マンション価格上昇が止まらない。ここまで高くなると、消費者の購買力がついていけなくなって、そろそろピークを打つのではないかという見方もある。しかし、新築マンションについては価格押し上げ要因が強く、まだまだ上がるのではないかと見られている。そのなかでも、新築マンションの供給動向は変化が起こりそうなので注視しておく必要がありそうだ。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
新築マンションの価格はどう決まる? 価格上昇の仕組みを解説
新築マンション価格は下記を積算し、それを販売戸数で割って1戸当たりの価格が決定される。
②マンション建築費
③分譲会社の経費・利益
今、この①~③のいずれもが上昇傾向であり、価格の押し上げ要因となっている。
用地の仕入れ価格の上昇について
①の用地の仕入れ価格は上昇が続いている。野村不動産ソリューションズの調査によると、2023年7月の指数は109.1だったのが、2024年7月は112.6だから、1年間で3.2%上がったことになる。
特に、マンションの適地といわれる都市部の駅から近い用地においては、デベロッパーの価格競争が激化している。前年比で二桁台の上昇となったエリアが少なくない。たとえば、野村不動産ソリューションズの「住宅地価格調査」の個別の調査地点をみると、世田谷区の経堂は22.7%、渋谷区の代々木上原は19.6%、世田谷区の成城学園前は16.0%などの高い上昇率を記録している。
「人気エリアの駅近だと、相場よりはるかに高い価格で購入しようとする業者がいて、とても太刀打ちできない」と嘆くデベロッパーの担当者が少なくない。
建築費の上昇について
②の建築費の上昇も続いている。図表1にあるように、マンションの主流である鉄筋コンクリート造の工事原価は2023年後半には年率5台の上昇だったのが、2024年には再び上昇傾向が強まり、年率6%台から7%台の上昇となった。
建設物価調査会によると、2カ月連続で過去最高を更新している。
図表1 建築費は、年率6台から7台も上昇
特に、資材の物流や型枠などに携わる専門職の人件費の高騰の影響が大きく、当分の間、建築費の高値が続くのではないかという見方が強い。
分譲会社の経費・利益の上昇について
③の分譲会社の経費・利益についても、働き方改革や賃金引き上げなどの圧力が強く、やはり上昇が続いている。
以上のように、①~③のいずれもが上昇しており、それをマンション分譲価格に転嫁せざるを得ないのが、現実だ。
東京都区部では1000万円前後の年収が必要に
しかし、不動産経済研究所によると、首都圏の新築マンションの平均価格は2023年度の平均で7566万円に達しており、なかでも東京都区部は1億464万円と1億円を超えており、平均的な会社員では簡単には手が届かない水準となっている。
多くの人は、マンション購入時には住宅ローンを利用するが、銀行では審査基準において、年間の住宅ローン返済額が年収の35%以内に収まることを審査基準としている。
たとえば、首都圏平均の7566万円のマンションを7000万円のローンを組んで購入するとすれば、金利1.0%、35年元利均等・ボーナス返済なしだと、毎月返済額は約20万円になる。したがって、銀行の審査基準である返済負担率(年収に占める年間返済額の割合)を35%とすれば、年収677万円が必要になる。
返済負担率35%だと家計はかなり厳しくなるので、25%に抑えるとすれば、948万円の年収が求められる。
東京都区部では1億円を超えるので、9000万円のローンだと、返済負担率35%で871万円、返済負担率25%だと1219万円の年収が必要になる。
建築費上昇でデベロッパーの利益率が悪化
それだけに、いま以上に価格が上昇すると、消費者のマンション購買力の低下につながるのは避けられない。結果、新築マンションの売れ行きが鈍化する可能性が高い。分譲会社、デベロッパーとしては新築マンションの開発に慎重にならざるを得ないだろう。
事実、三菱UFJ信託銀行が、マンションデベロッパーを対象に実施した調査(図表2)では、建築費の上昇によって、38%が「粗利益率は低下している(3%以上)」としており、「粗利益率は低下している(3%未満)」25%と合わせると、利益率が悪化しているとする合計が63%と、ほぼ3社に2社に達している。
図表2 建築費上昇によりマンションの利益率は低下傾向 (単位:%)
今後、新築マンション価格がさらに上昇すれば、利益率の一段の悪化は避けられず、マンションデベロッパーとしては、新築マンションの開発にいっそう慎重にならざるを得ない。
「都心・駅近」の物件は増えるが「郊外」の物件は減る?
ただ、そのマンション開発への考え方は、エリアによって異なってくる。
マンションの立地を、「都心・駅近」「都心・駅遠」「郊外・駅近」「郊外・駅遠」「その他」の5エリアに分けて、マンション開発のための素地仕入れ戦略を聞いた同行の調査によると、図表3のようになった。
図表3 建築費の上昇による素地仕入れ戦略への影響
全体としては、マンション開発のための土地の仕入れを「増加させる」が29%で、「減少させる」が42%、「ほとんど影響ない」が29%と、「減少」が「増加」を13ポイントほど上回っている。建築費の高騰は、マンション開発のピッチを抑制させる方向に作用しているわけだ。
しかし、「都心・駅近」に限ると、関係は逆転する。「増加させる」が48%で、「減少させる」は13%に減って、「増加」が「減少」を35ポイントも上回っている。
建築費が上がっても、利便性の高い「都心・駅近」については、これからもマンション開発を増やしたいとするデベロッパーが多いわけだ。
「都心・駅近」はリセールバリューが高いため増加傾向
三菱UFJ信託銀行は、リリースのなかで、こう解説している。
「需要層が厚く消費者が価格上昇を受け入れやすい都心、とりわけ駅近立地にデベロッパーは新築分譲マンションの供給を集中させる動きが生じている」
つまり、都心の購入客には比較的高所得の世帯、金融資産の保有額が高い世帯が多く、そうした世帯が自己居住用の実需として高額マンションを求めるニーズが強く、多少価格が上がっても、購入意欲は変わらない。
また、実需以外にも、国内や国外からの投資目的の非実需などの需要層が厚いこともあって、価格が上昇しても、それだけ資産価値が高いエリアとして、ますます買われるようになる面があるというわけだ。
不動産データバンクの東京カンテイの「2023年中古マンションのリセールバリュー(首都圏)」では、首都圏の445駅のリセールバリューの平均は139.5%と、10年間で平均すると4割近く価値が上がっている。なかでも、JR山手線の沿線から内側の都心についてはほとんどのエリアで150%を超えていて、5割以上のアップとなっている。
だからこそ、多少高くなっても、高額所得者、富裕層は安心して都心の物件、特に利便性の高い都心・駅近物件を買うことになる。それを見込んで、デベロッパーもこのエリアでのマンション開発に力を入れざるを得ないわけだ。
リーズナブルな価格帯の新築マンションが減る可能性
その「都心・駅近」の対極にあるのが、郊外マンションだ。
「郊外・駅近」は「増加させる」が17%で、「減少させる」が46%と、「減少」が「増加」を29ポイント上回っている。さらに、「郊外・駅遠」になると、「増加させる」は13%に減って、「減少させる」が83%に増える。「減少」が「増加」を70ポイントも上回っている。
ほとんどのデベロッパーが、郊外の駅遠マンションの開発を抑えようとしていることが明確になっているということだ。
郊外・駅遠のマンションは価格帯がリーズナブルで、平均的な会社員、庶民の味方だが、その新規分譲が減ってしまう可能性が極めて高いといわざるを得ない。それだけに、郊外型の比較的安価なマンションの購入を考えている人は、今後は物件が減って、選択肢が限られるようになる。
もし購入を考えている場合は、そうなる前に早めに行動するのが得策かもしれない。
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