タワーマンション(超高層マンション)が人気だ。人気の理由は、その眺めの良さや、充実した共用施設、周辺エリアでのシンボル性、さらには相続税対策といった様々なメリットが挙げられる。ただし、タワーマンションは一般的なマンションとは構造的に異なる部分があるため、注意すべきポイントがいくつかある。住んでから「あれ?」と後悔することのないよう、事前に知っておきたい注意点を紹介しよう。
タワーマンションは売れ行き好調で、
今後も大量供給が続く
タワーマンション(超高層マンション)とは、高さが60mを超えるマンションのことで、階数でいうと、およそ18階建て以上のマンションを指す。超高層なだけあって上層階は眺望が良く、地域のシンボルとしても目立つことからステータス性が高い。
また、規模の大きさを生かし、ゲストルームなど様々な共用スペースが充実。さらに、立地としては都心部や駅近が多く、中には駅と一体化して開発され、極めて利便性に優れたものまである。
タワーマンションは、高所得で資金力のある世帯を中心に人気が高い。近年は外国人や節税目的の資産家のニーズもあり、売れ行きは好調だ。分譲マンションを販売する大手不動産会社(デベロッパー)各社はこぞってタワーマンションの販売に力を入れている。
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不動産経済研究所の発表によると、2017年3月末時点で、2017年以降に完成が予定されているタワーマンションは285棟、10万6321戸にのぼり、前年同時点と比べて87棟、3万197戸も増えているという。ここ数年の販売価格の上昇から、2017年に入って新築マンションの売れ行きが全般的に鈍っていると言われるが、タワーマンションに限ってはその人気に陰りが見えない。
「超高層」にするために、さまざまな弊害が生まれる
「しかし、タワーマンションは通常の中高層マンションなどとは建物の構造が大きく異なっており、“住まい”としての性能や機能に様々なマイナスの影響が生じます。オフィスや商業施設としてならともかく、“住まい”としてのタワーマンションに私は否定的です」。こう語るのは、長年分譲マンションの設計に携わり、現在はデベロッパー向けの設計監修、購入者向けの購入相談などを手掛けている一級建築士の碓井民朗氏。
日本では、地盤面からの高さが60m(約18階建て)を超える建物を「超高層建築物」としている。「超高層建築物」になると、構造設計の考え方が高さ60m未満の場合とは大きく変わる。
簡単に言うと、高さ60m未満の建物は柱や梁をがっちりとつなぎ、地震の揺れに耐えることを基本とする。対して60mを超える建物は、建物全体が柳のようにしなって地震の揺れをやり過ごすことを基本にしている。そのためには建物全体を軽くつくることが不可欠で、それが“住まい”としてのマンションに様々なデメリットをもたらすのだ。
外壁のALC版は、つなぎ目が弱点で雨漏りしやすい
例えばタワーマンションの外壁には、軽量気泡コンクリート版(ALC版)が用いられる。ALC版とは、セメントと空気を混ぜて工場生産されたパネルで、幅は60㎝~1mほど。重量はコンクリートよりずっと軽く、断熱性が高い。タワーマンションの外壁はこれを並べ、つなぎ目はコーキング材という樹脂系の材料で塞ぎ、雨水などの侵入を防いでいる。
ところが、超高層の建物はそもそも地震や強風で揺れやすく、ALC版のつなぎ目のコーキング材が疲弊してくる。また、紫外線や気温の変化も加わり、いずれひび割れたり切れてしまう可能性があるため、雨漏りの原因になってしまう。通常の中高層マンションで、外壁が鉄筋コンクリートでつくってあれば、簡単にひび割れは起きない(ただし、最近は中高層マンションでもコストダウンのため、外壁にALC版を使うケースが増えており要注意)。
「タワーマンションに入居した方から、外壁の漏水についての相談が私のところにも来ます。タワーマンションでは、外壁に足場をかけることが難しく、屋上からゴンドラを吊り下げて調べるだけでは、どの部分のコーキング材が切れているか特定するのは容易ではありません。また、雨漏りはすぐ発見されるとは限らず、壁の中の断熱材などに水分がしみ込み、カビの発生原因になったり、ダニの繁殖をもたらすこともあり、住む人の健康に悪影響を与えます」(碓井氏)
床や戸境壁も、軽量化のため遮音性が低い
タワーマンションは床のスラブ(コンクリート版)や住戸間の戸境壁も、通常のマンションとはつくりが違う。
「タワーマンションの床スラブに、軽量化を目的に用いられるのがハーフPC版(工場で床版の厚さ半分程度をあらかじめ製作し、現場でその上に鉄筋を配置・コンクリートを打設して残りの厚さ分を完成させるもの)です。柱と梁をつくったら床の部分にハーフPC版を敷き、その上に鉄筋を組んでコンクリートを10㎝~15㎝ほど流し込みます。こうするといちいち床をつくるために型枠を組む必要がなく、小梁も不要で作業効率がアップするのです」(碓井氏)
しかし、ハーフPC版はコンクリートの現場打ちスラブと比べて軽いため、振動しやすく、子供が飛び跳ねたときなどの重量衝撃音の遮音性(LH+数字で表示。数値が低いほど衝撃音が伝わりにくい)があまり良くない。RC造のマンションで小梁を使ったコンクリートの床スラブであればLH50くらいのところ、タワーマンションの床スラブはLH55程度が多いという。
また、タワーマンションの住戸間に軽量化目的で使われるのが、乾式工法の戸境壁だ。乾式工法の戸境壁といっても実際のつくり方には何種類かある。
最も遮音性が低いのは、鉄骨の間柱を立て、その両側に石膏ボード(厚さは12.5㎜以上必要)を二重に張り、クロスを貼って仕上げるもの(画像A)。石膏ボードの間にグラスウールを吸音材として入れたとしても、一方の石膏ボードの振動が鉄骨の間柱を通して反対側に伝わるため遮音性はあまり期待できない。クロスの表面に耳を当てれば、隣の住戸の室内の様子がかなりはっきり分かるだろう。
これより多少レベルアップしたのが、間柱をチドリ状に立て、間にグラスウールを波型に充填した戸境壁(画像B)だ。両側の石膏ボードが間柱を介して接しているわけではないので、遮音性は高まる。しかし、間の空気層が振動することで、やはり多少の音は伝わる。
「少なくとも、二重張りにする両側の石膏ボードにシート状の鉛をはさんでいれば、壁の重量が重くなり及第点をつけていいでしょう(画像C)。さらに最近は、間柱の代わりに繊維入りの押し出し石膏形成板を使ったもの(画像D)も登場しています。両側の石膏ボードはやはり鉛入りで、吸音材も入っています。これくらいになると遮音性はRC造に引けを取りません。タワーマンションを選ぶなら、これくらいの戸境壁のものなら安心できるでしょう」(碓井氏)
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大地震による「長周期地震動」などの影響は未知数
タワーマンションには、大地震との関連でも気になる点がある。上述のように超高層建築物は「柔構造」になっており、ゆっくり揺れて地震の揺れをやり過ごすようになっている。これは、地震の強い揺れは通常、1秒未満の周期(短周期地震動)が多いということを前提にしている。
「しかし、大地震の中には陸から遠く離れた深い海底で起こるタイプもあり、その場合、揺れの周期がかなり長くなります。『長周期地震動』と言われるもので、東日本大震災においては首都圏などで観測されました。近い将来、発生が予想されている南海トラフの巨大地震でも、長周期地震動が生じると言われています。ゆっくり揺れる超高層建築物、あるいは免震ゴムなどを使ってゆっくり揺れるようにした免震構造の建物は、この長周期地震動と共振し、大きな被害が生じる可能性があるのです」(碓井氏)
さらに2016年4月に発生した、活断層による直下型地震の熊本地震では、「長周期パルス」という地震動が国内で初めて観測された。3秒程度と周期が長く、同時に変異幅の大きな地震動だ。
「長周期地震動」とは異なり、直下型地震においていきなり強く、長い揺れがやってきて、超高層建築物を大きく揺らす。その影響は未知の部分が多いようだが、近い将来、発生が予想されている首都直下型地震において超高層建築物に大きな被害をもたらす可能性がある。
タワーマンションが本格的につくられるようになったのは1990年代後半から。その歴史はまだ浅く、一般的なマンションとの違いや弱点はあまり知られていない。タワーマンションを購入しようという人は、そうした点をよく理解した上で検討することをおすすめしたい。
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