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「春日部市」のマンションは“買い”なのか?
20代の働き盛りが越谷市、草加市などに移動し、
不動産価格は「ピーク比半減」でも底値は見えず

【第1回】2018年4月19日公開(2020年8月5日更新)
長嶋修:株式会社さくら事務所 創業者・会長

本格的な人口減少と少子化・高齢化が進む中で、今後、新築マンション選び、不動産選びで非常に重要になるのが「自治体選び」といった視点だ。危機感を持って自治体経営に取り組む自治体と、そうでない自治体とでは将来、不動産の価値にも大きな格差が出てくることだろう。そこで、かつて人気の郊外ベッドタウンだった埼玉県春日部市の「厳しい現状」と、将来予測される事態をレポートする。(さくら事務所創業者・長嶋修)

市民税や固定資産税の激減で、じり貧

 これからやってくる本格的な人口減少、少子化・高齢化社会では、自治体経営にも格差が出てくる。働いてお金を稼ぎ、お金を使い、納税をしてくれる生産年齢人口が減少すれば、自治体の税収も減少。上下水道や道路、橋などのインフラ修繕もままならないうえ、子育て支援などの行政サービスもできない。自治体が行う「迷惑空き家」の解体はその費用を所有者に請求できるが、所有者不明などの理由で解体費を回収できない可能性も高く、容易に執行もできない。

 こうして、その自治体の魅力が失われれば、域内の不動産価格は下落し、それに応じて固定資産税収入も目減り。自治体経営はますます厳しいものとなるが、こうしたスパイラルに陥る自治体が今後増加するのは必至だ。やがて訪れる未来を予見し、危機感を持って自治体経営に取り組む自治体と、そうでない自治体とでは将来、住んでいての快適性はもちろん、所有する不動産の価値にも大きな格差が出てくることだろう。

 これから負のスパイラルに陥ることが確実なのは「都市郊外」。つまり、かつてベッドタウンと呼ばれたところだ。首都圏でいえば東京都心から30-40キロ圏内、ドアツードアで1-1.5時間程度の通勤圏、環状の国道16号周辺に位置する都市群だ。

 こうしたかつてのベッドタウンは、戦後の高度経済成長の中で、団塊世代を中心とした人口ボリューム層が住宅を求めて大量に流入したが、そのトレンドも息切れ。1990年代後半になるとすでに人口減少や少子化・高齢化に見舞われる自治体が出始めている。

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20代の働き盛りが春日部市から移動

 東武スカイツリー線沿線の埼玉県春日部市は人口23.5万人程度の、典型的なかつてのベッドタウンだが、周辺自治体が人口増加中の2000年あたりにはすでに人口減少が始まっており、平均地価公示は2017年で平方メートルあたり9万5842円と、ピークつけた1990年の19万4692円から50%以上も下落している。しかし、不動産価格の本格的な下落は、むしろこれからだ。

 春日部市の人口は今後、加速度的に減少する。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、40年には18万4796人と、ピークの2000年から5万6000人も消えるとされる。

出所:国立社会保障・人口問題研究所
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 さらに高齢化率(65歳以上の高齢者人口比率)も現在は35%程度のところ、40年には60%程度に達する見込みだ。昨今の人口動態を見ればとりわけ20代が、より都心に近い越谷市・草加市・足立区などに移動している傾向も伺える

 不動産価格の形成要因には様々なものがあるが、結局は「需要と供給の関係」で決まる。「人口」という需要が圧倒的に減るのだから不動産価格は下落するしかない。1990年のバブルをピークに▲2%~▲3%程度の緩やかな下落を続けてきた春日部市の地価は今後、さらに加速度をつけて下落していくはずだ。年率▲3%なら2040年には地価が半値まで下落、年率▲4%なら15年程度で半値となる計算だ。

 こうなると税収の主要部分を占める固定資産税・都市計画税も大幅減収。加えて高齢化が進み、生産年齢人口が減少すれば、やはり税収割合の大きな市民税も減少。自治体経営は非常に厳しいものとなる。

「集まって住む」が全国で進行中

 問題はこれだけではない。人口が減少すれば空き家が増大、人口密度はどんどん希薄になる。すると上下水道の修繕やゴミ収集、除雪などの行政サービス効率は悪化。市民一人あたりに書ける行政コストは増大するばかりだ。

 このような事態を予見し、全国1,700あまりの基礎自治体のうち384団体(17年12月末時点)が取り組んでいるのが、街をコンパクト&ネットワーク化し行政効率悪化を防止する「立地適正化計画」だ。立地適正化計画とは、民間の都市機能への投資や居住を誘導するための「立地適正化計画」にもとづいて都市機能集約を目指すもの。居住環境の向上を区域内で行う「居住誘導区域」と、その中核となる「都市機能誘導区域」を指定できる。

 区域内では容積率を緩和する、インフラ投資を積極的に行うといったことを可能にすることで「集まって住む」を実現させるわけだ。この法案成立を前提とした税制改正はすでに行われており、誘導区域内では各種の税制優遇も行われる。「枠の内と外」で居住快適性や資産性に大きな差が出るということになる。

 ただし、この「区域の指定」は国が決めるのではなく、各自治体が自ら決定しなければならない。将来的には、道路一本挟んで居住快適性も資産性も雲泥の差が出る可能性があるため、利害関係者が目の前にいる中で、調整が難航するのは必至だ。

甘すぎる春日部市の立地適正化計画

 こうした中、例えば岐阜県岐阜市は、現行市街地の45%程度を立地適正化計画区域から外すといった思い切った方針を打ち出している。埼玉県毛呂山町は、「20年後に公示地価を10%以上上昇させる」とする目標を掲げる。町の人口は同期間に22%減少見込みとされるところ、人口政策の取組みによる成果を想定し18%程度の減少にとどめることが狙いだ。居住区域に住宅を誘導して人口密度を保ち、同時に投資を呼び込むことで地価上昇につなげたい考えで、本気の度合いが伺われる。

 一方で春日部市はといえば、工業系地域を除く現行市街地の全てを立地適正化計画区域に指定した。これでは全く街を縮めていることにはならず、時間の経過とともに人口密度が薄まり、生産年齢人口の減少で市民税減、地価下落による固定資産税減などで自治体経営がジリ貧となるのは必至だ。

 1989 年に東西統一を果たしたドイツでは、東ドイツから西ドイツへ大量の人口流出が起こり、空き家問題が深刻化した。ドイツではこれまで 20 年以上もの間、こうした政策に取り組んでおり大きな効果をあげているが、市民の合意形成ができない自治体というのはやはり幾つもあり、そうしたところでは都市機能の集約化もままならず居住快適性、住宅の資産性がだらだらと低下している。春日部市のような郊外ベッドタウンは、街のコンパクト&ネットワーク化に本気で取り組む必要がある。

旧日光街道沿いの歴史建造物など観光資源はある

 必要なのはそれだけではない。春日部市のような郊外ベッドタウンは前述したとおり、団塊世代を中心とする人口ボリューム層が、高度経済成長期の地価上昇の中で「住みたいところに住んだ」というよりは「(資金的に)買えるところに買って住んだ」といった向きが大半だ。したがって、自分が住む街の魅力をどうやって高めるか、どの様に自治体経営が行われているかということについて無関心な市民も多い。

 春日部市といえばその鉄道沿線先には「日光」といった国内外観光客を引き寄せる資源があるが、春日部は素通りである。ここで、観光客を引きつけるコンテンツを創れないだろうか。クレヨンしんちゃんの作者はかつて春日部に住んでおり漫画も春日部が舞台だが、外国人にとってどの程度魅力的であるかリサーチをしたことはあるだろうか。かつて宿場町だった旧日光街道沿いには歴史のある建物が多く残っているが、川越のような、日本的な街並みを再現して観光資源化できる可能性もある。

 国道16号線地下には、世界最大級の「首都圏外郭放水路」がある。直径30メートル、深さ70メートルにおよぶ5本の巨大立坑をはじめ、直径10メートルの地底トンネル、重量500トンの柱が59本もそびえるマンモス水槽、毎秒200立方メートルの水を排水する1万4000馬力タービンなど、そのスケールは圧巻だが、意外と知られていない。

首都圏外郭放水路(出所:国土交通省江戸川河川事務所

春日部市も奮起すればまだまだやれる

 また、ベッドタウン住民は仕事の後、都心の職場近くで飲むか、北千住あたりでいったん下車して飲む、といった行動様式が多い。これはとりもなおさず、春日部に魅力的な飲み屋が少ないためだ。増えている空き家を活用し、地元民に愛される飲食店・カフェなどを作れないだろうか。このままでは時間の経過とともに沈下していくだけの春日部市も、ひとたび奮起すればいくらでもできることはあり、実は伸びしろは大きい。

 自分の街について関心を持つ市民が多い自治体、行政サービスを充実させ市民の居住快適性を高めている自治体と、沈んでいくのを手をこまねいている自治体とでは将来、天地ほどの格差が開くはずだ。不動産選びは通勤時間や駅からの距離のみならず、今後は「自治体選び」といった観点が必須である。

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