今回は「新川崎」周辺エリアについて、人口動態や地理的条件、都心へのアクセスを分析しながら、このエリアのマンション価格を分析します。居住エリアとして注目を集める「川崎駅」「武蔵小杉駅」ですが、その間にある「尻手駅」「矢向駅」「鹿島田駅(新川崎駅)」「平間駅」「向河原駅」は、不動産の割安さからいうと、注目に値します。(不動産鑑定士・安澤誠一郎)
人口減の本格化する時代ですが、東京に隣接する川崎市の人口は2045年になっても今より5%程度増加していると予測されています。川崎市の玄関「川崎駅」前は、「横浜駅」前と比較すると集客では劣るものの、新しい大型商業施設の集積する高度商業地として若年層に支持されています。一方、市内の住宅地としては東横線と横須賀線の連結する「武蔵小杉駅」周辺も都心へのアクセスで人気が高まっています。
「武蔵小杉駅」には「川崎駅」と「立川駅」を結ぶ南武線も乗り入れています。都心に連絡しない南武線はローカル線であり、南武線オンリーの沿線駅エリアは目立たない住宅地です。南武線沿線駅(東部)としては、「尻手(しって)駅」「矢向(やこう)駅」「鹿島田(かしまだ)駅」(新川崎駅と近接)「平間(ひらま)駅」「向河原(むかいがわら)駅」がありますが、このエリアについて、マンション価格が割安なのか、将来性はあるのかなどについて分析します。
なお、この一帯は行政上、川崎市の幸区&中原区に属しますが、一部は横浜市鶴見区も含まれています。
・人口増加率の高い川崎市
・川崎市の婚姻率と出生率
・川崎市を東西に走行する南武線
・自動車でも、東京都心へのアクセスが容易
・南武線東部沿線エリアのアクセス
・南武線東部沿線エリアの中古マンション価格
・南武線東部沿線エリアの中古マンションは割安?
人口増加率の高い川崎市
下表は2015年(平成27年)の国勢調査で、横浜市と川崎市の中で2010年(平成22年)に対しての人口増減率の高い区と低い区の順位です。
横浜市&川崎市の人口増減率(平成22~27年) | ||||
---|---|---|---|---|
順位 | 増加率の高い区 | 減少率の高い区 | ||
1 | 川崎市中原区 | 5.8% | 横浜市金沢区 | -3.4% |
2 | 横浜市都筑区 | 5.2% | 横浜市港南区 | -2.6% |
3 | 川崎市高津区 | 5.0% | 横浜市栄区 | -2.2% |
4 | 横浜市鶴見区 | 4.8% | 横浜市瀬谷区 | -1.9% |
5 | 横浜市港北区 | 4.5% | 横浜市旭区 | -1.6% |
6 | 川崎市幸区 | 4.3% | 横浜市泉区 | -1.1% |
7 | 横浜市西区 | 3.9% | 横浜市南区 | -0.7% |
東京区部に隣接する川崎市は川崎区・宮前区・多摩区・麻生区も含めて全区が人口増加しています。一方で、横浜市は東京都心に近接する市内北部の都筑区・鶴見区・港北区・西区は増加しているものの、東京都心から遠い市内南部の金沢区他7区は減少に転じています。
明らかに東京都心への職住接近による都心回帰の傾向といえます。
人口が増加している区を見ると、大半が東京都心に電車で直結しています。
・川崎市中原区と横浜市港北区は、横須賀線と東横線
・川崎市高津区は田園都市線
・川崎市幸区は、東海道線(京浜東北線)と横須賀線
・横浜市鶴見区・西区は、東海道線(京浜東北線)・横須賀線・東横線・京浜急行
唯一、横浜市都筑区は、東京都心には直結していません。東京都心に出るには、横浜市営地下鉄(ブルーライン・グリーンライン)に乗り、途中で田園都市線か東横線に乗り換えとなります。これは、平成に入って開発の進んだニュータウンで、若い世代に人気があるためで、唯一の例外でしょう。
川崎市の婚姻率と出生率
川崎市が作成した「平成27年版大都市データランキング(カワサキをカイセキ)」によると、政令指定都市の中で川崎市が婚姻率も出生率も20年超連続で1位。下のグラフはこの平成27年のデータによる東京圏都市別の婚姻率と出生率です。
婚姻率は東京区部が一番高いのに、出生率になると一番低くなるというのは、結婚して出産時期までに、カップルの一部が東京区部から不動産価格(または賃料)の割安な近郊に移転するからと推定されます。
したがって川崎市の出生率が一番高いのは、不動産価格(または賃料)の水準が都心よりも低いのに、住宅地として人気の高い東京区部南西部に隣接し、東京都心部へのアクセスがいいため、カップルが移り住んでいるからです。
川崎市を東西に走行する南武線
多摩川に沿って東西に市域を形成する川崎市は、多摩川を挟んで東京の大田区・世田谷区・狛江市・調布市に隣接します。
今回取り上げる「JR南武線」沿線は、神奈川と東京の境界を形成する多摩川の南側を多摩川に沿って川崎市域を東西に横断しています。「川崎駅」を起点に、中央線の立川駅まで結びます。
その路線は多くの路線と交わっています。川崎駅から出発すると、横須賀線、東横線、田園都市線、小田急線、京王相模原線とクロスしてから多摩川を渡り、武蔵野線、京王線とクロスして、最後は中央線の立川駅まで結びます。
南武線の起点「川崎駅」は、横浜駅には負けますが、交通の要衝となる中核の駅です。徒歩約7分で京急線の「京急川崎駅」と繋がっており、「東京駅」と「横浜駅」の中間にあります。「京急川崎駅」からは、「東京駅」16分、「横浜駅」7分、「品川駅」8分、「羽田空港国内線ターミナル駅」17分で直結していて、非常に便利です。
川崎駅前の商業エリアはJR西口の駅直結「ラゾーナ」、「ミューザ」、JR東口駅ビル「アトレ」、「ルフロン」、「ラ チッタデッラ」等が集積する高度商業地域です。
自動車でも、東京都心へのアクセスが容易
今回紹介する、JR南武線の沿線は、自動車でも都心へのアクセスが容易です。
川崎駅西口直結のショッピングモール「ラゾーナ」(東芝工場跡地)から、多摩川の上流に向かって多摩川沿いの道路を車で走ると、まず左手に見えてくるのは「新川崎」のタワマンと高層ビルで、ガス橋を抜けると左手にタワマンの林立する「武蔵小杉」、右手の対岸遠くに「二子玉川」の高層ビルとタワマンが見えます。
都心3区やみなとみらいの高層ビル群と違って、郊外の川沿いに広がるフラットな空間に建つ高層街はインパクトがあります。フラットな川沿いの道路から見上げる感覚はタワマンの高層階から俯瞰する眺望に繋がるようで、タワマンに住みたくなる気持ちが分るような気がします。
一方でこの多摩川南岸の南武線沿線エリアは、橋を渡ると短時間で東京に行けます。
・多摩川大橋(国道1号線)で、馬込・五反田
・ガス橋で、大森・品川
・丸子橋(中原街道)で、自由が丘・五反田
・二子橋&新二子橋(246号線)で、二子玉川・渋谷
東京の大田区・世田谷区に隣接する、便利なエリアということを実感します。
南武線東部沿線エリアのアクセス
南武線東部の沿線駅「尻手駅」「矢向駅」「鹿島田駅(新川崎駅)」「平間駅」「向河原駅」エリアですが、実は、アクセスはかなりいいエリアです。
地勢的には多摩川と鶴見川にはさまれた低地で、京浜工業地帯に属しかつては東芝・日立・NEC・富士通といった電気通信機器メーカーの工場が集積していましたが、今は工場の移転により工場跡地のマンション化が進んでいます。古くから住宅地も形成されているものの、平坦地に工場や事業所も混在しており、街並みは殺風景です。駅前商店街もそれなりに充実はしていますが、総じて住宅地としてのグレード感はありません。
アクセスも南武線の「鹿島田駅」と徒歩約6分で横須賀線「新川崎」駅に連絡する新川崎エリアは別格として、他の駅は都心や横浜方面とは乗り換えが必要になります。ただし、この一帯は「川崎駅」と「武蔵小杉駅」で、都心方面への乗り換えが可能であり、複数路線が選択できます。もともと都心と横浜へは接近しているのでアクセスにめぐまれているといえます。
「本当か?」と疑う声も聞こえてきそうなので、数字で説明してみましょう。
下表は新川崎周辺の「南武線沿線駅」から、東京都心の主要駅への乗り換え時間を含めた所要時間の比較です。
南武線(川崎~武蔵小杉駅)からの主要駅所要時間(分) | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
起点駅名 | 武蔵小杉 | 向河原 | 平間 | 新川崎 (鹿島田) |
矢向 | 尻手 | 川崎 |
品川まで | 10 | 24 | 26 | 13 | 21 | 19 | 9 |
東京まで | 17 | 32 | 32 | 20 | 31 | 28 | 18 |
大手町まで | 26 | 41 | 43 | 30 | 41 | 40 | 28 |
虎ノ門まで | 25 | 39 | 41 | 27 | 38 | 36 | 24 |
赤坂見附まで | 28 | 42 | 44 | 30 | 40 | 39 | 27 |
渋谷まで | 13 | 25 | 31 | 19 | 30 | 32 | 31 |
新宿まで | 21 | 40 | 40 | 25 | 48 | 40 | 38 |
横浜まで | 10 | 22 | 20 | 9 | 16 | 14 | 8 |
8駅平均所要時間 | 17 | 29 | 31 | 19 | 29 | 28 | 20 |
※ヤフーの「路線情報」による平日10時台の乗り換え時間を含む最短の所要時間。「新川崎」は横須賀線のみの所要時間で、南武線「鹿島田」からの所要時間は反映していません。■は、最も主要駅に近い駅。 |
アクセスの比較のため、「品川駅」「東京駅」「大手町駅」「虎ノ門駅」「赤坂見附駅」「渋谷駅」「新宿駅」「横浜駅」までの8駅の平均所要時間により測定すると、「武蔵小杉」がトップで、「新川崎」「川崎」とほぼ並んでいます。
一方で、乗り換えが必要な「尻手駅」「矢向駅」「平間駅」「向河原駅」も、若干のばらつきはあっても乗り換え等に必要な時間は+8~+14分の範囲です。
人気の「武蔵小杉駅」や「川崎駅」と比べると、アクセスは若干劣るといったところでしょうか。
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南武線東部沿線エリアの中古マンション価格
ここで、南武線沿線駅の中古マンション価格の相場を調べましょう。
「川崎駅」と「武蔵小杉駅」の南武線区間の沿線駅エリアの、中古マンションの売出事例のうち、築10年以内で駅徒歩ほぼ10分圏内の60~80㎡の物件について、平均単価を求めて70㎡に換算したのが下表です。
南武線(川崎~武蔵小杉駅)の中古マンション価格 | ||
---|---|---|
駅・エリア | 70㎡マンション換算価格 | 武蔵小杉を100とした場合の価格指数 |
武蔵小杉 | 76,200千円 | 100 |
向河原 | 55,100千円 | 72 |
平間 | 48.200千円 | 63 |
新川崎(鹿島田) | 54,100千円 | 71 |
矢向 | 44,100千円 | 58 |
尻手 | 37,700千円 | 49 |
川崎 | 61,700千円 | 81 |
※参考にした売出事例は次ページに掲載 |
「武蔵小杉駅」を100とすると「川崎駅」81。アクセスから考えると、当然次は「新川崎駅」のはずですが、「武蔵小杉駅」に駅が隣接している「向河原駅」が1ポイント高い72となりました。大人気の武蔵小杉に近いということが、好感されているようです。
では、比較的割安なのはどの駅でしょうか。
「新川崎駅」は、JR横須賀線の駅で、JR南武線の「鹿島田駅」から徒歩6分です。実は、「渋谷駅」「新宿駅」へのアクセスが良く、若干「川崎駅」を超えているのですが、中古マンション価格では川崎駅に負けており、かなり割安ということになりそうです。中古マンション価格は「向河原」よりも安く、実力以上に低く評価されているという気がします。
「尻手駅」は、都心へのアクセスが平均28分であり、他のJR南武線の駅よりも若干いいのですが、中古マンション価格は「平間駅」「矢向駅」が上です。「尻手駅」は名称のせいで人気がないのか、「武蔵小杉駅」の半値の49です。ちなみに、読み方は「しりて」ではなくて、「しって」です。南武線から別路線への乗り換えによる所要時間は10分前後ですが、低評価すぎます。
南武線東部沿線エリアの中古マンションは割安?
下表は、念のために、「武蔵小杉」と人気のブランド「二子玉川」「吉祥寺」のアクセスと中古マンション価格を比較してみたものです。
人気ブランドエリアは割高? (新川崎と人気エリアをアクセスとマンション価格で比較) |
|||||
---|---|---|---|---|---|
起点駅名 | 武蔵小杉 | 新川崎 (鹿島田) |
川崎 | 二子玉川 | 吉祥寺 |
東京まで | 17分 | 20分 | 18分 | 38分 | 27分 |
大手町まで | 26分 | 30分 | 28分 | 25分 | 35分 |
赤坂見附まで | 28分 | 30分 | 27分 | 27分 | 24分 |
渋谷まで | 13分 | 19分 | 31分 | 15分 | 16分 |
新宿まで | 21分 | 25分 | 38分 | 26分 | 14分 |
横浜まで | 10分 | 9分 | 8分 | 31分 | 60分 |
平均所要時間 | 18分 | 22分 | 25分 | 27分 | 29分 |
平均マンション価格 | 7620万円 | 5410万円 | 6170万円 | 8850万円 | 8440万円 |
※中古マンション価格は、そのエリアの70㎡の平均的な価格とした |
「武蔵小杉駅」は都心の多方面へのアクセスの良さとタワマンでブランドを作りました。それでも、東京のブランド「二子玉川」や、住みたい街ベスト3を維持する「吉祥寺」と比較すると、中古マンション価格はまだ安いということになります。「武蔵小杉駅」は、タワマン中心であるため、価格は高めに出ているはずなのですが、それでも二子玉川や吉祥寺に負けています。
とはいえ、今後を考えると、魅力的な駅前商業地を持っている二子玉川、吉祥寺のブランド力は強いですが、人口減と世代交代により、ブランドイメージは徐々に落ちていくことが考えられます。
一方で、人口減の時代になっても、人口流入と出生率の維持が期待できるのが新川崎エリアであり、不動産価格も相対的に価値が上がっているものと思われます。
特に穴場ともいえるのが南武線エリアです。都心へのアクセスでは武蔵小杉に比べると10分程度の乗り換え時間が必要ですが、不動産が割安であることは注目すべきでしょう。
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