神奈川県の「橋本駅」と言っても、なじみが薄いかもしれませんが、2027年にリニア新幹線の新駅がオープンするなど話題の多いエリアで、不動産価格も上昇しています。現在はスーモの住みたい街の100位にもランクインしていない辺境の「橋本駅」ですが、将来はベスト10に入るかもしれません。人口減少・都心回帰の東京郊外で、大動脈のリニア沿線駅としての「橋本駅」はさらに発展するのか、不動産価格はさらに上昇していくのか、を検証します。(不動産鑑定士・安澤誠一郎)
もともと「交通の要衝」だった橋本駅
「橋本駅」は神奈川県の北西端、東京駅から約40キロ圏に位置します。市域としては相模原市の西側の緑区にあって、北西側で東京の西端の八王子市、北東側で東京の南端の町田市に接しています。
橋本駅はもともと、横浜と八王子を東西に結ぶ「JR横浜線」と、橋本駅と湘南の茅ヶ崎へ南北に繋ぐローカル線の「JR相模線(始発駅)」が連絡している駅でした。1990年には、新宿駅と直結する「京王相模原線」が橋本駅(始発駅)まで延伸したことにより、東京都心と直結するターミナル駅になりました。京王相模原線で新宿駅は約40分、大手町は乗り換えで約60分。JR横浜線で町田駅約10分、新横浜駅約35分、横浜駅約40分で連絡します。まさに「交通の要衝」です。
その橋本駅の南口に、8年後の2027年、品川⇔名古屋間のリニア新幹線開通と併せてリニア新駅がオープンします。今も交通の要衝とはいえ、東京都心40km神奈川県の辺境に位置する「橋本」が、品川約5分、名古屋約35分で直結した時、このエリアは大きく変貌しそうです。
地価は大きく上昇している
高齢化の進む多摩ニュータウンは、同じ京王相模原線沿線で隣接していますが、橋本駅までの延伸が遅かったことから、橋本駅前の開発は近年になって進みました。
「橋本駅」は交通の要衝ではあっても、神奈川県の北西側の県境にあって西側は山間部で山梨県堺とも近く、言わば辺境にあり、外延的な発展は望み薄でした。しかし2013年9月、2027年にリニア新幹線の名古屋までの開通と併せて、橋本駅南口エリアにリニアの新駅開設が決まりました。
下記のグラフのとおり、リニアの「橋本駅」周辺は、2014年以降地価上昇が続いています。
この地価上昇を見ると、「橋本駅周辺」は商業用地だけでなく、マンション用地等の不動産ニーズも高まっているようです。
ここ数年は、都心は都心回帰による根強いマンション需要があり、マンションの分譲価格は建築費と地価の上昇分を上乗せして高騰しました。建築費は高止まりしていますが、それでも旺盛な都心でのニーズで、マンション用地のニーズは底堅いです。
一方、郊外の分譲マンションは建築費上昇分の価格転嫁が難しいので、デベロッパーは用地取得に慎重です。相模原市の横浜線沿線エリアも、標準的な新築マンションの分譲価格は3000万円台前半で、慎重にならざるを得ませんでしたが、「橋本駅周辺」については、都心への利便性と将来性により価格転嫁が可能とみているのか、用地ニーズは高まり、地価は上昇しています。
とはいえ、「橋本駅周辺」ではマンションや戸建住宅の大規模開発はまだこれからです。ここ数年世帯数は微増であり、人口もほぼ横ばいです。都心回帰のなかで、東京圏の人口・世帯数の流れは、都心中心区や臨海部のマンションか、川崎市の中原区(武蔵小杉)のように都心近接のエリアに向かっているので、郊外エリアは、駅前以外は若い世代のファミリーの流入は難しくなっているのが現状です。しかし、リニア新駅の設置で、橋本駅周辺は大きく様変わりする可能性があります。
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隣の相模原駅と一体での発展を狙う
相模原市のHPを見ると、リニア新駅開設に合わせて、橋本駅周辺エリアを「産業の活力と賑わいがあふれる交流拠点」とし、「広域交流」「複合都市機能」「ものづくり産業交流」にゾーニングし、京王相模原線橋本駅舎の移設も想定しているようです。
相模原市のHPには「橋本駅周辺地区のまちづくり」と併せて「相模原駅周辺地区のまちづくり」が掲載されていますが、相模原市は橋本駅と隣接するJR横浜線「相模原駅エリア」を首都圏南西部の広域交流拠点として一体的な都市計画により整備しようとしています。
相模原駅前は、米軍用地が返還される
相模原駅の開発でキーとなるのが、「相模総合補給廠(ほきゅうしょう)」と言われています。
相模原駅の横浜線北側にある「相模総合補給廠」は、現在もアメリカ陸軍の施設があり、兵器等の物資が保管されています。全体で214ヘクタールもあります。2008年の日米両政府の合意に基づき、2014年に相模原駅北側に隣接する15ヘクタールが返還され、併せてその北側に隣接する敷地(約35ヘクタール)の日米共同利用と、両敷地の東側の境界部分の南北に細長い帯状敷地(約2ヘクタール)を鉄道(小田急多摩線の延伸)・道路敷地としての返還が決定されています。
さらに相模原市としては、この「相模原駅エリア」に広域商業施設、コンベンションホール(広域交流施設)、業務・行政・文化施設を整備する予定です。一方で、現在新宿駅⇔新百合ヶ丘駅⇔唐木田駅を結ぶ小田急多摩線を延伸し、相模原駅を経由してJR相模線の「上溝」まで繋ぐ計画が進められています。小田急多摩線が繋がると、「相模原」も都心に直結することになります。
リニア開通と新駅開設により、「橋本」が都市として発展するためには、新しいビジネスの展開(産業の振興)が鍵を握っています。西橋本エリアと、大山町から南橋本エリアにかけて立地する広大な大型工場や物流施設の敷地は、新しい産業振興ための適地となるかもしれません。というのも、「橋本」「相模原」一帯は地震に強い相模原台地にあるので、災害に強い施設を建設したり、誘致したりできます。先ほど紹介したアメリカ軍の「相模総合補給廠」があるのも安定した地盤があるからです。JR横浜線「淵野辺」から徒歩20分の場所には「宇宙科学研究所」もあり、災害に強い施設を集積できる可能性があります。
定期は品川まで月5.5万円!?
8年後の2027年開業に開通するリニア中央新幹線は品川駅と名古屋駅の間286㎞を40分で結びます。橋本新駅は品川駅から40㎞、時間にすると5~6分。料金は東海道新幹線より数百円高くなる程度とのことなので、片道1,500円で1カ月定期55,000円程度でしょう※。通勤するのにOKの水準です。
※新幹線の京都⇔新大阪(39km)で片道は、乗車券560円特急券860円の1,420円で、1カ月定期47,630円。
ただし、開通後リニアは1時間に5本程度で、運行形態は品川⇔名古屋ノンストップが1時間当たり4本、「中間駅」停車は1時間当たり1本の予定のようです。そうなると、通勤としての利用はかなり制約されるかもしれません。なお、リニアが大阪まで延伸されると品川⇔大阪は約67分です。計画では2045年開通ですが、8年前倒しになると2037年に開通です。
「品川駅」のステイタス向上で「橋本駅」もランクアップ
相模原市としては、リニア新幹線新駅による経済効果を、ターミナル駅なら2,244億円で1万人程度の雇用、中間駅に留まるならば、経済効果は2,244億円の3割減と見込んでいるようです。
ちなみに、東海道新幹線の「新横浜駅」は1964年に新設されましたが、開設直後は「こだま」が1時間に1本で、開設後もビル建設は進まずラブホテルが乱立した時代もありました。50年たった今では全車種の停まる主要駅となり、駅前はビルの集積するビジネス街です。
「新横浜駅」の進化をモデルとすると、「橋本駅」は時間がかかるとしても、品川へ5~6分、名古屋に約35分、大阪約60分のアクセスにより、東京南西部と神奈川北西部の玄関として、ビジネス街へ変貌していく可能性大です。
一方、「品川駅」は2020年の東京五輪にあわせて田町駅との間の品川車両基地跡地に山手線新駅「高輪ゲートウェイ駅」を開設します。この跡地は約13ヘクタールあり、新駅開設後も2027年のリニア開通に向けてオフィスを中心に再開発が続きます。
2027年のリニア開通後、品川駅は東京のもう一つの玄関になります。「東京駅エリア」に比べると、周辺のビジネスゾーンが狭いのですが、リニアの玄関であることと、羽田空港に近いこともあって、「東京駅エリア」を凌駕する可能性も大です。「品川駅」のステイタスが上がると、「橋本駅」も自動的にランクが上がります。
リニアが大阪まで延伸されると、東海道新幹線はリニアの代替路線となり、リニアが日本の大動脈となります。「橋本駅」は東京南西部と神奈川北西部の拠点であり、東京・名古屋・大阪を約1時間で直結する大動脈の沿線ターミナル駅として、人の流れと企業や商業施設の集積が起こるのは必然ではないでしょうか。
当然、「橋本駅」から「品川駅」へ通勤でリニアを使う人々も、時間がかかるかもしれませんが、増えてくるはずです。人口減少の時代になっても「橋本駅」は間違いなく住宅地として人気が上昇する街でしょう。
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