今回は、東京・文京区内の高級住宅地である小石川・小日向を抱える「茗荷谷エリア」および、文京ブランドの価値を分析します。全域山手線の内側に在りながら中心商業地を持たない文京区は、今ひとつ地味な都心の区です。都心のビジネス街や繁華街に近接していますが、文京区内の高級住宅地も千代田区・港区の高級住宅地と比べると認知度がかなり低いと言わざるを得ません。ただし、電車での都内主要地点へのアクセス力は非常に高く、中古マンション価格は割安と考えてもいいでしょう。(不動産鑑定士・安澤誠一郎)
(1)文京区の人口は向こう20年増加予想
台地と低地が入り組む文京区の地形
文京区の交通事情は、6路線が走行
茗荷谷エリアは文京地区の中心
(2)他のブランドエリアとのアクセスを比較
(3)茗荷谷と、人気エリアの中古マンション価格比較
(1)文京区の人口は向こう20年増加予想
2018年1月1日の文京区の人口は21万7,419人。前年度に対する人口増加率は1.6%で、中央区・千代田区・港区に次いで23区中4位。
23区の2010~2040年までの人口予測では、東京都23区の人口ピークは2030年でそこから減少に転じます。人口の増減は23区でも異なり、都心回帰が続くのか、千代田・中央・港の都心3区は2040年まで人口が増加する見込みとなっています。文京区のピークは23区の平均と一致していて、2030年となっています。
東京都区市町村別人口の予測(平成29年3月)
【23区全体】
2010年 894.6万人
2020年 959.4万人(↑)
2030年 978.8万人(↑)
2040年 952.4万人(↓)
【文京区】
2010年 20.7万人
2020年 23.3万人(↑)
2030年 24.4万人(↑)
2040年 23.9万人(↓)
※出所:東京都の統計
台地と低地が入り組む文京区の地形
文京区は海抜3~34m、5つの台地(関口台、小日向台、小石川台、白山台、本郷台)と低地の入り組んだ地形です。
都心を走行する東京メトロ銀座線・丸ノ内線は開設が古いので、軌道は地上から掘り下げて作られていますが、台地と低地の入り組む文京区では、地下鉄丸ノ内線が地表を走る区間が複数見られます。
また、皇居(江戸城)の北側に位置する文京区は、江戸時代は親藩譜代の大名屋敷の立ち並ぶ屋敷町で、明治時代になってからも政治家、文化人の住む山の手の住宅街として発展してきました。前田藩の上屋敷に建設された東京大学を初めとして、学校の多い文字通り東京の文教地区であり、東京大学、東京医科歯科大学等の大学病院も集積します。観光面では遊園地と球場の東京ドームシティ、庭園の小石川後楽園、六義園、小石川植物園等と護国寺、湯島天神、根津神社等の寺社が区内に分散しています。
文京区の交通事情は、6路線が走行
文京区は山手線の内側にあって、皇居と丸の内・大手町ビジネス街と霞が関官庁街の千代田区に北側で隣接するものの、文京区内には集客力のある繁華街やビルの集積するオフィス街が形成されていません。都心中心部へ連絡する東京メトロ銀座線や丸の内線など地下鉄6路線が区内を走行しており便利ですが、文京区内にはJRの駅がありません。中央線のお茶の水・飯田橋に近接するものの、駅前中心エリアは神田川の南側にあって、北側の文京区側は分断されています。唯一水道橋は、文京区側にドームシティがあり賑わいを見せますが、商業中心エリアとしては規模が小さいようです。
茗荷谷エリアは文京地区の中心
では今回取り上げる、「茗荷谷エリア」はどんなところでしょうか。
茗荷谷エリアは、茗荷谷駅はオフィス・マンション・店舗の混在する春日通り沿いの小石川台地南端の高台に位置しています。東大本郷と並ぶ文教地区の中心で、お茶の水女子大、拓殖大学、跡見学園等の大学があります。さらに国立の名門校である、筑波大学付属中学・高校、東京学芸大附属竹早中学・高校、お茶の水女子大付属中学・高校があります。
春日通り南側の小日向は閑静な住宅地ですが、地形的に茗荷谷駅西側が台地高台で、東側は丸ノ内線の走行する低地で入り組んでいます。
春日通り北側の背後は閑静な小石川の住宅地。また播磨坂は道路の中央が桜並木の公園で松平播磨守上屋敷にちなみ名づけられた播磨坂の坂下に小石川植物園があります。
小石川植物園は正式には「東京大学大学院理学系研究科附属植物園」。1684年(貞享元年)に徳川幕府が開設した「小石川御薬園」が明治になって東京大学の附属植物園となり一般にも公開。白山台地の高台から低地に形成された4万8,880坪の広大な植物園で、泉水の周りは庭園になっています。
(2)他のブランドエリアとのアクセスを比較
では、文京区の主要駅は、都心へのアクセス力が高いのでしょうか?
下表は、アクセス力の比較のため、文京区の駅(茗荷谷駅、白山駅、千駄木駅)と、港区の駅(広尾駅、白金台駅)について、東京都心主要駅10駅(東京駅、大手町駅、銀座駅、赤坂見附駅、表参道駅、六本木駅、渋谷駅、新宿駅、池袋駅、品川駅)への平均所要時間です。ヤフーの「路線情報」で検索して調べました。
平均の最短所要時間は、南麻布駅・広尾駅の高級住宅地を抱える「広尾駅」が17.9分ですが、2位の「茗荷谷駅」も18.1分で均衡しています。アクセスだけで比較すると「茗荷谷駅」は人気の「広尾駅」エリアと変わらないのです。
また、同じ文京区内でも比較してみましょう。「茗荷谷駅」は18.1分で、約23分の「白山駅」「千駄木駅」に比べるとアクセスがいいことが分かります。「茗荷谷駅」を擁する丸ノ内線は、他路線との接続が良く、運転間隔も短いことが、影響しているのでしょう。
(3)茗荷谷と、人気エリアの中古マンション価格比較
次に、茗荷谷駅と、都内の人気エリアの「中古マンション価格」を比較してみましょう。
中古マンションの売り出し価格から、坪単価を求めて、70㎡の価格に換算したのが下表です。「広尾」を100とすると、「人形町」87、「茗荷谷」は71。準郊外の「二子玉川」は67で、茗荷谷とあまり変わらない水準です。
また、以上の人気エリアについて、電車での都心主要駅へのアクセス力を比較してみましょう。
先ほどと同様に、東京都心主要駅10駅(東京駅、大手町駅、銀座駅、赤坂見附駅、表参道駅、六本木駅、渋谷駅、新宿駅、池袋駅、品川駅)への平均所要時間をヤフー路線情報で調べてみました。
こうしてみると、都心主要駅への平均的な所要時間では、「茗荷谷駅」は「広尾駅」や「人形町駅」とは均衡しており、準郊外の「二子玉川駅」より渋谷、表参道を除くと所要時間がかなり短いということが分かります。
「茗荷谷駅」の適切な価格水準は、先ほどの中古マンション価格の指数で表現すれば、「二子玉川駅」より10ポイント以上は高く、「日本橋駅」に近接する「人形町駅」よりは5ポイント低いくらいの水準が妥当であると判断します。
ブランドの価値というのは街並み、所得階層とか別のファクターがあるとしても、文京ブランド「茗荷谷駅」のアクセス力、地理的優位性、文化的なエリア等を勘案するなら、中古マンション価格の水準は割安といえるのではないでしょうか。
【関連記事はこちら】
>>文京区の「新築マンション人気ランキング」千石、本郷、茗荷谷、江戸川橋、本駒込など注目エリアのおすすめ物件は?【2019年3月版】
注目記事>>新築・中古マンション市場動向は? 注目物件や在庫状況など最新市況を不動産アナリストが解説
◆新築マンション人気ランキング |