新築マンションの資産価値や住み心地を考えた場合、忘れてはならないのが「管理」だ。マンション管理のことを、「決められた管理費や修繕積立金を払うだけ」「管理会社にすべて任せておけば大丈夫」と考えていたら大間違い! 購入前でもできる、マンション管理のチェックポイントを教えよう。
「マンションは管理を買え」の意味
「マンションは管理を買え」とよくいわれる。マンションの資産価値や居住性は、住み始めてからの「管理」によって大きく左右されるからだ。
ところが、管理というと「清掃がきちんと行われていること」とか「管理会社がしっかりしていること」と考えている人が多い。間違いではないが、実はそれは表面的な問題にすぎない。
「本当に大事なのは、管理組合の財務が健全であること、理事会の活動が活発なこと、建物・設備のメンテナンスが適切なこと、の3つです。この3つが、将来にわたってマンションの資産価値と居住性を左右するといっても過言ではないでしょう」
こう語るのは、管理組合向けコンサルティングの草分けであるソーシャルジャジメントシステムの廣田晃崇社長だ。同社は1997年の創業以来、1万件以上の相談に対応し、管理委託費の削減サポートなどを手掛けてきた。
廣田氏があげる3つのポイントは、どれひとつを欠いてもマンションの管理レベルの低下につながる。3つのバランスがとれていることが大切だ。
ところが、新築マンションは工事中に販売がスタートする「青田売り」が一般的。管理組合や理事会はまだ存在しないし、建物もまだ出来上がっておらず、チェックが難しいのは否めない。
とはいえ、購入前であってもいくつか確認できる点はある。
管理費と修繕積立金はそれぞれ目的、用途が違う
代表的なのが、管理組合の財務についてだ。
そもそも分譲マンションでは、各住戸の購入者(区分所有者)によって構成される管理組合が、建物や設備(共用部)の維持・管理を行う。そのための費用として毎月、「管理費」と「修繕積立金」を集める。
「管理費」は、管理員による窓口対応や清掃、エレベーターの定期点検など日々の業務のために使われるものだ。
「修繕積立金」はこれとは別に、数年から十数年おきに行う外壁や屋上防水の補修、鉄部塗装のやり直しなど、大規模なメンテナンス工事のために積み立てるものだ。
管理費と修繕積立金の金額は、あらかじめ売主がマンションの規模やグレード、設備仕様などをもとに設定している。
「赤字マンション」がいま増えている?
ところが最近、入居した後に、マンション全体として管理費や修繕積立金が不足している「赤字マンション」であることが発覚するケースが増えている。
「一番の理由は、売主のデベロッパーが新築マンションを売りやすくするために、当初の管理費や修繕積立金を低く設定していることです」(廣田氏)
管理費については、敷地内に設ける駐車場の利用料の一部を組み入れ、購入者が直接負担する額を減らす場合がある。しかし、最近は車を持たない世帯が増えており、想定よりも空きが増え、管理費会計が赤字になってしまうのだ。
修繕積立金については、大規模修繕工事を行うのは十数年先なので、分譲当初は低く抑え、不足分は将来、段階的に値上げする想定のマンションがほとんどである。
しかし、修繕積立金の値上げは管理組合の総会で決議しなければならず、想定どおりにいくかどうかはわからない。
購入者も、検討段階で特に気になるのは、毎月の住宅ローンなどの負担がいくらになるかということ。「管理費や修繕積立金はなるべく安いほうがうれしい」となりがちだ。
最初は負担が少なくて喜んでいても、将来、大幅にアップすることになって驚くのでは意味がない。
「㎡単価」で、ほかのマンションと比較してみる
そこでどうするか。
「自分が検討している住戸の管理費と修繕積立金が毎月、いくらなのかを確認すると同時に、ほかのマンションと比較してみてください。その際、総額ではなく住戸の床面積(㎡)で割った単価で比較してみるのがポイントです」(廣田氏)
例えば、国土交通省が5年に1度行っている「マンション総合調査(平成30年)」によると、管理費の平均(月/㎡あたり)は全体では150円前後だ。一般的な傾向として、戸数が少ないほど、また階数が20階以上(いわゆるタワーマンション)になると、割高になる。
管理費の平均(月/㎡あたり) | ||
戸数 | 一戸あたり | ㎡あたり |
20戸以下 | 13,260円 | 177円 |
21〜30戸 | 12,106円 | 171円 |
31〜50戸 | 9,847円 | 143円 |
51〜75戸 | 10,386円 | 137円 |
76〜100戸 | 11,490円 | 140円 |
戸数 | 一戸あたり | ㎡あたり |
101〜150戸 | 9,451円 | 130円 |
151〜200戸 | 10,989円 | 155円 |
201〜300戸 | 11,662円 | 149円 |
301〜500戸 | 14,022円 | 142円 |
501戸以上 | 10,767円 | 157円 |
全体 | 10,862円 | 147円 |
出典:国土交通省「平成30年度マンション総合調査」 |
修繕積立金の平均(月/㎡単価)は、全体では160円前後。一般的な傾向として、戸数が少ないほど、また階数が20階以上になると、割高になるのは管理費と同じだ。
修繕積立金の平均(月/㎡あたり) | ||
戸数 | 一戸あたり | ㎡あたり |
20戸以下 | 14,722円 | 205円 |
21〜30戸 | 11,416円 | 158円 |
31〜50戸 | 12,028円 | 166円 |
51〜75戸 | 9,850円 | 134円 |
76〜100戸 | 10,872円 | 147円 |
戸数 | 一戸あたり | ㎡あたり |
101〜150戸 | 10,058円 | 130円 |
151〜200戸 | 10,526円 | 135円 |
201〜300戸 | 10,467円 | 154円 |
301〜500戸 | 13,566円 | 461円 |
501戸以上 | 11,967円 | 167円 |
全体 | 11,243円 | 164円 |
出典:国土交通省「平成30年度マンション総合調査」 |
比較対象としては、購入を検討している新築マンションと同じエリアにある、ほかのマンション(新築や中古)を選ぶのもよいだろう。ほかのマンションの広告などをチェックし、いくつかの住戸の広さと管理費、修繕積立金の額を調べ、㎡単価を計算してみる。
もし、検討しているマンションの管理費、修繕積立金が同じような規模、形式のマンションと比べて大幅に高い場合は、どこかに無駄があるのかもしれない。
逆に、大幅に安い場合は管理仕様のレベルが低かったり、入居後すぐ大幅に引き上げなければならなくなるかもしれない。
具体的な理由をぜひ、販売担当者に聞いてみよう。納得いく返答が得られないようなら要注意だ。
管理費会計の予算案や長期修繕計画案もチェック
他のマンションとの比較に加え、管理費や修繕積立金の金額設定の根拠をチェックするのも有効だ。
管理費については、売主のデベロッパーや管理会社が初年度の予算案を作成しているはず。その支出項目はだいたいどのマンションでも同じであり、主な項目の目安金額は下の図の通りだ。
管理費の支出項目別の目安金額 | ||
支出項目 | 目安金額 | 単位・仕様 |
管理員人件費 (巡回方式) |
9万円 | 1名あたり週4回・3時間勤務での月額 |
(備考)清掃を主な目的とし、ごみ収集の日時に合わせて出勤 | ||
管理員人件費 (通勤方式) |
27万円 | 1名あたり月額 |
(備考)通勤で週40時間勤務の場合 | ||
24時間遠隔監視(機械警備) | 3万円 | 月額 |
(備考)火災警報・非常通報・貯水槽の満水減水の警報等を対象とした機械警備料 | ||
事務管理業務費 | 1500円 | 1戸あたり月額 |
(備考)管理会社の各種業務の費用。一般管理費と管理報酬という項目がある場合はその合計を対象とする | ||
エレベーター保守点検費 | 4万円 | 1基あたり月額 |
(備考)フルメンテナンス契約、月1回の保守点検、14階建て以下の場合。高層マンションは金額がアップする | ||
支出項目 | 目安金額 | 単位・仕様 |
機械式駐車場保守点検費 | 2500円 | 1パレットあたり1回金額 |
(備考)2段または3段ピット式で20パレット以上の場合。年間委託費を保守点検回数とパレット数で割った単価。回数は年間4~6回が一般的 | ||
消防設備点検 | 4000円 | 1戸あたり年額 |
(備考)年2回実施。ガス検知器の有無などで変わる。地下駐車場などに泡消火装置やハロン消火設備があると目安金額は1戸あたり1万円を超える | ||
建築設備点検検査費 | 1500円 | 1戸あたり年額 |
(備考)年1回実施。50戸規模で1戸あたりの目安。戸数が多くなれば低くなる。 | ||
雑排水管清掃 | 4000円 | 1戸あたり1回金額 |
(備考)2年に1回が一般的。管理費会計ではなく修繕積立金会計に計上されることも | ||
設備循環点検費 | 2万円 | 1回あたり金額 |
(備考)給水ポンプの点検など。実施回数はマンションにより異なる | ||
※コンサルティング会社へのヒアリングによる。目安金額は税込 |
管理費は、豪華な共用施設やサービスがあると、人件費などは高くなりがち。また、エレベーターや機械式駐車場の点検費用については、メーカー系か独立系かでかなり差がある。
修繕積立金については、向こう25年とか30年にわたって想定される規模の大きな修繕工事の計画(「長期修繕計画」)を前提に算出されている。この「長期修繕計画」の案は、売主のデベロッパーや管理会社のほうで作成しているはず。
そこで、想定されるトータルの工事費が分譲当初の修繕積立金でカバーできるのか、もし不足するなら、いつ、どれくらい引き上げる必要があるのか、販売担当者に質問し、資料などをもらうようにしよう。
新築マンションの購入では、「管理」についても事前にチェック可能な点に注目することで、大切なマンションの将来にわたる資産価値や住み心地を、しっかり守ってほしい。
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