首都圏では、新築マンションの供給量はそれほど増えず、中古マンションの増加が目立っている。東京都では、特に都心3区を中心に、城西地区、城南地区と呼ばれるエリアの中古マンション成約件数の伸び率が圧倒的に高い。その理由を各種データから分析する(不動産ジャーナリスト・坂根康裕)。
首都圏の新築マンションの供給は減少
まず、住宅ニーズの変化を読み解くために、首都圏の世帯数の変化をみてみよう。世帯数は全般に増加傾向にある。2008年を100とし、世帯数(指数)を折れ線グラフであらわした。
「東京都」に並んで、「埼玉県」の増加率が高く、次に「千葉県」「神奈川県」と続く。神奈川県は東京都に次いで世帯数が多いが、増加率は1都3県では最も低い。
では、新築マンション供給戸数はどうなっているだろうか。2008年を100とし、増減率を見てみる。本来であれば、世帯数の増加に比例して、新築マンションの戸数も増加するはずであるが、ここ4年はすべての都県で100を割り込んでいる。
アベノミクスによる景気拡大により、地価上昇や他の需要(ホテルなど)が増え、マンション用地が慢性的に不足した。また、建築費や人件費も上がり、新築マンションの価格が高騰。2019年には首都圏マンション市場で平均価格が6000万円を超え、高止まりしている。さらに、消費税が8%から10%に引き上げられるタイミングが重なって、一部の駆け込み需要を除けば市場全体の動きは低水準になると予想されたため、デベロッパー側が新築マンションの供給戸数を抑えたと思われる。
世帯数増加に対して、新築マンションの供給戸数が減っているのはグラフ上でも明確だ。しかも千葉県と神奈川県に至っては、一度も2008年を超えていない低調ぶりである。著者の記事「マンション価格が下がらない『業界の事情』」でも解説の通り、旧供給戸数は減っているものの、価格は高止まりしている。
中古マンションのニーズが高まる東京都
新築マンションの供給が抑制されている一方で、人気を集めているのが中古マンションだ。
近年の成約状況を確認しよう。下記のグラフを見ると、中古マンションの成約件数は、2011年と2012年の千葉県を除き、すべての都県が2008年を上回っている。これらの数値を見る限り、世帯増の住宅ニーズは、「新築マンションよりも中古マンション」へと向かっているのは間違いなさそうだ。
それにしても、東京都は中古マンションの成約件数の増加が著しい。世帯数の増加率は埼玉県と同じだったが、同じように描かれていた4つの軌道は、2014年あたりから突然東京都が「一人旅」のように上振れしていく。多分に「都心回帰」「相続税対策ニーズの高まり」など考えられるが、中古マンションの方が最寄り駅に近いなどの利便性で、新築マンションの利便性に勝るケースもあるからだろう。もちろん、価格的にも中古マンションは取得しやすい。
「都心3区」エリアと城西、城南エリアが人気
さらに、都内の中古マンションの成約エリアを探ってみることにしよう。
世帯数に占めるマンション比率が高い、東京都を6つの地区に分け、中古マンションの成約件数(指数)を比べてみたのが下のグラフになる。地区の区分は以下の通り。
都心3区(千代田区、中央区、港区)
城東地区(台東区、江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区、足立区、荒川区)
城南地区(品川区、大田区、目黒区、世田谷区)
城西地区(新宿区、渋谷区、杉並区、中野区)
城北地区(文京区、豊島区、北区、板橋区、練馬区)
多摩地区(都区部・島嶼部以外)
ここで、3つのポイントに注目したい。
1つ目は、2012年と2013年を境に6つのグラフが時間とともに広がり、拡散していく点。
2つ目は、都心3区が10年程度前の倍近くまで達する点。
3つ目は、都心3区、城西地区、城南地区の3地区が東京都(赤の折れ線)を牽引している点だ。
新築マンションの供給戸数が減少している中、中古マンションの成約件数が激増している都心3区に加え、城西と城南のエリアの伸びが突出しているのは、再開発プロジェクトが多く、もともと高い利便性があり、住環境の快適性もあるからだろう。
東京都の中古マンション市場は、より細分化
最後に、6地区の成約単価の推移を比べてみよう。ご覧のように、並び順は、成約件数とほぼ同じ。城北と城東が入れ替わっているくらいだ。ここでも上記のポイントと同じことが言えそうだ。つまり、2013年以降に差が広がり、3つの地区が都の数値を牽引している。ただし、2013年9月に、2020年夏季オリンピック開催地が東京に決定しており、とりわけ都心3区の地価および、中古マンションの価値を大きく上昇させる契機になったのは確かである。
逆に、上昇し過ぎて高騰した都心3区あたりは、今後急激に下がるリスクもはらんでおり、ニーズに見合う価値があるのかを見極められるかが難しいだろう。
ところで、多摩地区の成約単価を見ると、ほとんど変化がないようにみえる。成約が活発に行われる地区では「成約単価が上昇傾向にある」といえそうだが、件数が伸びていない地区は「成約単価が横ばい」または「下落」という表現が適しているだろう。
いずれにしても、エリアを細かく見るほどに「変化の違いが顕著」であることがわかる。「分譲マンションの都心化」、「駅近ニーズの高まり」が言われて久しいが、マンションの市場動向は、より細分化しているのである。
繰り返しになるが、価格が大きく上昇しているのは以下のエリアだ。
都心3区(千代田区、中央区、港区)
城南地区(品川区、大田区、目黒区、世田谷区)
城西地区(新宿区、渋谷区、杉並区、中野区)
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