都内には大規模な都市開発事業だけではなく、環境整備の一環として静かに進められる開発がある。台東区の浅草橋周辺もその一つだ。昭和の雰囲気を残したまま都市再生する都心の下町は、マンション購入の穴場エリアとなっている。(フリー記者・後藤利恵子)
目次
再開発というより都市再生で浅草橋が変わる

浅草橋における変化は、いわゆる大規模再開発ではなく、都市再生といったほうがふさわしい。広大な敷地にタワーマンションや大型商業施設が建てられるのではなく、下町の雰囲気を残したまま徐々に街が変化しているからだ。
浅草橋は江戸時代から続く問屋街で、人形やビーズ、皮革製品などを扱う店がいまも残っている。駅前の江戸通りを歩けば、歴史ある商店や古い倉庫などが軒を連ね、「久月」や「吉徳」といった人形の老舗問屋がある。また、近くには下町らしい飲み屋も軒を連ねる。
そんな典型的な下町に少しずつ変化が起きている。浅草橋駅周辺の老朽化した雑居ビルが、リノベーションによって新しいオフィスや飲食店に生まれ変わるケースが増えている。
工場や倉庫をリノベーションしたカフェや宿泊施設、アートスペースなども見られるようになってきた。問屋街を訪れる観光客のほかに、若い世代の姿も目立ち始めた。
粋でかっこいい下町に変わる浅草橋駅周辺
このエリアのリノベーションの特徴は、斬新でモダンな建物に変えるのではなく、昭和の雰囲気を残したまま再生されている点である。古い商店や木造家屋が丁寧に手を加えられ、カフェやギャラリー、ホテルなどが現代の街並みに溶け込むように作り直されている。
たとえば、築80年以上の酒屋の木造建築をカフェにリノベーションしたカフェ「葉もれ日」。ここは、地元のプロダクトデザイナーが手がけた空間だ。外壁にかつての屋号が残り、店内には梁や壁面の木材が整然と並べられている。ただ、古くささはなく、どこか粋な下町感が残されている。

また、JR総武線高架下の風景も独特だ。1970年代から続く喫茶店「CAFE 梅の木」をはじめとする飲食店などは、耐震補強が施されており、かつ浅草橋周辺の歴史を感じさせる雰囲気が残っている。
さらに、自分の作品発表の場や店を構えたいという若い世代に向けた施設も出現し始めた。駅近くのシェアスペース「+BASE」もそのひとつで、建物は1964年竣工のビルを改装してつくられている。
台東区が街のブランド化を推進
台東区もそうした動きを後押ししている。区が進める「台東区都市計画マスタープラン 平成31年」には、「問屋街や手工芸の文化が色濃く残る浅草橋を新しい観光資源・産業資源として再編集し、地元企業やクリエイターと連携し、『街のブランド化』を推進する」としている。
また、「浅草橋周辺には老朽木造建築物の密集地域が多く、防災上の課題ある」としており、街の再生と同時に防災対策の取り組みを進めている。
東京など主要駅への交通アクセスが抜群

浅草橋駅の大きなメリットは、抜群のアクセス力にある。JR総武線・中央線、都営地下鉄浅草線の2路線が利用できる。浅草橋は台東区の南、千代田区の東と接しており、千代田区や中央区方面に勤務先がある場合、通勤時間が15分以内である。
東京駅:約10分(JR総武線秋葉原駅でJR山手線・京浜東北線に乗り換え)
新橋駅:約10分(都営地下鉄浅草線)
日本橋駅:約5分(都営地下鉄浅草線)
秋葉原駅:約2分(JR総武線)
東銀座駅:約15分(都営地下鉄浅草線)
生活利便性が良く自然が身近な住環境も魅力
浅草橋には住宅街と言われるエリアはなく、商店や事務所などが入る雑居ビルと軒を並べるように、10階前後のマンションが立っている。
「住む街」としてのイメージは薄い浅草橋だが、実は生活利便性も高い。駅周辺には、「まいばすけっと」「肉のハナマサ」などの小規模スーパー、「ココカラファイン」「マツモトキヨシ」などのドラッグストア、クリニックなどが集約している。
また、JR総武線東口は江戸通り沿い、西口はJR高架下には、コンビニエンスストアやカフェ、飲食店などがある。そして、鳥越本通りまで足を伸ばせば「おかず横丁」と呼ばれる商店街がある。日々の暮らしに欠かせない、総菜、和菓子、漬物、焼豚などの個人店が並んでいる。
さらに、蔵前や秋葉原は徒歩圏内。隅田川沿いのテラスや公園も整備が進んでおり、休日のリフレッシュに適した水辺環境も魅力となっている。一方で、保育園や小中学校も比較的多く、ファミリー層の定住も増えている。
家賃の安さも浅草橋のメリット
浅草橋駅の交通利便性や住環境の良さに対し、家賃相場はかなり抑えられている。ワンルーム(1K・1LDK)の相場は約12.9万円と、JR総武線隣駅の秋葉原の約13,69万円よりもおよそ1万円ほど安い。

また、都営浅草線沿線では、浅草橋駅は蔵前駅より5,000円ほど高い程度だ。蔵前に比べると、JR総武線が利用できる浅草橋に住めば、利便性はかなり向上する。アクセスや生活利便性を加味すると、コスパの良さが際立つ。

浅草橋駅周辺の中古マンション相場(売り出し価格)
浅草橋エリアの中古マンションは、周辺の相場と比べると比較的手頃な価格である。東京23区内では穴部と言える狙い目エリアだ。
ここ数年に建てられたファミリー世帯向けのマンションは浅草橋駅周辺でも1億円を超える物件が多い。しかし、カップルや夫婦で利用できる駅近の1LDK~2LDKタイプは、7,000万円台で売買されている例もある。
シティインデックス千代田秋葉原
14階建て/全57戸
築年数:2017年8月
交通:JR総武線浅草橋駅 徒歩6分/東京メトロ日比谷線 秋葉原駅 徒歩5分
間取り:1LDK /45.65㎡(3階)
参考売り出し価格:7,000万円(506万円/坪)
(出典:Yahoo!不動産 2025年7月3日時点)
ネベル浅草橋
15階建て/全37戸
築年数:2020年12月
交通:JR総武線 浅草橋駅 徒歩2分/ JR総武本線 馬喰町駅 徒歩4分
間取り:2LDK /42.63㎡(12階)
参考売り出し価格:7,680万円(595万円/坪)
(出典:マンションレビュー 2025年7月3日時点)
このエリアにはコンパクトな中古マンションも多く、単身者向けの1Kなら価格は2,000万~3,000万円程度が中心だ。

グランシャス浅草橋ル・リオン
10階建て/全33戸
築年数:2005年6月
交通:JR総武線 浅草橋駅 徒歩5分/ 都営浅草線 浅草橋駅 徒歩6分
間取り:ワンルーム /23.93㎡(4階)
参考売り出し価格:2,270万円(313万円/坪)
(出典:LIFULL HOME’S 2025年7月3日時点)
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これらは秋葉原や日本橋と比べ、手頃な価格帯となっている。築20~30年の中規模マンションが中心だが、管理状態の良い物件をうまく選べば、資産性と暮らしやすさを兼ね備えた住まいが手に入る。投資用物件として考えるのもありだろう。
また、新築マンションも「パークホームズ浅草橋」が販売中だ。価格は6,250万円~6,950万円。価格は現在の周辺相場と比べると、高めの設定となっている。
パークホームズ浅草橋(新築)
19階建て/全121戸
価格:6,250万円~6,950万円(633万~651万円/坪)
間取り:1LDK
交通:JR総武線浅草橋駅 徒歩2分/都営地下鉄浅草線浅草橋駅 徒歩5分/東京メトロ日比谷線秋葉原駅 徒歩10分
完成:2025年11月
売り主:三井不動産レジデンシャル

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ただ、2012年に完成した「ブリリア浅草橋」は、新築時に4,500万円だった2LDK(61.32㎡)の取引き価格が現時点では6,000万円台まで上がっており、周辺のマンション相場は年々上昇している。
浅草橋の中古マンションの相場(売り出し価格)の目安は、3,659万円(346万円/坪)、前年比+2.7%となっている。(記事:東京都台東区浅草橋の中古マンション価格推移から)
浅草橋はマンション購入の穴場エリア
浅草橋エリアは、観光地や繁華街でもない、住宅地としてのイメージも薄い。都心にありながらなんとなく地味ではあるが、その独自の立ち位置を活かし、少しずつ姿を変えてきた。
歴史ある下町の風景を大切にしながら街に新たな付加価値を生み出していく動きが顕著になっている。さらに交通利便性も非常に良好な街だということだ。
浅草橋駅周辺には、従来からあった小規模の中古マンションに加え、中規模の新築マンションが増え、選択肢が広がっている。
東京都内にマンション購入を希望する人にとっては、交通利便性と暮らしやすさのバランスがとれた穴場的な街で、ポテンシャルは高いと言えるだろう。
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