最新の新築マンション市況はどうなっているのか? 新築マンションに詳しい住宅評論家・櫻井幸雄氏が、最新の価格相場、売れ行き、デベロッパー33社を調査して作成した人気の物件について解説する。新築マンションの価格高騰が話題になる中、実需層には価格を抑えた物件や小規模マンションが人気となっている。(住宅評論家・櫻井幸雄)
【2024年最新版】販売中の人気マンションの傾向は?
継続的に行っている全国・新築マンション人気度調査の最新版がまとまった。今回の調査期間は2024年4月1日から6月30日まで。本調査は「パンフレットなどの資料請求」「販売センターでのモデルルーム見学や商談」が、「総戸数」に比べてどのくらい多いかを「人気倍率」として計算し、ランキングにしている(計算方法の詳細はこちら)。
今回の調査で「人気マンション」と認定された物件には、どんなものがあるのか。それらに共通する特徴は……早速、人気マンションの分析に入りたい。
人気物件は増えたが、“スター物件”が見当たらない…
まず発表したいのは、人気物件と認定されるマンションの数が増えたということだ。
近年、人気物件の数が減っていた。2022年10月から12月期の人気マンションは全国で136物件あったが、その半年後、2023年4月から6月期の調査では118物件に減少。さらに、2023年10月から12月では109物件にまで減った。
それが、今回調査(2024年4月1日〜6月30日)では144物件まで増加した。
この数字だけを見れば、新築マンション市況は活気がある、ということになる。しかし、「必ずしも活気があるとはいえない」ことを示す数字も今回の調査で出てきた。それは、「スター物件」と呼ぶにふさわしい事例が見当たらないことだ。
人気マンションと認定された144物件のうち、短期間に完売する可能性が高い「人気指数5倍以上」のマンションは14物件。半年前の前回調査では10物件だったので、その数は増えている。一方で、一等地に建設される物件が減ってしまった。
振り返れば、昨年から今年初めにかけて、首都圏ではいくつか一等地に建設される物件があった。東京都世田谷区の「ブランズ自由が丘」や「プラウド白金長者丸」「ブランズ渋谷代々木公園」「ザ・パークハウス 千代田六番町」などだ。
物件名に付けられた所在地の名前で有名な場所のマンションであることが分かる物件である。ところが、本調査では、一等地に建設され、多くの人が注目するマンションが減ってしまった。
今回の調査で、最も高い人気指数となったのは、都心の小規模マンション。東京メトロ東西線門前仲町駅から徒歩5分の「ザ・パークハウス富岡門前仲町」で人気指数「14.5倍」だった。東京駅まで3.5km圏内で、富岡八幡宮に近いという利点もあるマンションだ。とはいえ、「門前仲町」に一等地の印象はない。
また、大規模再開発物件ではなく、地上11階建て・全37戸の小規模マンションとなっている。一方で、都心でありながら約54㎡の2LDKが9090万円からという価格も実現。その手頃さで、注目度が高まったと考えられる。
続く、高人気指数マンションとしては以下の通りだ。
・全44戸の「アトラス麻布十番」(人気指数9.9倍)
・全69戸の「パークホームズ代々木西原」(同8.8倍)
・全98戸の「パークタワー大森」(同7.7倍)
・全63戸の「ザ・パークハウス芝御成門」(同7.3倍)
総戸数が100戸を超えるマンションで、高人気指数となったのは
・「パークホームズ浅草橋」(総戸数106戸で人気指数6.7倍)
・「ザ・パークハウス 代々木大山レジデンス」(同140戸で、5.2倍)
が注目される。
いずれも好ましい条件を備え、「アトラス麻布十番」のように「三田ガーデンヒルズ」に近いという推し条件を備える物件もある。しかしながら、「一等地の大型開発」は見当たらない。
多くの人が憧れる「スター物件」が全国的に少なくなってしまったというのが、今回調査で浮かび上がってきた最新人気マンションの実情なのである。その分、価格が抑えられ、通好みのマンションがそろっている、という側面もあるのだが、今までのように、「スター物件」に全国から購入希望者が押し寄せ、お祭り騒ぎのようになった状況ではなくなったわけだ。
自ら住む目的で新築住宅を買う人たちの主導する市場へ
じつは、「スター物件」がないことを嘆く声は不動産業界にもある。
「三田ガーデンヒルズ」や「晴海フラッグ(旧・選手村マンション)」のように、多くの人が注目する大型物件があったことで、マンション市況全体が盛り上がった。その活気がなくなるのは寂しいというわけだ。
確かに、今は爆発的人気のスター物件が見当たらない。一方で、郊外エリアでもほどほどの人気のマンションが増えている。投資目的の購入者が殺到する物件は減ったが、実需層(自ら住む目的で新築住宅を買う人たち)に支持される堅実な物件により、人気マンションの裾野は広がっている……通常のマンション市況に戻ってきた、ということも、今回調査で浮かび上がってきた状況である。
郊外で人気を高める大規模マンション
「通常のマンション市況に戻ってきた」ことを示す動きとして、首都圏郊外で人気マンションが増えたことがある。
郊外で戸数規模が大きい人気マンションを挙げると、東京都市部にある「ザ・パークハウスひばりが丘」(総戸数125戸)や「ルネ花小金井ザ・レジデンス」(総戸数162戸)がある。
神奈川県では建て替え事業で生まれる「プロミライズ青葉台」(総戸数761戸)が人気指数3.0となり、大人気だ。
他に「ザ・パークハウス宮前平二丁目」(総戸数154戸)と「パークホームズ溝の口 ミッドイースト」(197戸)、「バウス鷺沼Hills」(総戸数91戸)も高人気マンションであり、以上4物件はすべて、東急田園都市線の沿線に立地している。一時期、オワコン扱いされたこともある東急田園都市線だが、人気復活の予感もあるわけだ。
千葉県の「パークリュクス南船橋」(総戸数133戸)やつくばエクスプレスのつくば駅を最寄りとする茨城県の「ル・サンクつくば並木」(総戸数154戸)も、郊外エリアで人気の大規模マンションだ。
近畿圏での人気事例は下記の通りだ。
・京都府の「ジオ京都桂川テラス」(総戸数128戸)
・大阪府池田市の「ジオ池田グランプレイス」(総戸数108戸)
・「パークホームズ千里中央ザ レジデンス シティフロント」(総戸数151戸)
・「ルネ江坂江の木町」(総戸数149戸)、「ローレルコートあびこBAUS」(総戸数107戸)
減速する地方のマンション市況。その先は
東京以外の場所を見ると、人気物件が増えて市況に活気が感じられるのは大阪を中心にした近畿圏。特に大阪市内の中心部や北摂・阪神間で人気物件が目立つ。総戸数173戸で人気指数「1.8倍」となった「ザ・パークハウス 大阪梅田タワー」は、新築分譲マンション価格が高額化する梅田エリアにあって文句なしの人気マンションだろう。
ちなみに、同マンションは、143戸の販売が終了した時点で販売を一時休止している。再開したときの価格がどうなるのか……。どこまで上がるのか心配になる事態である。
一方で、九州や沖縄などの地方都市では人気物件が減り、人気指数も全般的に低めの傾向が続いている。地方都市では、もともとマンション購入希望者の人数が限られているため、今は調整期と考えられる。
とはいえ、販売前マンションの注目度を測る販売前人気指数では、地方エリアで中心地に立地する物件が増えているのが注目される。一休みした後に地方都市で人気物件が増えてくる可能性は大きい。
販売開始前で超高人気となったマンションは?
販売開始前で人気物件の目安・販売前人気指数「2倍」以上となったのは、全国で41物件。半年前の調査では35物件だったので、わずかに増加していることになる。
そのなかで、販売が開始されれば短期間で完売する可能性が高い「販売前人気指数10倍以上」となったのは全国で6物件。半年前の前回調査では3物件だったので、大幅増ということになる。
販売前人気指数で最高値となったのは埼玉県さいたま市内の「URAWA THE TOWER」(販売前人気指数19.2倍)だった。JRの浦和駅から徒歩3分に建設される地上27階建ての免震・超高層マンションだ。
総戸数525戸(一般に販売されるのは291戸)の大規模物件で、販売前人気指数が19.2倍になるのは驚異的。まだ価格は公表されていないので、「いくらになるのだろう」と興味を抱く人が多い結果、資料請求者が殺到している様子が見て取れる。
浦和駅の西口側で、歴史ある高砂エリアに建設されるので、安く販売されることはないだろう。「高額でも、この場所のマンションであれば、ぜひ購入したい」と考える人が販売開始を待ち構えている……これから先の「スター物件」となることは間違いない。
それに続く、高人気指数物件は「シティタワー東京田町」。住友不動産が分譲する地上34階、全180戸の超高層マンションである。
建設地の芝浦エリアで、複数の超高層マンションを開発してきた住友不動産のマンションであること、そして住友不動産の都心の超高層は、最初の販売が買い得と考えられていることから、販売開始を待ち構えている人が多い。
これもまた今後の「スター物件」の候補だ。このほか、戸数規模が大きく、販売前人気指数が高いマンションとして、「リビオタワー品川」(全815戸で、販売前人気指数5.0)と「リビオシティ文京小石川」(全522戸で、販売前人気指数7.5倍)がある。いずれも、要注目の新規分譲マンションだ。
首都圏以外では、大阪府の「リビオ上町台パークレジデンス」と「プレディア高槻北園町」が、販売前人気指数10倍以上の物件となる。総戸数はそれぞれ56戸と30戸という小規模であるため、価格次第で瞬間蒸発的に完売する可能性が高いマンションとなっている。
【2024年8月版】最新の新築マンション市況は?
最後に最新の新築マンション市況についてまとめておこう。東京でも大阪でも新築分譲マンション価格が上がり続けている、とされた時期……ただし、一部で集客に苦戦する物件も出始めた、と言われていた時期でもある。
実際のマンション市況は2024年に入って以降、落ち着きをみせている。ここ数年続いた「価格上昇」が一段落した感があるのだ。
といっても、「価格下落」が始まったわけではない。東京、大阪、名古屋中心部の高額マンションは、高い価格水準を維持している。以前より勢力を弱めたとはいえ、相変わらず「上昇基調」である場所もある。一部はまだ値上がりし、多くは高止まり……それが、中心部のマンション市況といえる。
一方、郊外では「緩やかな上昇」が続いている。しかし、郊外マンションが「3LDKで1億円」というようなレベルまで高額化しているわけではない。郊外には、「これ以上高くなったら、買う人がいなくなる」という明確な線引きがあり、そのラインを超えて価格上昇が続くことはない。
現在、郊外マンションにおける線引きは、「8000万円」だ。
まず、ファミリー向けの3LDKで新築分譲価格が7000万円を超えると、購入できる人が大幅に減る。その上の段階である8000万円を超えたら、よほどの物件(駅に近い再開発案件など)でないと、買い手が付かない。
郊外エリアでは6000万円台の3LDKや5000万円台の2LDKが主力商品となる。その価格がじわじわ上がり始めている、というのが実情だ。そのことを肌で感じる購入者が、なるべく良い条件の5000万円台物件、6000万円台物件をいまのうちに買おうとしている。
以上が、2024年4月から6月までの新築マンション概況ということになる。
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