以下は、2022年8月の新築マンション最新市況です。
最新の新築マンション市況はどうなっているのか? 新築マンションに詳しい住宅評論家・櫻井幸雄氏が、最新の価格相場、売れ行き、人気物件について解説する。購入者は住み心地を重視する傾向が強まり、比較的手ごろ感のある小規模物件が人気となっている。(住宅評論家 櫻井幸雄)
【目次】
2022年最新の新築マンション市況は?
継続的に行っている「新築マンション人気調査」。この調査は、パンフレットなどの資料請求数とモデルルーム来場者数が、マンションの総戸数に比べどの程度多いかを「人気倍率」として計算したものだ。対象は全国で、エリア別にランキングを作成している。
今回の調査期間は2022年4月1日から6月30日まで。新築マンション購入検討者が増えるとされるゴールデンウイークを含む3カ月間である。
「価格がバブル超え」と騒がれるも、6年で約1.13倍の上昇のみ!
この期間、日本国内の新型コロナウイルス感染者数は再び増加。しかし、まん延防止等重点措置などは発出されず、経済活動の回復を第一とした。そのため、今回の調査時期は、新築マンションが順調に販売された時期ということになる。
一方で、首都圏の新築分譲マンションは「平均価格がバブル期を超えた」とたびたび発表された。「単月でバブル期超え」から、「年間でバブル期超え」「年度で区切っても、バブル期超え」「半期でもバブル期超え」……。
首都圏の新築マンション価格はバブル期を超えたと何度も報道され、その都度大きな話題となったため、「新築マンションは高額化した」と思う人が増えた時期でもあった。それも、恐ろしく値上がりした、と。
参考までに書き添えると、「バブル期を超えた」と報道される首都圏の新築マンション価格は、価格上昇がはじまったあたりの2015年度で、平均5617万円だった。それが、2021年度は平均6360万円まで上がった(いずれも、不動産経済研究所発表の数値)。実は、6年で約1.13倍に上昇しただけなのだ。
それでも、「バブル期を超えた」と聞くと、とんでもなく値上がりしているように思える。その影響は大きく、価格が上昇した新築マンションを買ってもよいのか、と考える人も出てくる。そのため、購入をちゅうちょする人も出てきそうだ。
倍率「1」以上の人気新築マンションは微増、目玉物件は減少
この悩ましい時期、人気マンションと認定(「販売中マンション」で、倍率「1」以上。「販売目前マンション」で倍率「2」以上。計算方法は、こちらを参照)される物件数が増えたのか、減ったのか。
前回、「新築マンション人気ランキング」を発表したのは2022年2月。ちょうど半年前である。その半年前と人気マンションの数を比較してみたい。
まず、半年前、全国で販売中マンションのうち、180物件が人気物件と認定された。これは、2021年の調査よりも1割ほど増えた数字だった。これに対し、今回調査で、販売中物件で人気物件と認定されたのは、192。1割近く増加した。
一方で、「極めて、注目度が高い」と判定される倍率「5」以上のマンションは全国で9物件にとどまった。前回は15物件あったので、大幅減だ。
つまり、マンション人気は総じて高いままだが、目玉となる物件は減っている、という様子がうかがわれた。
倍率「5」以上の超人気新築マンションは、タワマンではなく、小規模物件が中心
まず、現在販売中の新築マンションから見てみよう。人気倍率の目安は「1」以上だ。
今回の調査で、全国で最も高い人気倍率を記録したのが、東京都渋谷区の「サンウッド元代々木町」(サンウッド、三信住建)。続いて、東京都千代田区内の「ジオ一番町」(阪急阪神不動産)。この2物件が、倍率「10」を超えた。
いずれも、総戸数が100戸以下の小規模マンションとなる。「サンウッド元代々木町」は全24戸。「ジオ一番町」は、全33戸(販売は19戸)だ。
人気マンションというと、「タワマン」と呼ばれることが多くなった超高層マンションの名前が並ぶ、と思われがち。しかし、これまで人気を集めてきた都心超高層マンションの数が減り、代わって都心や都心周辺部の中・低層マンションが目立つようになった。それが、今回調査の一つ目の特徴だ。
今回の調査で、人気倍率が「5」を超えた販売中物件の名前と戸数を挙げてみると、次のようになる。
販売中の全国の超人気新築マンション | ||||
---|---|---|---|---|
順位 | マンション名 | 倍率 | 販売総戸数 | |
1 | サンウッド元代々木町 | 12.0 | 24 | |
2 | ジオ一番町 | 11.6 | 19 | |
3 | パークホームズ本郷三丁目 | 9.0 | 52 | |
4 | パークホームズ御所南 水月邸 | 7.1 | 19 | |
5 | オーベルアーバンツ両国 | 5.7 | 41 | |
6 | パークホームズ三軒茶屋一丁目 | 5.58 | 64 | |
7 | ザ・パークハウス 高槻天神町 | 5.57 | 38 | |
8 | プラウド新丸子 | 5.3 | 67 | |
9 | サンウッドフラッツ神田神保町 | 5.0 | 48 |
以上9物件が極め付きの高倍率物件ということになる。4位で京都の「パークホームズ御所南 水月邸」と7位で大阪の「ザ・パークハウス高槻天神町」以外は、すべて首都圏物件だ。
人気倍率は総戸数を基準に算出するため、総戸数が少ない物件ほど高倍率になりやすく、総戸数が多い大規模物件は高倍率になりにくい傾向が出る。
総戸数が200戸を超える大規模物件で、倍率「1」を超えた「販売中マンション」は、全国で14。そのうち、極め付きに総戸数が多く、倍率が高かったマンションとなると、埼玉県の「大宮SKY&SQUARE ザ・タワー」ということになるだろう。
その総戸数は522戸で、倍率は「3.5」になっていた。大宮駅周辺で始まったスケールの大きな再開発で、最初に登場する分譲マンションなので、倍率が高くなるのは当然といえるだろう。
人気物件の中心は、2LDK4000万円台、3LDK5000万円台
今回の調査で分かったのは、「人気になっている新築マンションは、そんなに高額ではない」ということ。冒頭で解説したとおり、世間的には「首都圏の新築マンションの平均価格は、バブル期を超えた」とされる。
つまり、6000万円台を大きく超えたとされるのだが、首都圏に限ってみても、そこまで高額ではない物件が目立つ。もちろん、都心部であれば、6000万円台、7000万円台の2LDK、1LDKが目立つので、高額化しているのは明らかだ。
しかし、都下や神奈川、埼玉、千葉エリアであれば、2LDK、3LDKが4000万円台、5000万円台で購入できる物件が目立つ。環境重視で、あまり高すぎない新築マンションが現実的に人気を集めているわけだ。
地方のマンションブームも一段落か
前述した通り、東京以外の販売中のマンションで、倍率「5」を超える物件は大阪と京都のみ。地方物件の場合、そこまで高倍率の物件は出にくい。本来は、倍率「1」とか「2」レベルの物件が多くなるものだ。
ところが、前回の調査(調査期間2021年10月1日〜1月10日まで)では北海道や沖縄で、人気倍率「5」以上のマンションがあった。その頃は、「地方物件でも、人気マンションが続々」と報道された時期。地方のマンションブームが過熱していた時期でもあった。
だが、地方のマンションに一部過熱状態が見られたのは、2022年3月くらいまで。4月以降は落ち着きがみられる。つまり、地方のマンションブームも一段落した感がある。
地方物件の場合、購入者層が首都圏ほど分厚くないので、「ゆっくり販売」が普通だ。その「ゆっくり販売」に戻りつつある、と考えるべきだろう。
倍率「2」以上の注目は、首都圏で注目度が増している「世田谷物件」
次に人気倍率の目安が「2」以上となる、販売目前(モデルハウス公開前)の人気マンションを見てみよう。
販売目前の人気物件のなかで、今回最高倍率を出したのが世田谷区内の「ザ・パークハウス自由が丘フロント」の人気倍率「46.6」。次に「パークホームズ用賀三丁目」の人気倍率「40.5」が続く。これも世田谷区内だ。
東京の世田谷区内で人気物件が続出しているのは、今年に入ってから顕著になった傾向。それまで、“オワコン”(終わったコンテンツ)扱いされてきた世田谷物件が見直されているわけで、その背景には、住み心地のよい場所のマンションを見直そう、という動きがありそうだ。
この動きは、「利便性重視」「資産価値偏重」により、都心超高層マンションの人気が集中し続けたことの反動とみることができる。
「マイホームは利便性だけではないよね」「資産価値が大事と言われても、一生住み続けるつもりで、売る気も貸す気もない」という人にとって、住環境のよい世田谷のマンションは最良の選択となる。その世田谷物件の価格に割安感が出てきたので、注目度が上がってきた、と考えるべきだろう。
関西においても、居住性の高さで定評がある阪神間の「プレミスト芦屋」(人気倍率28.4)や「プレディア六甲篠原中町」(人気倍率16.9)、「ジオ岡本レジデンス」(人気倍率16.2)が高倍率物件になっている。以上は、注目すべき動きとなる。
まとめ〜コロナ禍で、新築マンション購入の主役は実需層に
ここまで分析してきたことをまとめると、次のようになる。
- ・人気倍率「1」以上の販売中物件は、前回調査より若干増えている。しかし、極めて倍率が高い物件は減っている
- ・タワマンより、小規模物件が人気に
- ・首都圏郊外エリアでは、4000万円台の2LDK、5000万円台の3LDKが人気
- ・地方のマンションブームは一段落で、ゆっくり販売に戻っている
- ・全国的に、住み心地重視の傾向が出ているのではないか
以上から考えられるのは、投資目的の購入者が減り、実需層(自ら居住する目的で、マンションを購入する人たち=マイホーム購入者)が購入者層の中心になっているのではないか、ということだ。
投資目的の購入層は、経済の動きに素早く反応し、マンション購入に積極的だったり、手控えたりする。瞬時に方向転換が行われるわけだ。
それに対し、実需層は簡単に方向転換をしない。マイホーム購入を計画し、時間をかけて貯金をして、行動を起こす。経済や社会の状況が変わっても、簡単に計画を変更しない。実際、阪神淡路大震災が起きたときも、東日本大震災が起きたときも、実需層は被災地に住む人以外、大方は計画を変更しなかった。
それと同じことが、コロナ禍が長引く今、起きているのかもしれない。投資目的の層は、いろいろな事情から、「しばらく様子見」を決める。
一方で、実需層は計画通りにマイホームを購入する。だから、人気物件は幅広く出現するが、極め付きに高倍率の物件が現れず、売れる物件の価格水準もそんなに高くない、ということになるというわけだ。
マンション市況に変化が見られる。それは、単純に「売れ行きが変わった」ということではなく、プレーヤーの主体が代わったので、好まれる物件の立地、価格水準が変わってきたのではないか、ということである。
この先、どのように変化してゆくのか、もしくは変化しそうにみえても、また元に戻るのか。これからの調査で引き続き、注目していきたい。
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