かつては豪華クルーザーの貸し出しや温浴施設など豪華な共用施設が売りだった分譲マンション。近年では比較的地味なものが主流となっているが、その中で費用を抑え、住人に喜ばれる工夫を凝らした共用施設も登場している。ここでは、直近で販売されたユニークな共用施設がある新築マンションを紹介しよう。(住宅評論家・櫻井幸雄)
かつての大規模マンションは、豪華な共用施設が売りだった
分譲マンションには「共用施設」というものがある。
居住者のプライベート空間である各住戸内は「専有部」と呼ばれ、住民全員で使用するスペースが「共用部」。この共用部に設けられる施設全般が共用施設となる。
そのため、エントランスホールやエレベーター、集合郵便受け、ゴミ集積場、駐輪場なども共用施設の一部となるのだが、「このマンションの共用施設は…」と説明されるとき、それらの生活必需施設は当たり前のこととして省かれるのが普通だ。
それ以外で「住人全員で使用」し「生活に楽しさや潤いをもたらす」施設が、マンションの共用施設として強調されることになる。
たとえば、小さな子供の室内遊びとなる「キッズルーム」や、体操やダンスの練習などに使用できる「フィットネスルーム」、比較的大人数の会食なども可能な「パーティールーム」、超高層の眺望を満喫できる「スカイラウンジ」、そして来訪者が使用できる「ゲストルーム」などが、よくある共用施設となる。
そして、共用施設は大規模マンションほど充実しやすい。
ここでいう大規模とは、総戸数200戸以上のマンションを指す。なぜ200戸なのか? 分譲マンションでは、毎月管理費と修繕積立金が集められ、このうち、共用施設や共用サービスのために使われるのが管理費なのだが、1戸当たりの管理費徴収額は、大規模でも小規模でも大差がない。
そのため、大規模ほど多くの予算を組むことができ、小規模は少ない予算で共用施設を運営しなければならない。
だから、総戸数50戸以下だと、「毎月管理費を払っているのに、たいした施設もサービスもない」という不満が出てくることになる。
「毎月払う管理費に対して、まあまあ納得できる共用施設とサービスがある」と思えるようになるのが、総戸数100戸を超えたあたりからで、倍の200戸以上になれば、毎月払っている管理費以上の満足度が得られるのではないか。
その大規模マンションは、200戸どころか、500戸や1000戸、2000戸のスケールまで大きくなり、それに伴って共用施設も盛りだくさんとなった時代があった。
豪華な共用施設は運営費用がかさむ
それは、バブルが弾けた後、長く続いた不動産低迷期がようやく回復し始めた21世紀初頭のことだ。2001年から2010年くらいまでは、今では考えられないような豪華共用施設付きマンションがあった。
湾岸有明エリアで2008年に竣工した約1000戸の超高層マンションでは、最上階に25mの屋内プールがあり、温浴施設も併設された。品川エリアの総戸数約2000戸の超高層マンションでは、当初豪華クルーザーが賃借され、住人が交代でクルージングを楽しむことができた。
しかしながら、豪華な共用施設は、運営費用がかさむという短所がある。
一方で、頻繁に利用する人と利用しない人がはっきり分かれ、高い維持費を負担し続けることが議論の的になる、という傾向が出る。
なかには、存続か廃止かで紛糾するケースもあるため、近年、豪華共用施設は徐々に姿を消すようになった。
キャンプ用品の貸し出しなど、地味な共用施設が主流に
そこで近年では、「すべての住人が頻繁に利用」するような施設で「維持費が大きくならない」ことを第一に考えるように変化。
前述したような「キッズルーム」「フィットネスルーム」「パーティールーム」「スカイラウンジ」「ゲストルーム」などが主体となり、最近は、キャンプ用品やスポーツ用品の貸し出しを行える共用施設が加わった程度。マンションの共用施設は、比較的地味になっているわけだ。
そのなかで大きな費用をかけずに、すべての住人に喜んでもらえるような共用施設をつくることはできないか。新たな共用施設づくりの工夫が全国の新築マンションで生まれている。
そこで、これから販売が始まるマンション、もしくは現在販売中のマンションのなかから、ユニークな共用施設を紹介したい。
土管のある築山や屋上庭園を設けた「ジオ島本」
共用の庭に築山を設け、そこに土管を設置。昭和時代に子供が集まった「原っぱ」をつくるのが「ジオ島本」。
阪急阪神不動産がJR東海道線(京都線)の「島本」駅から徒歩3分に建設する全362戸の大規模マンションだ。
土管のある庭に加え、共用棟の屋上には「ステップスクエア・ルーフガーデン」もつくられる。段差を設けた屋上庭園で、迷路を探索するような楽しみを提供してくれる。
土管のある築山も屋上庭園も、ランニングコストが高い共用施設ではない。長く維持しやすく、多くの住人に利用されやすい…サステナブルにも通じる発想で、この点に共用施設の新しい方向性を感じる。金食い虫となる共用施設は避けられる傾向にあるわけだ。
◆ジオ島本 | ||||
価格 |
未定 |
入居時期 |
2024年11月下旬予定(1工区)、2025年10月下旬予定(2工区) |
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交通 |
東海道本線(JR西日本) 「島本」駅 徒歩2分 (1工区)、徒歩3分(2工区) |
所在地 | 大阪府三島郡島本町桜井二丁目地内 北部大阪都市計画事業JR島本駅西土地区画整理事業地内3街区6画地(保留地) |
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間取り |
2LDK~4LDK |
専有面積 | 63.52㎡~86.99㎡ | |
総戸数 | 362戸(227戸(1工区)、135戸(2工区)) | 来場者数 | - | |
売主 | 阪急阪神不動産株式会社 | 施工会社 | 株式会社フジタ大阪支店 | |
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※データは2023年6月7日時点。最新情報は公式サイトをご確認ください。 |
エントランスロビーにこだわった「パークコート渋谷 ザ タワー」
一方で、マンションの住人が必ず利用する空間にはお金をかける、という傾向もある。
その代表が、マンション全体の入り口=エントランスに続く「ホール」とか「ロビー」「ラウンジ」と呼ばれるスペースだ、
エントランスホールやエントランスラウンジは、マンション全体の「顔」となる部分。そのエリアを豪華にすると、マンション住戸を中古で売るときのアピールポイントになる。
つまり、資産価値を維持する要所となるし、住人が毎日見る場所で、ときに休憩したり、話をするスペースであるため、お金をかけておいて損がないわけだ。
その例として紹介したいのは、5月初旬にかろうじて1戸だけ販売中住戸が残っていた「パークコート渋谷 ザ タワー」。
エントランスからエレベーターホールに向かう回廊のようなエントランスロビーに、複数のソファセットを置き、まるで「アリスの不思議な世界」のような雰囲気を醸し出している。
上記の画像はいずれも「パークコート渋谷 ザ タワー」のエントランスロビー。同マンションのキャッチフレーズは「退屈なタワーで、満足か?」…。このように、刺激に富んだマンションを求める人のためにつくったマンションであることがよく分かる。
古民家を共用施設として利用する「ルネ市原八幡宿」
また、千葉県には古民家を共用施設として利用するマンションもある。
なんだ、ずいぶんお金をかけているじゃないか、と言われそうだが、ここでも工夫が凝らされる。エリアに残る古民家を2年間借り上げ、地域活性化も手助け。費用も抑えられるし、まずは2年間だけ利用してみよう、という柔軟性も好ましい。
このプロジェクトは、千葉県市原市で分譲中の「ルネ市原八幡宿」で実現したもの。住人専用の共用施設として利用されるのは、築50年の一戸建て。昭和40年代の建物なので、古民家というより昭和レトロな一戸建てといったほうがぴったりくる。
レトロな感じを残すため、畳敷きで2間続き・縁側付きの居室はそのまま残されている。スタジオジブリの映画に出てきそうな昭和のムードは、若い方々には新鮮で、年配の方には懐かしいだろう。
この住宅は同マンションの住人用別荘として利用されるほか、ワーケーション利用も可能だ。パソコンでの作業ができるように、2つのデスクとWi-Fi設備が備えられている(パソコンは利用者が持ち込む)。
つまり、マンションから里山の古民家まで“通いのワーケーション”もできるようになっているわけだ。
「ルネ市原八幡宿」も古民家も同じ市原市にある。が、高速道路が利用しにくいため、一般道で片道40分〜50分の所要時間となる。
しかし、そのルートは交通量が少なく、信号も少ない道。緩やかなカーブが続く道路をのんびり走るのは気持ちがよい。このドライブも、古民家体験ライフに付随するものと考えれば、じつにスケールの大きな共用施設となる。
ちなみに、古民家を共用施設に活用するプロジェクトは、「2022年グッドデザイン賞」を受賞している。
マンションの共用施設は、華美ではなく、維持費もかけずに多くの住人が喜ぶものを設置するのが最新の傾向。「お金をかけずに知恵を出す」方向といえそうだ。
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