京浜急行「横須賀中央駅」周辺の不動産は“買い”なのか? 横須賀は、米軍基地や防衛大学校があり、英語と日本語を併記したショップも目立つ、他の街とは違った雰囲気を持った街だ。一方、ICT企業の誘致・集積を進める「ヨコスカバレー」構想を展開し、森ビルとのまちづくり協定を結ぶなど、再開発への意気込みも感じられる。今回は、そんな横須賀周辺の不動産価値について分析する。(フリージャーナリスト・福崎 剛)
個性的な商店街と、観光資源に恵まれた街「横須賀」
一口に「横須賀」と言っても、JR線の「横須賀」と京浜急行「横須賀中央」では、全く雰囲気が異なっている。一般的な横須賀の街と言えば、横須賀中央駅前の商店街から続く住宅地エリアだ。
このエリアは、飲み屋街で知られる「どぶ板商店街」のほか、駅東口からすぐの「三笠ビル商店街」などに様々なショップが並ぶ。特に、雨でも濡れずに買い物ができる三笠ビル商店街には、魚屋やスカジャン専門店、理髪店といった地元の店舗から、100円ショップやファストフード店などのチェーン店も入っており、見て歩くだけでも楽しい。
また、横須賀中央駅の西口には、160の専門店が入っている大型ショッピングビル「横須賀モアーズシティ」があり、普段の買い物には不自由しない。
東郷平八郎の銅像がある「三笠公園」に続く「千日通り商店街」なども個性的な店構えとなっており、こうした商店街を散歩するだけでも楽しめるのが横須賀の特徴だ。
また、横須賀には観光スポットも数多い。幕末の開国以来、横須賀を舞台に歴史が繰り広げられることも多かったため、横須賀にはさまざまな史跡が点在している。ペリーが黒船で来航した浦賀や、吉田松陰や勝海舟、前島密や東郷平八郎など、歴史上の人物が活躍したスポットが残っている。
海洋都市としての存在感を示しているのは、東京湾内の無人島「猿島」だ。年間を通じて釣りやBBQなども楽しめ、夏は海水浴客でにぎわう。2015年には「国史跡」として認定され、戦時中の歴史遺産なども見学できる希少なスポットとして、国内外から多くの人が訪れている。
このように、生活利便性と個性的な街並み、そして観光資源を兼ね備えている点が、他の街にはない横須賀の魅力になっている。
通学・通勤圏は、横浜から都心まで幅広い
横須賀市は、神奈川南東部・三浦半島に位置しており、横浜の中心部からは約30kmほど離れている。そのため、首都圏のベッドタウンとして発展してきた経緯があるとはいえ、東京都心へのアクセスは良くないように思うかもしれない。しかし、横須賀エリア在住者の通学・通勤圏は、横浜だけでなく東京都心にまで及んでいる。
京急なら快特に乗れば横須賀中央駅から横浜までは5駅約30分、品川までは7駅44分で到着する。意外にもアクセスは悪くないといえるだろう。
2015年からは、三浦海岸・横須賀中央・金沢文庫・上大岡駅から品川・泉岳寺駅まで座席が確保できる「モーニング・ウィング号(京浜急行電鉄)」が運行になっている。平日の朝ラッシュ時間帯に運行されているこの電車は、都内への通勤者から好評で、2019年10月28日から、横須賀中央駅始発の便が増発されることになっている。これで通勤・通学のストレスが軽減されるのは間違いない。
新たな街づくりへの意気込みが高い、横須賀市
■定住意識は高いものの、人口減少に歯止めがかからない
市民の8割以上が市内に住みつづけたいと思っている街、それが横須賀だ。2015年の市内在住者を対象にしたアンケート結果からも、市民の定住意向が高いことが分かっている。
「今住んでいるところに住み続けたい」(63.5%)、「横須賀市内のどこかに住み続けたい」(18.5%)を合わせると、回答者全体の82%が市内に定住したい意向を示している。その理由としては、半数以上が「自然環境が豊か」(56.2%)をあげ、「買い物しやすい」(39.3%)、「親・親族が近くに住んでいる」(34.8%)と答えている。
ところが、こんな定住意識の高さにも関わらず、横須賀市では人口減少が目立っている。現在の横須賀市人口は約40万人で、人口規模は藤沢市と同じ程度だ。しかし、総務省「住民基本台帳移動報告(2012年)」によると、横須賀市の転出超過数は全国10位、そして翌2013年には全国1位を記録した。
先ほどの調査では「市外に転居したい」と回答した人は18%にとどまっている。その理由としては、「通勤・通学に不便」(35.8%)が最も多く、次いで「買い物に不便」(34.1%)や「市内の雇用が少ない」(30.1%)というものだった。
つまり、これらを解消すればさらに定住志向が高くなるし、他の市からの転入者数が増えるのは間違いなさそうだ。市外への転居を希望している人のうち、通勤・通学に関して「不便」だという意見がもっとも多いが、定住志向の高い人たちは逆に「通勤・通学に便利」(29.2%)と回答しており、通う学校や会社の所在地によって評価が分かれているようだ。そうなると、市内の雇用が少ないことが、転入者が少ない理由となっている可能性が高い。つまり、市内の雇用状況の改善が重要なカギとなりそうだ。
■新しい街づくりに向けて、意欲が高い横須賀市
そこで、横須賀市では「ヨコスカバレー」構想という新たな街づくり方針を打ち出した。
横須賀は三浦半島に位置し、幕末の開国以来、国防の重要拠点としての歩みがある。米軍基地や自衛隊が駐屯するほか、街中の看板には英語表記が珍しくなく、英語が飛び交う街でもある。そんな特性を生かして、将来有望なICT企業の誘致・集積を図る取り組みがヨコスカバレー構想だ。
ヨコスカバレー構想には、近未来の産業都市を目指すという意味だけではなく、雇用の増加や定住促進の目的も含められている。実行委員会では、2025年までに100社の企業誘致と、雇用換算で100億円の効果額を目標に掲げているが、その前段階として、20~40代前半の若者をメンバーに取り入れ、ハッカソンやプログラミング講座を定期的に開催している。
ヨコスカバレー構想の他にも、国内外の情報技術系の公的研究機関を集めた「横須賀リサーチパーク(通称:YRP)」の開設や、福祉関係大学などの教育機関の誘致を積極的に進めている。
横須賀市リサーチパークの広大な敷地の中には、NTT、NEC、デンソー、KDDI総合研究所、富士通といった情報通信業界の主軸となる企業の研究所や、東京大学、京都大学、早稲田大学といった大学の研究室が進出しており、研究開発拠点として重要な場所となっている。
また、横須賀リサーチパークが開業したことで、京浜急行・野比駅は「YRP野比駅」に改称するなど、横須賀市内でも重要な位置づけであることがうかがえる。
横須賀市は、こうした研究機関だけではなく、ヴェルニー公園や長井海の手公園、ソレイユの丘に横須賀美術館などを整備して、観光産業にも力を入れている。
また、縮退都市時代の先駆けとして、新たな街づくりを実践しようと、2019年3月には森ビルと「まちづくり基本協定」を締結した。令和新時代に、横須賀から新しい街づくりを発信しようというわけだ。まだ具体的な施策にまで至っていないが、大きな変革を遂げそうな予感は十分で、森ビルがどのように横須賀の街をイノベーションさせるのか、期待は高い。
また、2018年に発表した「横須賀再興プラン」では、第3次実施計画として、2018〜2021年にかけての再興政策を掲げている。再興プランすべてが2021年までに達成されるわけではないが、動き始めていることは間違いない。基地を抱える特殊な環境を抱えつつ、横須賀市の再興プランは注目を集めている。
不動産は下落が続くが、将来を見越せば今が狙い目?
街づくりに対する期待感だけでは、住民が増えるには限界がある。人口減少で転出超過が続いているため、横須賀の不動産価値はここ5年間下落傾向だ。かろうじて横須賀中央駅付近や汐入のあたりは横ばい傾向にあるものの、横須賀市全体の公示価格を見ても前年よりも下がっている。
では、周辺地域と比べてはどうか。横須賀市の近隣地域の土地価格相場と比較すると、逗子市や横浜市金沢区に比べて坪単価価格は33.2万円/坪と約半分近く、十分に割安感がある。
・逗子市 59.9万円/坪
・横浜市金沢区 57.6万円/坪
・三浦郡葉山町 45.6万円/坪
・横須賀市 33.2万円/坪
・三浦市 19.3万円/坪
※住宅情報サイトSUUMOより抜粋(2019年10月現在)
まとめ 不動産は下落傾向だが、将来を見越せば今が狙い目?
では、実際の中古物件をいくつか個別に見てみよう。横須賀中央駅を基点にして中古マンションを探すと、築年数と価格のばらつきがかなりあったため、今回は築浅の物件に絞って検討した。
横須賀中央駅前の築1年のタワーマンションは、すでに中古物件が出回っている。眺望もよい16階の3LDK(81.54㎡)で、4650万円で販売中だ。駅から徒歩2分で、広さと立地は申し分ないだろう。
築12年・2LDK(53.5㎡/11階建6階)・駅徒歩8分で2600万円。築15年・3LDK(69.92㎡/10階建9階)・駅徒歩10分で3180万円など、広さも十分にあって立地的にも駅まで徒歩圏内の中古マンションが、おおむね2000万~3000万円台で販売されている。
横須賀の不動産価値は、近年継続的に下落してはいるが、これ以上地価が下がるのを待つよりも、再興プランとともに変貌するであろう横須賀の5年から10年先に期待してもいいだろう。横須賀再興プランがどのように具体化していくかは分からないが、土地価格が上昇トレンドに入らないうちに、横須賀近辺の中古不動産を検討する価値はある。
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