マンション価格、特に首都圏の東京23区の新築マンションの高騰が著しい。平均で1億円を超え、年収1,000万円以上でないと簡単に買えなくなっている。そんななかで、注目すべきは三大都市圏の新築マンション購入者の世帯年収だ。何と、格段にマンションの価格が高い首都圏より、東海圏の世帯年収のほうが高くなっているのだ。一体なぜなのだろうか。(住宅ジャーナーリスト・山下和之)
東京23区の新築マンションは平均でも1億円超え
新築マンション価格がいかに高騰しているのか、図表1の不動産経済研究所のデータをみれば一目瞭然だ。
図表1 首都圏新築マンションの平均価格の推移
首都圏の新築マンションの平均価格、2017年度には5,921万円だったのが、2023年度には7,565万円まで上昇、何とこの6年間で27.8%も上がったことになる。なかなか年収が増えない時代、いよいよ新築マンションは高嶺(高値)の花になりつつある。
特に東京23区の高騰が著しい。2017年度の7,008万円が、2023年度には1億464万円と、年度レベルでは初の1億円台乗せとなった。
6年間の上昇率を計算すると49.3%も上がった計算。6年で1.5倍近くになったのだから、これでは、とても平均的な会社員では手が届かない。
23区では1億円の住宅ローンが必要な物件も
よほどの資産家、富裕層であれば全額キャッシュで購入できるだろうが、そんな人は多くない。ふつうは、住宅ローンを組んで何とか購入、20年、30年にわたってコツコツとローンの返済を行っていくことになる。
しかし、ここまで高くなると、ローンを組むのも簡単ではない。図表2をご覧いただきたい、これは住宅ローンの借入額別にいくらの年収が必要かを算出したものだ。
図表2 借入額別の必要年収
設定条件:35年元利均等・ボーナス返済なし、金利1.0%
借入額 | 毎月返済額 | 必要年収 | ||
---|---|---|---|---|
25% | 30% | 35% | ||
5,000万円 | 14万1,142円 | 677万円 | 565万円 | 484万円 |
6,000万円 | 16万9,371円 | 813万円 | 677万円 | 581万円 |
7,000万円 | 19万7,599円 | 948万円 | 790万円 | 677万円 |
8,000万円 | 22万5,828円 | 1,084万円 | 903万円 | 774万円 |
9,000万円 | 25万4,057円 | 1,219万円 | 1,016万円 | 871万円 |
1億円 | 28万2,285円 | 1,355万円 | 1,129万円 | 968万円 |
多くの銀行の審査基準では、年収400万円以上であれば、年収負担率(年間返済額が年収に占める割合)の上限を35%としている。それでみると、借入額が5,000万円なら年収484万円でOKだが、価格が上がって借入額が7,000万円になると必要年収は677万円にアップする。1億円の借入額では968万円と、ほぼ1000万円の年収がないと借り入れられないことになる。
先に見たように、新築マンション価格が急騰しているだけに、首都圏でも利便性が高く、人気も高い東京23区で買おうとすれば、借入額1億円が必要な物件が多くなってくるのではないだろうか。
ペアローンで2億円を買うパワーカップルも
しかも、返済負担率35%はあくまでも銀行の審査基準であり、年収や家計管理状況にもよるが、年収の35%をローン支払いに持っていかれると、家計の維持がかなり厳しくなる.
なので、家計の安全を考えると25%程度に抑えておくのが安心といわれている。
その25%でみると、借入額5,000万円でも年収677万円が必要で、借入額7,000万円なら948万円が条件となり、借入額8,000万円で1,084万円と、必要年収は1,000万円を超えてしまう。さらに、借入額が1億円になると必要年収は1,355万円と1,000万円台の半ば辺りまで上がってしまうのだ。
そんな現実もあって、近年では共働きで、夫婦ともに年収が高いパワーカップルの存在が注目されるようになっている。なかには、夫婦ともに年収1,000万円超えで、ペアローンを組んで、2億円のマンションを買う世帯もいるという。
それはまだまだレアケースにしても、東京の人気の高いエリアでは、年収1,000万円がないと簡単には希望のマンションには手が届かないのは間違いなさそうだ。
首都圏より東海圏の世帯年収が50万円近く高い
そんななかで、少し気になるデータがある。それが住宅金融支援機構のフラット35を利用して新築マンションを買った人たちの実態に関する調査だ。
世帯年収をみると、全国平均では955.4万円と、やはり1000万円近いレベルに達しているが、都市圏によって世帯年収はかなり異なっている。単純に考えれば、価格の高い首都圏ほど世帯年収が高いと思いがちだが、実際には異なっている。
図表3にあるように、首都圏の平均は944.4万円、近畿圏はそれより若干高い974.8万円で、東海圏はさらに高い993.8万円となっている。東海圏では、ほとんど年収1,000万円に近い水準となっているのだ。
2023年度の特殊要因なのかと思ってその前年度をみても、やはり東海圏が一番高くなっている。
図表3 フラット35利用者の新築マンション購入者の世帯年収 (単位:万円)
名古屋の高所得者が考えるマンションの価値
これはどういうことなのだろうか。
東海圏ではマイホームといえば、戸建て住宅と考える人が多く、実際、首都圏などに比べると格段に安い価格で広めの戸建て住宅が手に入るので、住宅購入希望者は注文住宅や建売住宅を第一に考える傾向が強い。
しかし、最近では中古戸建て住宅も築年数が経過しても、一定の評価が行われるようになっているとはいえ、少し前までは、「20年で建物の価値はゼロになる」といわれたほど、資産価値の維持、向上はあまり期待できない。土地の値上がりの可能性はあるとしても、それ以上に建物価値が低下するので、ほとんど値上がりは期待できない。
それに対して、マンションなら資産価値を維持しやすい、特に中心部の人気の高いエリアで、最寄り駅からの徒歩時間が短い、交通アクセスに恵まれた物件だと、経過年数とともに価値が高まるケースもある。
名古屋周辺に在住の高所得者、富裕層がこぞってそうした新築マンションの購入に走り、それまでの周辺相場からかなり高い価格設定でも、将来性を買って購入している。そのため戸建て住宅購入層に比べて、平均年収が高くなっているのだ。
平均的な会社員はまず戸建て住宅を目指すが、高額所得者や富裕層は資産価値の高そうなマンションを第一に考える――東海圏、なかんずく名古屋市でその傾向が強いといわれている。それが東京圏より世帯年収が高くなっている要因のひとつといっていいだろう。
リニア新幹線で注目度が高まる名古屋の再開発
いま、名古屋周辺でマンション購入が増えているもうひとつの理由として、リニア中央新幹線を挙げることができる。
当初2027年開業を予定していたリニア新幹線だが、静岡県内での工事が進まず、2034年以降の開業が見込まれている。しかし、開業すれば名古屋と東京間が約40分で結ばれることとなり、そのインパクトは計り知れない。
鉄道の新線・新駅の開業は、不動産市場において大きな影響を与えるが、リニア新幹線の開業効果は従来の新幹線以上といわれている。例えば、北陸新幹線が金沢や福井県敦賀に延伸された際には、それらの地域のマンション相場が大きく上昇した。この事例からも、リニア新幹線が開業した場合、さらに大きな不動産価値の上昇が期待される。
リニア新幹線の名古屋駅周辺では、開業を見据えた再開発が進んでおり、東京と名古屋、大阪をつなぐ「スーパー・メガリージョン」の形成が現実味を帯びてきた。名古屋までの暫定開業が実現すれば、東京圏と名古屋圏が一体となり、「東名圏」ともいえる一大都市圏が生まれるだろう。
リニア新幹線の開業は国内外からの注目を集め、インバウンド需要の増加にもつながると考えられている。名古屋周辺の不動産市場や経済活動がさらに活発化するのは時間の問題だろう。
資産価値上昇期待から積極的に購入する高額所得者
国内的に見ても、交通費の問題はあるにしても、40分でつながれば、東京の都心への通勤圏になる。いまでも、首都圏では1時間以上の通勤時間の人が少なくないはずだが、リニア新幹線が開業すれば、名古屋の駅近マンションだとドアツードアでも1時間程度で東京の都心に通勤できるようになる。しかも交通費は高くても、ゆったりと座って通勤できる。東京圏に住んで通勤ラッシュにもまれて出社するのに比べれば、はるかにゆとりがあるだろう。
最近は出社が求められる企業が増えているとはいえ、一方では在宅勤務もすっかり定着しており、月2、3回の出社でOKという会社も少なくない。そうした会社のなかには、新幹線の通勤を認め、新幹線代を負担してくれるケースもある。
そうでなくても、名古屋のマンションであれば、東京より格段に安く手に入るので、ローンの負担額は少なくてすみ、通勤費が多少かかっても、トータルで見れば、決して負担増にはならないだろう。
リニアが開業すればマンションの資産価値は大幅アップ?
リニア新幹線の開業を見据え、名古屋近郊のマンションは資産価値が高まると見込まれている。そのため、周辺相場より多少高額であっても購入を検討する高額所得者や富裕層が多い。これを受け、開発を進めるデベロッパーも強気の価格設定を行っている。
よって、名古屋周辺のマンションは地元住民だけでなく、首都圏を中心とした全国の富裕層にも購入されるようになっている。その結果、東海圏のマンション購入者の世帯年収が上昇しており、首都圏の購入者よりも平均年収が高い傾向が見られるのだ。
こうした動きは、名古屋の不動産市場を活性化させるだけでなく、経済全体にもプラスの影響を与えると期待される。今後のリニア開業の進展に伴い、名古屋は新たなステージへと突入していくに違いない。
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