京都市伏見区の北部に位置する伏見稲荷エリアには、世界的観光地の「伏見稲荷大社」があり、日々多くの観光客が訪れている。伏見稲荷エリアは、京都駅や大阪方面はもちろん、京都一の繁華街である河原町や隣の奈良県へも電車1本で行けるアクセスの良さが特徴で、住宅地としても人気のエリアだ。今回は、そんな伏見稲荷の特徴や、2028年のまちびらきを目指す大規模なまちづくりについて触れながら、その不動産価値を分析する。(ライター、宅地建物取引士:杉山明熙)※トップ画像:伏見稲荷大社内拝殿(出所:PhotoAC)
関西の主要都市へのアクセスが魅力の伏見稲荷エリア
伏見稲荷エリアは京都市伏見区の北部に位置していて、北側が京都市南区に面しているエリアだ。伏見区の中で最も京都駅や河原町エリアに近く、この地域から都心部へ通勤・通学を行う人も少なくない。
伏見稲荷エリアには京阪「伏見稲荷」駅とJR「稲荷」駅がある。それぞれのアクセスをみてみよう。
京阪伏見稲荷駅からのアクセス
・祇園四条駅(河原町エリア)まで約16分
・京橋駅(大阪)まで約45分
JR稲荷駅からのアクセス
・京都駅まで約5分
・奈良駅まで約46分
ご覧の通り伏見稲荷エリアの駅を利用すれば、各地域の主要駅まで1本でアクセスできる。さらに、京都駅からは新幹線で全国に向かうこともできるため、出張が多いサラリーマンにも嬉しい立地である。
また、伏見稲荷エリアは高速道路のインターチェンジにも近い。電車でのアクセスだけでなく車の利用者にも便利な点は大きな魅力と言えるだろう。
観光地と住環境がほどよく混在した街
伏見稲荷エリアには、京都らしい昔ながらの町並みが多く残っている。伏見稲荷大社に続く人通りの多い道から路地に入ると、すぐに民家が立ち並ぶエリアになる。観光客で賑わっている光景とは対称的に、人々の生活が垣間見える住宅街だ。
一方、近年では新しい風景も見られるようになった。2023年には、伏見稲荷駅徒歩1分の場所に「伏見稲荷OICYビレッジ」という日本の食文化やお土産プロダクトが集合した商業施設が誕生した。フードコート形式で食べ歩きフードやスイーツを楽しめるほか、お菓子や雑貨、アパレルなどのお土産を購入することもできる。
また、伏見稲荷エリアには龍谷大学があり、学生が多く住む街としても有名だ。そのため、学生向けの比較的安価な飲食店が充実している点も注目すべきポイントである。観光地である伏見稲荷大社周辺を除けば、田舎過ぎず都会過ぎもしない「ちょうど良い街」の1つに挙げられるだろう。
約60年の歴史に幕をおろした伏見工業高校
これからの伏見稲荷エリアの不動産を語るにあたり「伏見工業高校跡地」の存在は欠かせない。伏見工業高校は、1920年に京都市立工業学校の分教場として創立された。その後、第二工業学校として独立し、1963年から伏見工業高校となった。
伏見工業高校の名が全国に知れ渡ったのは、1984年にテレビで放送された「スクール・ウォーズ」がきっかけである。スクール・ウォーズは、当時京都一荒れた学校と言われていた伏見工業高校が舞台だ。1人の熱血教師が学校のツッパリ軍団とさまざまな格闘や苦難を乗り越えた末にラグビーを通して立ち直り、全国優勝を果たすドラマである。
そんな伏見工業高校も京都市立高等学校の再編に伴い、全日制が2017年度をもって京都市立洛陽工業高等学校と統合され、京都市立京都工学院高等学校として開校した。
全日制が統合した後も存続していた伏見工業高校の定時制だったが、2021年に伏見工業高校の跡地の一部で京都奏和高校が開校されたことに伴い、2024年3月をもってその永い歴史に幕をおろしたのである。
そして現在、この伏見工業高校跡地及び隣接する配水管理課用地を活用した、大規模なまちづくり計画が動き出そうとしている。
伏見工業高校跡地で計画される大規模なまちづくり
京都市によると、まちづくり計画地は約4万平方メートルで、敷地内には戸建て住宅や7階建ての分譲マンションなどを建設し、計549世帯、約1600人が住む計画だ。
また、商業施設や交流スペース、学生・社会人寮などが入る「地域貢献施設」も建てられる計画である。このまちづくりは2026年夏に着工し、28年3月の入居開始を目指している。
敷地内の分譲マンションは、228戸の7階建てファミリーマンションと82戸の7階建てコンパクトマンションが計画されている。街全体を「次世代脱炭素街区」とするため、ファミリーマンションは中高層住宅では珍しい「Nearly ZEH-M」(※1)、コンパクトマンションは「ZEH-M Oriented」とし、合計310戸の「ZEH-M」を供給するとしている。
(※1)「Nearly ZEH-M」とは、一次エネルギー消費の75%以上100%未満の削減を図った上で、再生可能エネルギー等の導入により、エネルギー消費量をさらに削減したマンション。「ZEH-M Oriented」とは、一次エネルギー消費の20%以上削減を図ったマンションのことである。
また、125区画が計画されている戸建住宅は「次世代ZEH+」(※2)を標準とし、街区内のすべての住まいを環境配慮型とする計画だ。
(※2)「次世代ZEH+」とは、ZEHをさらに省エネ化し、再生可能エネルギーの自家消費拡大設備等を導入した住宅のことである。
分譲マンションと戸建住宅、地域貢献施設の屋上には太陽光パネルを設置する。太陽光発電設備を豊富に導入し「自家消費」を最大化する狙いだ。
街全体のネットワークとして、京都市は以下のような計画を発表している。
街区内を回遊する安全かつ快適な動線ネットワークを形成。3つのコア(核)となる広場・施設と、それらをつなぐ3つのストリートを整備し、日常的な賑わいと交流を創出します。とくにクリエイティブコアに位置する地域貢献施設や公園などのコミュニティスペースは、新たに住まう街区住民のみならず、周辺住民にとっても使いやすく、相互交流が進む場とします。
引用:京都市「伏見工業高等学校跡地及び元南部配水管理課用地の活用に関する基本協定の締結について(別紙2)」
また、街並みづくりの工夫として、川沿いの遊歩道や通りに面したマンション1階住戸には専用庭・出入扉を設けるなど、京都らしい街路を形成する予定だ。
街のシンボルとなる地域貢献施設には、商業テナントや寮が入る。1階部分には商業テナント、2〜5階部分に学生・社会人寮という複合施設だ。この施設も「ZEB+ZEH」という環境配慮型建物となっており、施設の前面に設置する開発公園や前面道路に居心地の良い空間を確保することで、街のシンボル的空間を創出するとしている。
京都市は近年、地価や建築資材の高騰、国内外からの不動産投資の影響などで、住宅の確保が難しくなっている。そのため、子育て世代・結婚世代を中心とした若い世代の人口流出が京都市の課題とされており、解決に向けた施策に注目が集まっている。伏見工業高校跡地の大規模なまちづくりが、伏見稲荷エリアの不動産価値向上に加え、若い世代が集うきっかけになると期待されている。
京都市内では割安感のある
伏見稲荷の中古マンション相場
伏見稲荷エリアと周辺の中古マンション相場を大手ポータルサイトで比較してみた。
エリア | 中古マンション相場 |
---|---|
伏見稲荷 | 1,939万円 |
墨染 | 2,139万円 |
丹波橋 | 2,323万円 |
伏見桃山 | 2,909万円 |
中書島 | 2,430万円 |
※引用:住宅情報サイト「アットホーム」(2024年10月時点)
丹波橋駅と伏見桃山駅の相場が高いのは京阪線や近鉄線、JRなどが利用できるほか、商店街や区役所が位置しているため、京都市伏見区の中心部として栄えているからだろう。これらのエリアと比較すると、伏見稲荷エリアのマンションは比較的手頃で購入しやすいと言える。
次に、販売中(2024年10月現在)の物件をみてみよう。
【伏見稲荷エリア 中古マンションの販売価格】
間取り | 専有面積 | 交通 | 築年数 | 階数 | 価格 |
---|---|---|---|---|---|
3LDK | 67.87㎡ | 京阪伏見稲荷駅徒歩10分 | 築43年 | 7階建7階部分 | 2,780万円 |
3DK | 65.67㎡ | 京阪伏見稲荷駅徒歩8分 | 築42年 | 7階建5階部分 | 1,880万円 |
2LDK | 60.18㎡ | 京阪伏見稲荷駅徒歩5分 | 築9年 | 6階建6階部分 | 3,599万円 |
2SLDK | 72.54㎡ | JR稲荷駅徒歩9分 | 築4年 | 5階建2階部分 | 4,490万円 |
※参考:住宅情報サイト「アットホーム」(2024年10月時点) |
伏見稲荷エリアのマンションの特徴として、古いマンションと新しいマンションが混在していることが挙げられる。元々古くからの建物が多くあったエリアだが、世代交代とともに新築マンションの進出が多くなっているのである。
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伏見稲荷エリアの物件は「買い」か?
京都はコロナ禍を経て訪日外国人や日本人観光客が増えており、注目度の高いエリアの1つだ。京都市観光協会のデータによると、2024年3月の外国人延べ宿泊数は、2019年同月の水準を上回り、外国人比率が過去2番目に高い水準となった。さらに、日帰り客を含めた京都市内の日本人来街者指数は、2019年当時の水準を4ヶ月連続で上回ったのだ。
このように外国から注目が集まる京都の中でも、伏見稲荷エリアは京阪、JRが通っていて京都府内や大阪、奈良へのアクセスが良い利便性の高いエリアである。「伏見稲荷OICYビレッジ」のように観光客向けの新しいスポットができる一方、伏見工業高校跡地を活用した大規模なまちづくりなど、不動産価値が高まる取り組みも計画されている。
国内外の投資家が注目する京都市で、魅力的なまちづくりを計画している伏見稲荷エリアは”買い”のエリアとして位置づけても良いのではないだろうか。
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