で、平均年収が960万円に対して、既存集合住宅(中古マンション)購入者の平均は46.3歳、平均年収657万円となっている。
平均年齢は中古マンション購入者のほうが高いが、年収は300万円以上低いのが現実だ。
マンション購買力には新築と中古で大きな差がある。特に、価格帯の低いエリアで購入を考えている人は、年収が平均より低いものとみられ、購買力が弱い可能性が高い。
それだけに、価格上昇への対応力が弱く、少しでも安い物件を探さざるを得ず、場合によっては、購入を当面見送らなければならないといった判断になる可能性も高い。
そう考えると、都心やその周辺と、それ以外のエリアとの価格面での二極化がますます進む可能性が高いのではないだろうか。
都心やその周辺の価格水準の高いエリアの価格はまだまだ上がるものの、それ以外のエリアでは頭打ちから下落に向かい始めている。今後、その傾向にさらに拍車がかかるかもしれない。
中古マンションの売買を考える上では、注目しておきたい動向といえるだろう。
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