ここからは前回の市況を調査した、「2020年7月マンション市況、売れ行きは?櫻井幸雄氏が相場動向&人気物件を解説」となる。
コロナ禍で停滞したマンション市況
6月以降急速に回復中
コロナ禍で、首都圏で新規に販売されるマンションの数が減った。不動産経済研究所の発表によると、首都圏で4月に発売されたマンション戸数は686戸で、前年同月比で51.7%の減少だ。
これは当然だろう。4月17日に緊急事態宣言が出されて以降、マンションの販売センターはほぼすべてが閉鎖され、新たな販売活動を停止。4月17日までに交渉が始まっていた客との継続対応だけが行われたので、販売戸数は大幅に減ったのである。
5月の発売戸数はさらに減って393戸。前年同月比では82.2%減という過去最少の供給戸数を記録した。
一方で気になる数字もある。それは発売戸数が減るなか、契約率が上がっていることだ。4月のマンション契約率は78.9%で、前年同月比で14.6ポイントのアップとなった。5月のマンション契約率は72.3%。
いずれも、好不調の目安である70%のボーダーラインを超え、ちょっとしたマンションブームが起きたときの状況となった。
もちろん、マンションブームは起きておらず、新規に発売する住戸を絞った結果、契約率が上がったということである。
4月は、特に東京都下(84.4%)と神奈川県(86.8%)の契約率が高く、ステイホームやテレワークを経験した人たちが、「郊外の広くて安いマンション」に興味を示している様子が読み取れた。
しかし、5月になると都区部での契約率が上昇し、74.5%を記録。「コロナ禍で、都心の人気が落ち、郊外のマンションや一戸建てが人気」とは言い切れない状況が生まれた。
状況は単純ではなかったわけだ。
販売センター再開後、
来場者数は想定以上に
緊急事態宣言が解除され、閉鎖されていた販売センターが営業を再開したのは6月に入ってからだ。
5月から6月にかけて、消費マインドの落ち込みは激しく、しばらくマンションは売れないのでは、という見方があった。販売センターを開けてはみたものの、不動産会社も戦々恐々だった。
しかし、販売センターへの来場者数は想定以上だった。
各販売センターは「密」になることを避けているため、1日の来場者数を制限。そのこともあって、週末は予約が取りにくくなり、7月以降は2週先、3週先の予約になるところも出ている。
そして、見学から契約までの時間が短い。この時期、わざわざ販売センターを訪れる人たちだから、買う意欲旺盛ということもあるのだろう。
また、販売前にネットで調べる時間が長かったため、狙いを定めて販売センターを訪れる。その結果、決断も早いのだと推測される。
「芳しくないかもしれない」と思われた新築マンション市況だが、そんなにわるくなかったわけだ。
そこで思い出すのが、東日本大震災後の市況だ。2011年3月11日の東日本大震災の後、多くの日本人が高額の買い物をする気にはなれなかった。この時期、来場者はいないだろう、と首都圏のマンション販売センターも1カ月ほど閉鎖されたところが多かった。新築住宅の売れ行き不振は長期間続くと考えられ、「今年は、もうダメだ」という声も、不動産会社から聞かれた。
しかし、実際には地震から3カ月くらいたったあたりから持ち直し、結局、2011年は前年とほぼ同じ数のマンションが売れた。
現在のコロナ禍を東日本大震災と同等に考えることはできないし、東日本大震災のときとは違うという声は多い。
しかし、東日本大震災のときも、多くの日本人が落ち込んでいたのは事実。2カ月以上落ち込む時期があったが、そんな時期でも、人は家に住まなければならない。借りるか買うことになる。「借りるよりも買おう」という人は、東日本大震災の後にもいた。それは、コロナ禍でも同じ。マンション購入者はどんな時期でも一定数いるということである。
では、6月1日以降、どんなマンションが人気を集めているか、についての詳細は8月末まで3カ月間の集計がまとまるまでお待ちいただきたい。
今回は、3カ月集計の中間で「速報」として、来場者を多く集めているマンションの代表例を取り上げ、人気マンションの傾向と理由をレポートしたい。
最初に注目されたのは、
郊外大規模マンション
6月以降、まず来場者が増えたのは、以下の郊外の大規模マンションだ。
・リーフィアレジデンス橋本(東京都町田市)
・ウエリス浦和美園(埼玉県)
・グランアリーナレジデンス(神奈川県)
・ルネ稲毛グランマークス(千葉県)
いずれも6月以降、売れ行きや販売センターへの来場者が大幅に増えている新築分譲マンションだ。
その共通点は、「郊外の大規模」であること。20世紀までは新築マンションの王道だったが、近年は超高層マンションの影に隠れてしまった感のある郊外大規模マンション。それが今、人気を高めている理由として、テレワークの広がりと結びつけたくなる。が、多くの人は、「会社に出勤する必要がなくなるので、郊外で広いマイホームを持ちたい」とまでは考えていない。
そうではなく、ステイホームの期間、「改めて、我が家の狭さが身にしみた」という声が多い。狭い家が嫌だったので、家賃と同レベルのローン返済で購入できる広いマンションを探した。そこで目を付けられたのが、郊外の大規模マンションだった。
マンション価格が上昇した首都圏でも、都心から電車で30分以上かかる郊外で、駅近ではない立地のマンションであれば、75㎡以上の3LDKが3000万円台で購入可能。さらに、大規模マンションであれば、共用施設が充実する。
3LDKが3000万円台、共用施設充実の大規模マンションに購入者が押し寄せたわけだ。
共用施設のなかにはテレワークや自宅学習にぴったりのワーキングスペースがあるし、工具をそろえた工作室がある、子どもが遊ぶスペースもある。
郊外大規模マンションであれば駐車場設置率も高いので、マイカーも所有しやすい。いずれも、ステイホーム、テレワークの時期に、「そういうマイホームだったらよかったのに」と思える要素。つまり、都心への通勤が多少不便でも、住み心地の良さや居心地の良さがある。そういうマンションに反応する人が増えた結果、郊外大規模マンションの注目度が上がったとみることができる。
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7月からは都心・準都心のマンションにも関心が高まる
郊外大規模マンションが人気を高めた後、6月下旬あたりから、販売の現場から聞こえてきたのは「都心マンションでも、来場者が増えているマンションがある」との声だ。
といっても、販売価格が2億円を超える高額住戸の購入者が増えたとの情報はない。販売センターへの来場者が増えているのは、ほどほどの立地で、価格もほどほどの都心マンションだ。
たとえば、都内品川区でJR京浜東北線大井町駅から徒歩4分の「シティタワー大井町」は、3LDKが9000万円台からの設定でワンルームタイプであれば3000万円台からの価格となる。
そういう価格設定の都心マンションに来場者が増えている。テレワークがもてはやされても、所詮は一部だけの動き。都心への通勤はなくならないだろう。だったら都心近くに住み、電車に乗る時間を短くしたほうが感染リスクは減る。そう考える人が増えたのかもしれない。
コロナ禍で郊外に出て行く人が増える一方で、コロナ禍だからこそ、再び都心に注目する人もいる。そういう都心再評価派は、「都心や準都心で、比較的抑えた価格のマンションはないか」と、物色し始めたわけだ。
この動き、これから先も注目してゆきたいところだ。
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